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オタクも中国語も楽しい。『オタク的中国学入門』明木茂夫


中国古典文学・中国語学専門の教授による、オタク的な中国ワールド。
とにかく濃く、そしておもしろいです。

第一章では『電車男』の台湾版と中国版を比較して、つっこみつつ、なぜそういう翻訳になったかを検証しています。これがいちいちおもしろくて、笑えるやら感心するやら。

【日本語】つーか持ってなかったんですか
【台湾版】原如來她没有電腦呢(なんとまあ、彼女はパソコンを持っていないんですよ)
【中国版】我很吃惊她居然没电脑(彼女が意外にもパソコンを持っていないことに私は驚きました)
【日】やっちまった感バリバリだったのですが・・・
【台】我一直覺得説錯話了呢・・・(私は言い間違えたとずっと感じていましたよ)
【中】心里老感觉这下糟了・・・(ずっと心中でこれはしまったと感じていました)


他にも「もう疲れたよパトラッシュ・・・」とか、「キャラ違うやんけ」とか、訳しにくそうな言葉てんこもり。「小学校の時最初で最後の下着泥した勇気でよければくれてやる!」とか、本当にすごい訳しにくそうなオタク的表現ばかりをまあ、仕事とはいえこれだけ訳せたものだと感心しかり。

もちろん、訳し間違いもあります。それについては、どうして間違ったのか、きっちり検証があるので、中国語がわかる人には、本当に楽しい文章です。

第二章は、地図帳の話。
これはちょっと学校教育の問題で、近年のなぜか流行りのカタカナ表記のおかげで、中学高校の地図帳ではわけのわからない地名があふれているというお話。人名も、不必要にカタカナ表記になっているのだそうです。

ワンリー長城    なぜ「万里の長城」をこう書く必要がある?
ター運河      「大運河」をなぜ大だけ中国語読み?
マオツェートン   なぜ毛沢東(もうたくとう)じゃいけないの?

そもそも、日中国交正常化のときに、政府双方で「お互いの感じは、自分の国流に読みましょう」となったんだから、日本人が漢字を日本語読みしてどこが悪いのか? まあ、英語とかが専門の人が通訳で困る話はよく聞くけれど、そういう人だけ自分でチェックすればいいだけだと思います。いまどきの義務教育の教材は、ちょっとわけわからん状態だというお話。

ほかにも、数学(正しい数の数え方講座)、国語(古代、中国はエジプトだった!?)、情報処理(電脳時代の漢字部首)、音楽(文字コードで解く! トンデモ日本語の謎)、図工(知られざる中国模型の世界)、理科(天文)(死せる孔明、UFOを呼ぶ?)などなど、目次を眺めるだけで期待できそうなおもしろネタばかり。

この本は2007年出版なので、オタク的情報が若干古い、もっとディープな最新情報が欲しいという方は、さらに強烈にオタクの道を貫いている、はちこさんの『中華オタク用語辞典』をおすすめします。

ネイティブによる日本オタクの解説は、それはもう愛のこもったすばらしい作品です。最初は同人誌的だったようですが、あまりに売れたので正式に出版となり、さらに売れているそうです。すばらしい。


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