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破滅的におもしろい。『石川くん』枡野浩一


一度でも我に頭を下げさせし 人みな死ねと いのりてしこと

この歌が、あの有名な石川啄木のものだと知ったときにの衝撃は、かなりのものでした。なにせ、石川啄木については、学校の教科書にのっている、尾崎豊チックな「15の心」的な歌しか知らなかったので。いろんな意味で、ストレートな人で驚きました。石川啄木さん、率直すぎ。

友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 
花を買い来て
妻としたしむ  (石川啄木『一握の砂』)

友達が俺よりえらく見える日は
花を買ったり
妻といちゃいちゃ  (枡野浩一訳)

この本は、詩人の枡野さんが、石川啄木の友人という設定で、彼の歌を現代語訳したり、おしゃべり風に紹介している本です。もとになったのは、『ほぼ日刊イトイ新聞』の連載。かなりフランクな語りなので、ちょっと最初はびっくりします。

だけど、もっとびっくりするのは口調じゃなくて、おしゃべりの中身の方。石川啄木といえば、貧乏でも真面目に働いて、親孝行な歌を詠んだ、いかにも学校の教科書に載りそうなイメージの人だったのですが、枡野さんの紹介文を読むとぶっ飛んでしまいます。

はたらけど
はたらけど猶わが生活楽にならざり
ぢつと手を見る   (石川啄木『一握の砂』)

石川啄木のこの歌はとても有名だと思いますけど、でも本人は全然働いていなかったんだとか。仕事サボるし、家族に仕送りしないし。しかも、あちこちに借金しても、そのお金でお酒を飲んだり、女性を買ったり、そして借金を踏み倒したり。かなり、いい根性……というか、底なしの根性しています。

たはむれに母を背負ひて
そのあまり軽きに泣きて
三歩あゆまず   (石川啄木『一握の砂』)

こんな親孝行な歌を詠んでおいて、実は自分の母親をいじめることに快感を覚える……なんてことを日記に書き残しているのだとか。啄木さん、ひどすぎる。だから、初恋の人で、14才で結婚した奥さんも出ていった。まあ、出ていくよね、それ。

明治時代の偉人とか有名人は、野口英世といい、石川啄木といい、現代人からは信じられないくらいトンデモな人たちで、とにかく驚きます。まあ、まともに働かないで、文人で食べていこうなんて人は、普通ではやっていけないのかもしれないし、それは現代でもそうかもしれないのですけど。

石川啄木は、26才で亡くなっているそうです。ものすごく、太く短く生きた人。何度も何度も、借金させてくれるお友達がいたのだから、ご本人はきっと魅力的な人だったんだと思います。もしかすると、現代の私たちが真面目すぎる(!?)のかも。

歌と詠み手、小説と作者。どちらも別々のものとして考えなければいけないのだけれど、それでもつい同一視してしまうのが一般人。そういう意味で、石川啄木の歌の良さと、彼の人生のダメダメな感じは、あまりに対照的でいっそ清々しいほど。

当時、中2だった娘にも勧めたら、早速読んでけらけら笑ってました。「今度、国語の先生に教えてみる!」とのこと。さて、国語の先生はいったいどんな反応をしてくれたのか。



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