マガジンのカバー画像

創作民話 関係

111
創作民話をまとめています
運営しているクリエイター

#怪談

SS 戻った男 【#紫陽花を】シロクマ文芸部参加作品 (910文字位)

 紫陽花を手に取りハサミで切り取る。毒はあるが煮詰めれば薬として使えた。  吊られた蚊帳の中で畳の上にあおむけに女が横たわっている。青白い顔で生気がもう無い。 「ケホケホ……」 「姉さん、お薬よ」 「もういいわ……早く死にたい」 「いつも、そればかりね」 「だって苦しいんだもの」 「あの人が帰ってくるわ」 「戻らないわ」  姉の許嫁は、仕官のために武者修行で旅している。剣客として認められれば俸禄をもらい家を持てた。姉と私は戻らないと確信していたが……  雨が降り続き、

創作民話 前妻の古鏡

古道具屋は手鏡を見せながら 「いわくつきですよ」と断りをいれた。 以下は古道具屋の語り 「武家の奥様のもちもので」 「何代も嫁ぐときに持たされた鏡と聞きました」 「裏を見ると縄模様の奇妙な細工がされています」 「もしかしたら上代のものかもしれません」 「奥様は体も弱く、床にふせる事も多かったようで」 「長くは無いとご自身も悟っていたのでしょう」 「殿様に死んだらこの鏡の持ち主がいなくなる」 「後添いにお渡しして大事にしてもらいたい」 「と懇願されて殿様も了承いたしました」 「

創作民話 影あんどん

ほんわかした光を暖かく感じる。 子供は、夜になるとあんどんを見るのが楽しみだ。 お金持ちの家に生まれたその子は、夜更かしを許されていた。 絵草紙を読みながら、ちょっと休むときに あんどんの炎がゆれるのを見る 表面の和紙に炎が映り、文様が浮かび動いているように見える。 「これは馬かな、これは茶碗に見える」 何も描かれていなくても、でこぼこで絵が浮かび上がる。 その日もなんとなく、あんどんを見ていると 棒のような、人のようなものが見えた。 じっくり見ていると、動いてるようだ。 棒

あめ売り

「今日もさっぱりだ」「生きていくのも面倒だ」 土手でごろ寝して、ぐちを言うのは、あめ屋 川原を見ると子供達が、川の石を集めて積み上げて遊んでいる。 うらやましそうに「俺も気楽に暮らしたい」 何をしても仕事が長続きしない しくじりが多くて嫌われる。 子供相手ならと、あめ売りをしたが売れない 何が悪いのか自分ではわからない 「おじちゃん」 見上げると五歳くらいの娘が立っている 「なにしているの」 土手に座り直して「休んでるんだ」 と答える 「おじょうちゃん、あめ好きかい」 あめ売

SS 焚火霊 #爪毛の挑戦状

夜道で焚火を見ながら侍は酒を飲む 「焚火があって助かります」 商人風の男が荷物を背負っている 「峠を下りると道に迷ってしまって」 商人は荷物をおろすと座る 「ここは霊が出るらしい」 侍は、つぶやく 「傭われた俺はここで幽霊を退治するために来た」 商人は不思議そうに 「幽霊とか恐ろしいですな」 侍は商人を見ると 「夜が明けて目が覚めると、食い物と酒が置いてあるんだ」 指さす先に食べた後の弁当がある 「でもな、それは俺が最初の日に持ってきたものだ」 商人が 「最初の日に持っ

SS 妖怪図鑑:一本松の女

大工の大三郎は女房を亡くしてから、仕事に身が入らない。 「お銀、あんないい女房は居なかったなぁ」 お銀は太っているが、気持ちのおおらかな女だった。 また鼻をぐずらせると首からかけた手ぬぐいで鼻をふく。 いつまでも悲しんでいる大三郎は気の弱い男だ しばらく夜道を歩いてると前方の松の木のそばで、一人の女が立っている。 「夜鷹かな?」 このあたりは川沿いで、巻いたむしろを持って立つ女は多い。 近寄ると「にいさん、どうだい?」と女は、着物のすそから足を出して見せる。夜なのに透き通る

SS 世界妖怪図鑑:妖しい花 創作民話

旦那が帰ってくると、血の付いたハンカチを貰う。 これはとても大事なものだ。 「今日は女だったよ」 大きな剣を鞘から抜くと、研ぎ始めた。 この当時は公開処刑が行われていた。罪人を群衆に見せながら 首を切り落とす。罪に対して罰を見せる事で、犯罪を抑止する。 血が処刑台から流れると女達は、ハンカチで拭う 魔力が宿ると信じられていた。 高く売れる場合もある。 私は台所に行くと、ハンカチを肌に当てる。 ハンカチの血は私の胸から吸収された。 「これでしばらくは持つわ」 私は人間ではな

SS 侍と鏡 #夏ピリカ応募用

次男の長左エ門は、姉から鏡を貰う。嫁入り道具は新しく買うので不要と言われた。男がこのような鏡を持っていても仕方が無いのだが大好きな姉からの贈り物だから粗末には出来ない。自室の道具入れにしまう事にする。「では長左エ門、家をよろしくね」病弱な姉は美しいがどこか影のある人で他家に嫁ぐのは無理のように感じる。「姉上も元気で」手を握りながら別れを告げる。嫁げばもう二度と会うことは無いと思うと泣きそうになる、軟弱な自分が愚かに感じる。この家は長男が居るので自分は何をするわけでもない、ただ

SS 燃える雨雲 #爪毛の挑戦状

※残虐な描写があります、注意してください。 子供がふらふらと歩く。二階にある部屋の中を食べ物を探すかのように歩き回る。私がここに来たのは昨日だ。親から売られると ここに閉じ込められた。 飢饉が来ると子供は売られた。「頑張るんだよ」十四歳になった私は貧農の子供だ。皆が食べる事を優先にする。子供を売る事で食糧確保するのは手っ取り早い。 母親は手をふって私を見送った。奉公に出されると言うが実際は人売りに渡された。私は恨むつもりもない。女の子は高く売れる。私は他の兄弟達の役に立

SS 猫が見ている

白い毛並みの私はペロペロと体をなめる。「またどら息子が吉原通いよ」女中がぶつぶつと独り言。大店の息子は無駄金を使って勘当寸前だ。私は横目で見ながら前足で顔を洗う。どうせ人なんて五十年も生きてないのだから好きにさせればいいのにと思う。 「しろや」猫なで声で私をなでる息子。まぁ触らせてあげてもいいわよ。こいつは無能と言うけど私は見ている。仕事熱心だ。店の帳簿もよく調べてるし店の品も丁寧に扱う。ただその努力は誰にも見せてない。吉原通いも、取引先相手の素性を調べる目的だ。酒を飲ませ

SS 夢は夜ひらく 創作民話

夜に目覚めると私は街へ向かう。私のような素性の判らない女はまともな場所では働けない。薄汚れた街角で立つと客が来る。お互いが納得できる値段で私は安宿に客を連れて行く。粗末なベッドしかない部屋で客は我慢できずに私に抱きつく。 少しばかりの金を貰うと朝日が昇る頃にくたびれた酒場に行く。私はその金で食事をして街の外へ歩いて帰る。 「どう?いい客は居るかい?」 顔見知りの太った女が声をかける。年老いているので客は寄りつかない。羨ましそうに私の顔を見る。私はこの界隈ではかなり美しい方

怪談 石子詰母娘呪縁起 すっきりしない話

遠州のとある豪農で母子が暮らしていた。並ぶと姉妹のように美しく見える。夫は死んだが裕福な暮らしで若い母親はまだ三十代で娘が十六になると結婚する事になる。隣村のやさ男が婿養子に入ると仲睦まじい夫婦で幸せになると誰もが思うが、母親が婿に恋をした。 あれこれ世話するが婿は娘の母親としか見ていない。娘も旦那をかわいがる優しい母と勘違いをした。母からすればどんなに世話しても所詮は娘の母親としか見られない。母はそれに怒りそして娘を呪う。 様々な呪い試したが娘はもちろん死なない。表面は

SS 最後のおつかい #ストーリーの種

「最後のおつかいだよ」  手渡された握り飯を手に持って家を出た。十歳になると村の風習で子供を山に送り出して山の神様に挨拶をさせるのが習わしだ。山頂に登り藁葺き屋根の村を見下ろすと、霧が濃いのかよく見えない。ゴホゴホと咳が止まらない。体が弱いのか僕は両親から疎まれていた。 「最後かぁ……」  山の神様に出会えない子供は殺される。そんな噂がある。年上の何人かが消えたことがあるが、誰も何も言わない。村人に殺されたのだろうか? 「神様いますか! 」  声を出して探す、元からどう

SS 中国の怪談 【紅葉鳥】 #シロクマ文芸部

 紅葉鳥を手に取ると口いっぱいにほうばる。油で炒めてゴマをちらして食べると絶品だ。男は夢中になって食べている。  男は河南省北西部にある洛陽の街を出て旅している。行商人の彼は街を行き来して稼いでいた。今回は道に迷い山中に家の灯りをみつけた。 「ちょうど夕飯です」  扉を開けて女が顔を出すとやつれているように見える。金を払う約束をして泊めてもらう。  夕飯は食卓の皿に山盛りにされた鳥の足だ。鳥の足が真っ赤にゆであがるので紅葉鳥といわれている。カリカリとしながらも汁気があ