見出し画像

週間手帖 十三頁目

2023.12.12
秋がゆらめいた。息を吸い込んだら肺がひんやりと冷えて、すぐに熱を補おうと心臓が忙しく呼吸をしだす。生きようとしてるんだ、と思った。これがいつ絶えてしまうかなんて、知る由もない。きっと自分が死ぬという感覚は、死ぬ直前にしかわからない。

2023.12.03
人が変わる瞬間を見た。瞳の中には青い炎が静かに煌めいて、堂々たる出で立ちで、自信という言葉じゃ安いほど、自信に満ち溢れていた。そして、至って冷静だった。変わる日を重ねて、新しい君になっていく。私の知らないところで君はまた新しいキミになる。今この瞬間も、だ。数字はもはや飾りに過ぎず、日々を凌駕していく君の前では一切の役に立たない。それでも日々を編み、命を燃やす月日を追わざるを得ないのだ。脳の真ん中あたりで、いつか落ち合うその日を捕まえるまで。麗らかな声がまたひとつ、遠くで響いた。

2023.12.16
次の手を悩んでいる間に椅子はすべて埋め尽くされる。奇数はいつだって弾かれた、そう、いつだって。二度目の奇跡を祈るたび夢破れる。それでもいつかと願う、愚かな生き物がいる。

2023.12.17
若草はいまを生きることに必死で、青さを愛おしく思うのは何十年も未来の話。どうにも上手くいかないことばかりで、できることなら美しいまま、罪を忘れていたい。そんな幻想は息をする間もなく消え、いつかの日の後悔が連なって雲を張る。遠い君に、何かあげられるものはなかったのだろうか。君がときめいた5月はまだ残っているんだろうか、君のなかに。祝福はあったのだろうか。いや、あったんだよと、知らない日を愛おしくなぞる。怖くないように、と背負われたあの日が瞬いている。

2023.12.18
言えないことから、言わないことが増えた。
我儘だから、痛みがなくなればいいのにね。
そりゃあ、もう、当たり前に悲しいんだと。
そりゃあ、もう、なんだって一番が良かったんだと。
そりゃあ、もう、その無神経さに怒ってさえいるんだと。
言えないままでいた。言えなくなってしまった。
どうやら痛みを感じない人、らしい。

2023.12.20
あの人には、それしかなかった。白は赤に汚すし、固い扉の中に籠りっぱなしだし、難しい顔はするし。ただ、とびきりの美しい言葉を見つけ、拾い上げることに長けていて、筆を滑らせれば、君はどこまでも飛んで行った。たとえ月までも。
「忘れることって、きっとそんなに悪いことじゃないよ」
窓から見えるそれよりも、もっとずっと近くから聞こえた懐かしい声をいつか忘れてしまう日が来ても、
「それでも失いはしないでしょう?」
心配性なあなたがそう言うのなら、きっとそうかもしれないな。指でなぞる文字から声が生まれて、また会えるから。あたらしい街に行っても、あたらしい家に住んでも、あたらしい恋をしても、月が顔を覗かすその日は、きっとまた会えるから。

2023.12.21
さいあくを集めてさいこうにしよう。
魂が燃えて、いつか夜を駆けるまで。
嘘なんて奪われてしまえ。
真実が心なら、最期まで人であれ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?