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小説 偶然と必然、そして因果の叙事

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捜査第一課特別捜査係課長補佐並木義光は未解決事件であるタクシー強盗殺人事件の捜査を担当する中、書庫で貿易商夫婦の殺人事件のファイルを目にする。この事件も未解決事件であり、2つの事…
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記事一覧

第5章「チラシと手紙」-1

 6月に入ると佐藤と𠮷良はアパート付近に靴を隠して、履き替えて逃走した仮説の検証実験を下…

本郷矢吹
3日前
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第4章「施設「太陽の子」」-3

 長男の一馬は結婚した際に戸籍登録をしていたので、除籍後でも居場所はすぐに分かった。だが…

本郷矢吹
8日前
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第4章「施設「太陽の子」」-2

 大野と会った翌日の4月13日の土曜、並木は内ゲバ事件の子供が預けられた「太陽の子」を訪ね…

本郷矢吹
13日前
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第4章 施設「太陽の子」-1

 小山と菅谷が新井の捜査をしている間、浅見は当時の警察犬の指導員に話を聞いていた。すでに…

本郷矢吹
2週間前
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第3章「被害者の過去」-4

 被害者は新井定一(当時62歳)という1933年5月1日生まれの男で、本籍地は長野県佐久市だっ…

本郷矢吹
3週間前
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第3章「被害者の過去」-3

 一方の小山と菅谷は佐藤たちを手伝いながらも、警察犬追跡の回避方法を専門家に聞く自分たち…

本郷矢吹
4週間前
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第3章「被害者の過去」-2

 この組分けはちょうど長机に座っていた位置で決め、隣同士で相談しやすいように配意した。各班は自分たちに与えられた捜査項目に対して何をすべきかメモしながら真剣な表情で話し合っていた。 「班長。ちょっと良いですか?」  佐藤と𠮷良は立ち上がって浅見の机に歩み寄ると2人で導いた結論を相談した。その際佐藤が並木を見たので並木もこれに加わると、佐藤は「防御痕のないこと」に対する推察を口にした。  一般的に包丁などの刃物が犯行に使われると被害者は刺されないように反射的にガードするがこれを

第3章「被害者の過去」-1

 出来ることに全力を尽くす。それは物事をなし遂げるための基本である。しかしどのような方法…

本郷矢吹
1か月前
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第2章「1枚のメモ」-3

 週明けの3月18日の月曜。川口中央警察署は慌ただしい朝を迎えていた。1階のロビーには免許…

本郷矢吹
1か月前
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第2章「一枚のメモ」-2

 次の日の土曜の夜、並木は久しぶりに大学時代の友人たちと酒を交わしていた。ひとりは鈴木晴…

本郷矢吹
1か月前
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第2章「1枚のメモ」-1

 3月15日の週末、並木は菅谷に書庫からタクシー事件の検証結果と同時間帯検問の捜査報告書を…

本郷矢吹
1か月前
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第1章(2つの事件)-4

「おはようございます。昨夜は帰らなかったのですか?」  並木が朝洗面所で歯を磨いていると…

本郷矢吹
2か月前
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第1章(2つの事件)-3

 川口中央警察署に到着すると3人の巡査部長が机に座って待っていた。案内されたのは4階にあ…

本郷矢吹
2か月前
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第1章(2つの事件)-2 

第1章ー2 「この度の異動で捜査第一課での勤務を命じられました」  埼玉県警察本部刑事部捜査第一課は県警本部7階の一画にあり、広さ200平米ほどの中に庶務係やデスクと呼ばれる連絡調整係の机などが並んでいる。捜査第一課は刑事部で最大の人員を擁(よう)する課ではあったが、捜査員の大半は各警察署で捜査に従事しているためここにいる者は事務方ばかりだった。  2024年3月12日、4名の捜査幹部が春の定期異動で捜査第一課に着任した。異動者は捜査第一課長から辞令を受け取るため一列に課長の