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SS 妖怪図鑑:一本松の女

大工の大三郎は女房を亡くしてから、仕事に身が入らない。
「お銀、あんないい女房は居なかったなぁ」
お銀は太っているが、気持ちのおおらかな女だった。
また鼻をぐずらせると首からかけた手ぬぐいで鼻をふく。
いつまでも悲しんでいる大三郎は気の弱い男だ

しばらく夜道を歩いてると前方の松の木のそばで、一人の女が立っている。
「夜鷹かな?」
このあたりは川沿いで、巻いたむしろを持って立つ女は多い。
近寄ると「にいさん、どうだい?」と女は、着物のすそから足を出して見せる。夜なのに透き通るような白い足だ。
ごくりと生唾を飲み込むと、ふらふらと近寄る
男は誰もがすけべえだ

女はその足を見せつけるように足を出しているが
何か変だ
太いのだ、あまりに太い
その太さが胴と同じくらいに太い

大三郎は気がつくと立ち止まる、女はにやりと笑うと両手で
すそをすべて広げて見せた
「うわああああ」
女の足は、一本しかない。胴から足が直接伸びている。
「お前のような男は、こうしてやる」
女は妖怪『一本松の女』だった
見た人間を襲って、足を一本だけ引っこ抜く、
残虐で恐ろしいバケモノだ。

一本松の女が大三郎に近づくと、彼はその足にすがりつく
「お銀、お銀」
泣きながら足に接吻をする。
「おい何をしている」
一本松の女は、うろたえながら大三郎の頭をつかんで、
引き剥がそうとする

涙でべちゃべちゃの顔を、足にこすりつける大工を見ながら
「怖くないのか?」と聞くと
大三郎は「お銀の足に似ていた、すまねぇ」と素直に謝る
彼の女房は本当に太っていて、足がそっくりだと言う
「そんなに好きなのかい足が?」
うなずく大三郎を見ながら一本松の女はにっこり笑う。

それから、一本松の女は出なくなった。
今は大工の女房として暮らしている。

終わり

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画像は立風書房の「日本妖怪図鑑」から拝借しました。タイトル画像は表紙になります。


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