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SS 燃える雨雲 #爪毛の挑戦状

※残虐な描写があります、注意してください。

子供がふらふらと歩く。二階にある部屋の中を食べ物を探すかのように歩き回る。私がここに来たのは昨日だ。親から売られると ここに閉じ込められた。

飢饉が来ると子供は売られた。「頑張るんだよ」十四歳になった私は貧農の子供だ。皆が食べる事を優先にする。子供を売る事で食糧確保するのは手っ取り早い。

母親は手をふって私を見送った。奉公に出されると言うが実際は人売りに渡された。私は恨むつもりもない。女の子は高く売れる。私は他の兄弟達の役に立てる。

人買いは蔵の中に一時的に子供達を閉じ込めた。小さな子は二階だ。下の階はもう少し大きな子が上の子を監視する。私は二階に行かされる。

二階に居る小さな子は本当に幼い。体の細い子は腹を減らしながら横たわってる。歩いてる子はまだ元気だ。「お前はこいつらの面倒を見ろ」人買いは命令した。

子供達がぐずったり、ケンカすれば近寄って頭をなでた。下の階の子供は入れ替えが多い。数日いるとすぐに移動していた。しかし二階の子供達は、幼すぎて買い手が無いのだろう。たまに子供の居ない夫婦に渡されるくらいだ。

だから二階の子はやっかいな商品になる。食べ物も一日に一回くらいだ。私もひもじかった。たまに死ぬ子も出てくる。死んだ子は蔵の外にある縦穴に持っていく。

井戸ではない、木組の四角い板で組んでるだけ。そこに死んだ子を持ち上げて暗闇に投げ落とす。供養も出来ないと思い私はたまに水くみに外に出ると、花を摘んで置いたりした。

仲が良い子供も死ぬと縦坑に落とされた。私は悲しいよりも縦坑の中で積み重なる子供達が不憫に思えた。しかし死体をいくら落としても底が見えないのも不思議だ。子供が脱走する場合もある、もちろん捕まえると見せしめのために殺して縦坑に落とした。無惨な所業を何回も見た。

一年すると私の体は大人になる。体もふくらみ売り頃なのだろう。人買いは私に手をつけようとした。私は商売ならまだあきらめもついたと思う。でも子供を無慈悲に扱うこいつらに触られたく無い。

逃げられるわけも無い。私は縦坑まで行くと、命を絶つ事にした。頭から落ちるが、闇の中でいつまでも衝撃が来ない。どれだけ深いのか?と疑問に思うと底が明るい。真っ赤に明るい。

私はくるりと回ると足から地面に立つ。きょろきょろ見回すと子供達が川原で石を積み上げている。鬼が近寄ってくると「ん?お前は生者なのか?なぜ来た」「自殺しようと思い穴に飛び込みました」事情を説明すると鬼は納得したように「ここは賽の河原だ、子供達が成仏するまで」子供達の作業を指さしながら「石を積み上げる」

「お前は生きたまま落ちたのか困ったな 俺が送り返してやろう」鬼は私を荷物のようにかかえると、飛び上がる。一瞬で地上に出ると「なるほど やたらと子供が来ると思ったら 地獄の穴に死体を落としていたのか」

人買いがまだそこに居た。「どうやら罪人もいるな 連れて行こう」金棒を持つと一人残らずたたき殺した。鬼は人買いを落とす。「地獄の穴は塞ぐよ でも俺が地上に来たから 地獄の火もしばらくはここに残るかもな」鬼は地獄へ戻る。

鬼の言う通りに地獄の火は周囲を燃やし始めていた。私はあわてて蔵から子供達を連れ出した。雨が降り出す、火炎が雨を呼ぶと雲が低くたれこめた。

「燃えてるよ ほら雲が燃えている」子供が指さす。森から火の粉が舞い上がり、周囲が真っ赤だ。空も染まり燃える雨雲のように見える。私は子供を引き寄せると抱きしめた。私は近くの村まで子供を連れて行くと寺を紹介される。今はそこで地獄の穴の説法をする尼僧として暮らしている。

終わり


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