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創作民話 関係

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記事一覧

SS わがまま姫様【真夜中万華鏡】#毎週ショートショートnoteの応募用(480文字くらい)

「万華鏡が欲しいの」  わがままな姫様は万華鏡に夢中で職人に次々と作らせるが、それも似たようなモノしか作れない。 「もっともっと不思議なものを見せて」  そこに一人の若い技師があらわれた。姫様に誰も見たことがない万華鏡を作って見せると約束する。 「ただし……とてもお金がかかります」 「いいわ、お父様に頼むから」  技師は監督となり、職人を大勢集めて塔を作る。塔は白いレンガでとても美しい。 「姫様、万華鏡が完成しました」 「これが?」  指さす塔は先端にレンズをつ

SS 無敵の少年【雪解けアルペジオ】 #毎週ショートショートnoteの応募用(450文字くらい)

 一人の少年が遠くから進軍する魔王軍を見つめる。 「とうとう来たんだ……」  何もできないただの子供、何もできない男の子。そっと寄りそうように少女が隣に立つ。 「僕だけでいいよ」 「いいの、もういいの」  村の大人は、みんな魔王の討伐に狩り出されて死んでしまった。村に残ったのは老人と子供だけ。 「僕は歌うんだ」 「私も歌うよ」  男の子は詠唱をする、小さな声は聞こえない。唱和するように少女も歌う。子供ができるたった一つだけの力。  徐々に分散和音が重なり、高く高

SS 倉の娘【#セピア色の桜】#青ブラ文学部(700文字くらい)

 倉の窓からセピア色の桜が見える。鮮やかな桃色ではなく色あせた褐色の桜。腕を窓からだらりとたらして村を見た。 xxx 「おねえさん」 「なに?」  くるりとふりかえると十歳の少年がはにかんでいる。十六の私と彼はイトコ同士。 「お風呂に一緒に入れって……」 「わかった」  彼を台所に連れて行くと服を脱がせる。すぐ横が風呂で、脱衣所なんてない。彼のすべすべした肌を、わざと触ると体をくねらせる。 「くすぐったいよ」 「早く入って」  私もすぐ脱いで、浴室にはいると彼は

姫と魔物【新生活20字小説参加作品】

暗い森を歩む姫は素足のまま血まみれで迷う 私が死ねば世界が終わる、騎士はみな死んだ 生き残るためならどんな屈辱でも耐えてよう 「そなたは高貴な生まれ」ふくろうが鳴いた 「高貴さは魂に刻まれる」生まれを否定する ふくろうに迷わされて森をさまよい池につく 澱んだ池の水面から顔を出すのは、魔物の王 「そなたの体を食わせろ」うなずく姫を飲む 魂は不滅の力を持って姫は魔物の王となるか 笑う魔物は姫の顔になると世界から戦を消す #新生活20字小説 #童話

SS つながり【錦鯉釣る雲】 #毎週ショートショートnoteの応募用(450文字くらい)

  錦鯉 釣る雲間に 老爺かな  池を見ている老いた侍。節句の鯉が水面にゆらゆらと泳いでいる。 (子がいれば……)  隣家の鯉は黒と赤で美しい、孫も産まれて安泰だ。 「――跡継ぎが死ななかったら」  自分の子は素行が悪かった、隣家の長男と女を取り合い決闘で死んだ。 (馬鹿な息子だ……本当に馬鹿だ)  老人は池に涙を落とす。 「あの……」  あわてて涙をぬぐうと隣家の嫁が孫を抱いて庭で立っている。 「どうしました」 「赤ん坊を見せたくて……」 「ああ……かわ

SS 夜の蜘蛛【命乞いする蜘蛛】 #毎週ショートショートnoteの応募用(500文字くらい)

 前足をスリスリ、蜘蛛がじっと男の顔を見ている。 「命乞いする蜘蛛か……」  前足をこするのは蜘蛛の習性だ。夜の蜘蛛は縁起が悪いから、よく殺された。男は叩きつぶす手を止める。 「どうぞ、お許しください」  庄屋の旦那が、手を前に出して命乞いする。 「顔を見られたから……」  背中から横腹を突き刺した。男は夜盗だ、夜の蜘蛛は泥棒に入られる縁起が悪い生き物。 (確かに、この家じゃ縁起が悪いな……)  畜生働きをする夜盗は、庄屋から金を盗んで逃げ出すと、どこかで呼子

SS 魯鈍な男 【#一陣の風のように】#青ブラ文学部

 平三は魯鈍な男だ。下働きとして口入れ屋から仕事をもらうと薪割りや掃除をする。 「平三、これやれ」 「平三、のろまか」  仲間内からは馬鹿にされている、頭がにぶくて人の言っていることを理解できない。軽くあつかわれるとイジメもある。飯のおかずをとられるなんてのは普通だ。そんな時でも、平三は黙っていた。  こんな具合なので、女中からも馬鹿にされていた。でも、お道だけは平三にやさしい。 「なんか弟みたいで」  器量は良いとは言えないが、落ち着いて愛想も良い。そんな彼女が店

創作民話 ゆびきり地蔵

某月某日  「私は他国を巡り行商をしています」 「ときたまその地で奇妙な事を見聞きします」 むかいに座っている老人は興味がなさそうに相づちを打っている 「ある山奥の村で、ゆびきり地蔵の話を聞きました」 「地蔵といえば子供を守る仏さんです」 「なにか約束でも守ってくれるのかと思いましたが」 少し私は言いよどむ じいさんは相変わらず眠そうでも聞いてくれている 「その地の役主さんに聞いてみると物騒な話でした」 「まずその地蔵というのは口が開いています」 「ご存じのように普通のお地蔵

創作民話 ふたりの惣領

ある武家の惣領が朝帰りをした。しかし前日にも総領が家に戻っている。 ふたり居る総領を、それぞれを別室に通した。 我が家は長男の総領と次男坊がいる。家族に面通しをすると 誰が見ても区別がつかない。母親ですらわからないわからないとつぶやいた。 それぞれの前日の言い分を問いただすと 先に戻った方は茶屋からまっすぐ帰ったという 朝帰りした方は茶屋から戻る途中で眠くなり古寺の軒先で寝て朝に戻った。 どちらの言い分も茶屋から後の目撃者も居ないため確認ができない 総領同士は合わせないように

創作民話 辻男

夜中に辻を通ると男がいる。夜盗かと恐れるが何もしてこない。 こちらから問うても話さない。 ただ居るだけなのだが、片腕を上げて道を指している。 自分の行きたい方向でもないので無視をして歩くとまた辻にでる そして男がいる。 迷ったかと考えるがまっすぐ歩いているだけなので間違うわけもない 狐に騙されていると思いそこらの枝で男を追い払おうとすると 消えてしまう。 安心して歩き出すとまた辻にでる。 男もいる 怒鳴っても懇願しても男は何も話さないし何もしてこない ただ道を指しているだけ

創作民話 前妻の古鏡

古道具屋は手鏡を見せながら 「いわくつきですよ」と断りをいれた。 以下は古道具屋の語り 「武家の奥様のもちもので」 「何代も嫁ぐときに持たされた鏡と聞きました」 「裏を見ると縄模様の奇妙な細工がされています」 「もしかしたら上代のものかもしれません」 「奥様は体も弱く、床にふせる事も多かったようで」 「長くは無いとご自身も悟っていたのでしょう」 「殿様に死んだらこの鏡の持ち主がいなくなる」 「後添いにお渡しして大事にしてもらいたい」 「と懇願されて殿様も了承いたしました」 「

創作民話 死神の駕籠

俺は不貞腐れていた。当たり前だ、ろくな相棒が居ない。 この前は非力な野郎が相方だ 力がねえもんだからふらふらふらふら危なくて仕方が無い 客は文句を言って歩いて帰ってしまう 駄賃もでねぇ 親方に相方を頼んでも 経験の無い奴しか紹介されない このままだと食いっぱぐれだと悲観をしていたら、 人相の悪そうな男が近寄ってきた 「駕籠の相棒を探しているのかい」 やけになれなれしいな うさんくさいが背に腹は代えられない 「相方になるかい?力はあるか?」 その野郎は陰気そうに「経験はあるぜ、

創作民話 化け傘

天気なのに傘がある。 番頭が丁稚を呼ぶ。 「お客様の傘かもしれない、しまっておきなさい」 丁稚はさっそく納屋に入れます。商家なので客の出入りが激しく 傘のことなぞ誰も覚えていません。 丁稚が雨の日に使いを頼まれます 納屋にしまった傘を思い出し取りに行きましたが、それきり行方がわからなくなりました。 「使いを頼んだ丁稚はどこにいる」 ぷんぷん怒る番頭さんのため、みなが探しますが見つかりません。 丁稚は奉公に来ていますから実家に戻ったかもしれませんが これも空振りです 当時は子供

創作民話 かゆうま

その雑炊屋のつくる粥はまずい。 いやまずいを通り超して、致命的ですらある。 当時の衛生状態はひどいもので、売れればかまわないと思う商人も居た。 現代でも痛んでも大丈夫という人もいる。 利点といえば安い事。 一文二文で腹一杯になる。 貧乏人には生命線ともいえるが、食してあたれば死んでしまう代物だ。 「安いよ安いよ」雑炊屋は今日もえたいのしれない 肉やら野菜やらを煮込んでいる。 決してうまそうな臭いでもないのに、食べる客はいる。 そこに六尺はありそう大男がきた。 「おれにもその粥