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もう一つの資本主義経済。『「その日暮らし」の人類学』小川さやか


小川さやか先生の文化人類学入門。新書サイズでコンパクトながら、ちょっと硬派で、文化人類学の先行研究とかをしっかり勉強することができます。もちろん、こういう学術的な部分を読み飛ばしてもOK。

Living for Todayとは、その日その日を生きること。日本で暮らしていると、一日一日の積み重ねが一ヶ月で、一年で、といったことには無頓着になります。今日と同じ明日が来ると思ってしまいがちだし、1年後とか3年後の自分の予測ができたり、計画をたてたりするのは当たり前だと思いがち。

最近でこそ、自然災害や病気、戦争といった突然のことに人生が大きく狂う経験もするようになりましたが、それでもまた、以前の「日常」が戻ってくると根拠もなしに信じています。でも、日本以外の国に目を向けると、明日のことはわからない国の方が多いし、行き当たりばったりで生きる人の方が多い。

そして、私も人生の折り返し地点を過ぎて、自分の体がいつ病気や怪我で動かなくなるかもしれないし、家族が突然いなくなるかもしれない可能性があることを知りました。だから、最近は日本以外のいろんな国の社会を動かすOSを紹介してくれるルポとかノンフィクション、文化人類学のエッセイにとても惹かれます。

例えば、アマゾンの先住民のピダハンという人たちは、食料を加工して保存することをしない。儀式もしないし、伝承文化もない。それどころか、直接体験以外のことを伝える言語体系もないから、過去や未来、空想なんかを表現できず、そもそも関心もないとか。

それから、アフリカで商売をする場合、統一的な市場がなくて、宣伝する手段もないから、「流行」をつくることができず、個人の好みにあわせて商人たちが買い手の顔をみた少数取引中心の商売をするし、Aの商売がうまくいかなくなれば、すぐにBもしくはCと仕事を変えていくのが当たり前。

多くの人は、なにかの職業を専門的に勉強したりせず、圧倒的多数の人が非正規で働いていて、状況が変化するたびに、友人関係を基盤にしつつ、経験を生かしたリスク分散の仕事をするからなのだとか。

中国でコピー商品が多く出回るのも、実は中国経済ならではの合理性があるからです。もともと、日本や韓国でも経済発展はコピー商品から始まりましたが、中国のそれは、安くて安心できる商品が大量に作られるようになった社会の副産物ともいえるものだとか。おもしろすぎます。

エスカレーターのような人生は、一旦どこかで破綻したら、ものすごく弱い気がします。仕事をしなくても責められず、失敗しても敗者復活が可能で、状況が整ったらそれなりに働き、家族と一緒にハッピーに暮らしたり、家族のために海外で商売する冒険に出たり。

自分はもう若くないので冒険はできませんが(したいけど)、本を読むと冒険の疑似体験ができるので、思考がちょっと柔らかくなるかもしれません。できるなら、可能な限り、ちょっとづつ非日常を経験しながら、一日一日を楽しみたいですしね。


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