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コメディなのに笑えない映画『帰ってきたヒトラー』ドイツ、2014年


第二次世界大戦末期、自殺したはずのヒトラーが2011年の未来に蘇って、人気者になるというお話。最初、ヒトラーは全くわけがわからず、倒れていたところをキオスクの店主に助けられ、現代をウロウロします。

TV局を首になりそうだったザヴァツキという主人公は、自分が撮影したフィルムにヒトラーそっくりさん(実物)が映り込んでいるのに気づき、彼と一緒にドイツを旅しておもしろい映像をとり、TV局に戻れるよう画策します。

ところがヒトラーは本物なので、21世紀のドイツが自分の目指した理想と真逆の状況になっていることを知り、憤ります。彼のマジな言動で、色物のはずだった撮影が、ドイツ社会の今の矛盾を炙り出し、ヒトラーの言っていることがだんだん「正論」になっていってしまいます。

TV局に戻ることが出来たザヴァツキは、トーク番組にヒトラーを出演させます。ヒトラーは、第二次世界大戦前の持論を展開するのですが、これが現代の若者に大受け。彼を主人公に、映画をつくる話までもちあがります。このあたりになると、ヒトラー(のそっくりさん)を利用していたはずのザヴァツキが、実はヒトラーが本物だということに気づくのですが、周りのみんなに訴えたところで、誰も信じてくれません。

そして、21世紀のドイツに慣れたヒトラーが、自分の野望を実現しようと行動をはじめる……。なんかもう、余韻がすごくて何ともいえない映画でした。

最初は、とにかくヒトラーのトンチンカンな行動がおもしろいコメディなのですが、だんだん彼のいうことが正論に聞こえてきて、支持者を増やしていくところが怖いです。この映画では、ヒトラー役の俳優さんの演技力もすごいのですが、背が高くて恰幅がいい軍人で、肩幅もあって、貫禄があったことも影響しそうです。

実物のヒトラーは「ちょび髭の小男」だということなので、もし、小男であの演技力があったら、ここまで人気者になったかどうかわからない気もします。現代は、ビジュアル社会ですから。本当の小男ヒトラーが現代に蘇った、というのを映像で見てみたかったですね。

原作もあるそうなので、興味のある方はぜひ。それから、この映画に触発されて『帰ってきたムッソリーニ』という映画もつくられたらしいので、そちらも見てみたいです。

邦題:帰ってきたヒトラー(原題:Er ist wieder da)
監督:ダーヴィト・ヴネント
原作:ティムール・ヴェルメシュ
出演者:オリヴァー・マスッチフランツィスカ・ウルフ、ファビアン・ブッシュ、カッチャ・リーマン、リストフ・マリア・ヘルプスト、フランツィスカ・ウルフほか。
制作:ドイツ(2015年)116分



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