創作民話 ゆびきり地蔵

某月某日 
「私は他国を巡り行商をしています」
「ときたまその地で奇妙な事を見聞きします」
むかいに座っている老人は興味がなさそうに相づちを打っている
「ある山奥の村で、ゆびきり地蔵の話を聞きました」
「地蔵といえば子供を守る仏さんです」
「なにか約束でも守ってくれるのかと思いましたが」
少し私は言いよどむ
じいさんは相変わらず眠そうでも聞いてくれている
「その地の役主さんに聞いてみると物騒な話でした」
「まずその地蔵というのは口が開いています」
「ご存じのように普通のお地蔵さんは笑みをたたえていますが」
「基本は口を閉じているものです」
「その口はちょうど指一本分は丸々と入る大きさと深さがあります」
「開いていれば誰しも指を入れたくなるものです」
「もちろんお地蔵さんですから、指を入れて何も起きません」
「ぽかんと開いた口のお地蔵さんですから子供には愛されています」
「言い伝えによると昔ひどく横暴な名主がいて」
「その横暴さに辟易した村人が山二つ越えた坊さんに相談にしたそうです」
「話を聞いた僧は地蔵を作り名主に渡すように言いました」
「苦労して持ち帰った地蔵を村の辻に安置したところ」
「名主がわけのわからん地蔵を持ち帰ったと怒りだして怖そうとします」
「村人は止めに入り、名主はその横暴さで地蔵の顔を触ったところ」
「地蔵の口が開いたかと思うと指を吸い込んでしまいます」
「名主は驚愕して取ろうとしますが取れません」
「そんな状態では食べるのも寝るのも苦労します」
「早速山を二つ越えて坊さんに相談しにいきます」
「坊さんは話を聞くと横暴さを改めると約束を守るなら自然と取れると語ります」
「その話をすると名主は人に害するような坊さんの話は聞かぬと横暴さは減りません」
「そうなると名主にいた奉公人も家族も辟易します」
「なにをするにも人に頼らないといけないわけですから」
「手助けを断れば生活できません」
「ますますわがままで横暴になると」
「誰もが近寄らなくなり、家族さえも遠ざけます」
「最後はどんな状態で亡くなったかは伝わっていません」
「その時はもうお地蔵さんは口をぽかんと開いたまま指は離れていたそうです」
「村人は恐れもしましたが、名主を退治した地蔵を辻に戻します」
「はじめは怖がっていた村人も世代を重ねれば記憶も薄れ」
「指をいれてイタズラする子供もいましたが、もちろん何も起きません」
そこまで話すとじいさんはもう寝ていた

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