創作民話 化け傘

天気なのに傘がある。
番頭が丁稚を呼ぶ。
「お客様の傘かもしれない、しまっておきなさい」
丁稚はさっそく納屋に入れます。商家なので客の出入りが激しく
傘のことなぞ誰も覚えていません。
丁稚が雨の日に使いを頼まれます
納屋にしまった傘を思い出し取りに行きましたが、それきり行方がわからなくなりました。
「使いを頼んだ丁稚はどこにいる」
ぷんぷん怒る番頭さんのため、みなが探しますが見つかりません。
丁稚は奉公に来ていますから実家に戻ったかもしれませんが
これも空振りです
当時は子供が大都市で行方不明になることは、普通だったそうです。
今の警察のような仕組みはありませんし、なによりも情報を伝える手段がありません
神社の狛犬のところに「迷子捜し」の張り紙が何枚も貼られていたそうです
もちろん幼い子の場合は人さらいもありました。
丁稚になれるほどの大きな子供でも万が一の可能性もあります
わからずじまいのまま時が過ぎます
それ以降に、雨の日になると子供が消えはじめます。
丁稚の管理もできないとなれば商家の信用が一気になくなり傾いてしまいました
店を畳む事になり、主人に頼まれ番頭が納屋を整理していると
番傘があります
番傘はその店の広告のために使われる事もあり屋号が入る場合もあります
その番傘は、この店のものではありません。
お客さまが他店から持ち込んで忘れたものなのでしょう。
まだ使えるなら古道具屋に売れるだろうと、傘を開きました。
店の主人は納屋で仕事をしている番頭がいつまでも帰って来ないので心配になります。
納屋まで行くと誰も居ません。
傘があるだけです
不信に思いつつも見知らぬ屋号の番傘を捨ててしまおうと乱暴に扱うと
壊れてしまいます。
そのまま外に出ると、番頭と子供達がぼんやりと座り込んでいます。
居なくなった子供が、みなそろっています。
子供達に、話を聞くと番傘を開いた後の記憶がありません。
化け傘であろうと、みなが噂をしました。
壊れた傘の行方は伝わっていません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?