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創作民話 影あんどん

ほんわかした光を暖かく感じる。
子供は、夜になるとあんどんを見るのが楽しみだ。
お金持ちの家に生まれたその子は、夜更かしを許されていた。
絵草紙を読みながら、ちょっと休むときに
あんどんの炎がゆれるのを見る
表面の和紙に炎が映り、文様が浮かび動いているように見える。
「これは馬かな、これは茶碗に見える」
何も描かれていなくても、でこぼこで絵が浮かび上がる。
その日もなんとなく、あんどんを見ていると
棒のような、人のようなものが見えた。
じっくり見ていると、動いてるようだ。
棒人間は、両手をさしだしながら何かを運んでいる
そして転ぶ
子供はくすくす笑う。
「ぼっちゃん、いつまで寝ているんですか、日が高いですよ」
女中のお亀が起こしに来る。
目をこすりながら起きて、朝食をとりに土間にでる。
後ろで、どすんと音がした。
ふりむくと、ぼっちゃんの膳をひっくり返したお亀が居る
どうやら転んだようだ
「お亀、大丈夫」心配する子供に、お亀は笑いながら片付けてる
似たような事が何度も続くと、あんどんが虫の知らせのように感じる
後で起こることが分かるのだろうか
その日もあんどんを見ていると、おなじみの棒人間が現れた。
「これはととさまかな」肩幅が大きい棒人間だ
「これはかかさまかな」肩幅が丸い棒人間だ
なにやら大きい方が、腕をふりまわしている
怒っているのだろうか
そして小さい方を殴っているようだ
怖くなり火を消してしまう。
争いは翌日に起きる。父が母を打擲し、追い出してしまった。
離縁となり、家の雰囲気も悪くなる。
子供は今夜もさみしさのため、あんどんを見る
今日の棒人間は、祝い事なのだろうか
たくさんの棒人間が、二人の棒人間の周りで騒いでいる。
「良いことでもあるのかな」
次の日に、新しいかかさまがきた。
再婚でめでたい雰囲気の中で、かかさまをみると鋭い目で
こちらを見返した。
「こどもをいつまでよふかしさせるんだい」
お亀を叱るかかさまの声だ
あんどんは、片づけられてしまう。
夜は早くに寝かしつけられ、好きな絵双紙も読めない。
新しいかかさまが、怖くてしかたがない
新しいかかさまは、気に食わないことがあると使用人だろうが主人だろうが
きつく当たる
もちろん子供にも当たる、この日は些細な事で納屋に閉じ込められた。
子供は悲しくて悲しくて隅に座っていると
隣にあんどんがあった
しかし火をつける道具もない
明るい場所で、おひさまに当てて見た
いつもの棒人間が浮かぶ
なにやら怒っているようだ、誰かを叱っているようにも見える
新しいかかさまだろうか
見ていると無性に怒りを感じる
棒人間を指でついた
あんどんに穴が開く
「復縁したそうですよ」
「新しい奥様があんな死に様ですからね」

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