見出し画像

SS 夢は夜ひらく 創作民話

夜に目覚めると私は街へ向かう。私のような素性の判らない女はまともな場所では働けない。薄汚れた街角で立つと客が来る。お互いが納得できる値段で私は安宿に客を連れて行く。粗末なベッドしかない部屋で客は我慢できずに私に抱きつく。

少しばかりの金を貰うと朝日が昇る頃にくたびれた酒場に行く。私はその金で食事をして街の外へ歩いて帰る。

「どう?いい客は居るかい?」
顔見知りの太った女が声をかける。年老いているので客は寄りつかない。羨ましそうに私の顔を見る。私はこの界隈ではかなり美しい方と思える。ただ時代によって好みが変わる。私はもう自分で美人なのか判らない。

「おい いくらだ」
酔った客が腐ったような口臭で私に声をかける。私に客がつくと彼女は静かに離れた。翌日の朝は騒がしい。警官が居る。私は自分の素性を隠したい。急いで街の外に出て行く、郊外の野原に行くと私はいつもの場所に座る。ゆっくりと赤い花に変化をする。

何百年も同じ事を繰り返している。人ではない私は夜になると人に変化する、呪いなのかもしれない。こんな体では誰かを好きになる事もできない。それでも恋をしたい、愛を知りたい。その衝動だけで人間の街へ行く。

「死んだってさ ひどい殺した方だよ 怖いね」
顔見知りの太った女が死んだと聞かされる。最近は物騒だ。私は注意しないといけない。客が近寄る、この界隈の客とは異なる男だ。女には疎そうな男が私を食事に誘いたいと言う。隣で女達が笑っている。食事に誘ってからする奴なんていない。

「いいわよ 酒場で食べる?」
私は腕を組むと彼は恥ずかしそうについてくる。食べてる間は何を話したか忘れた。彼は自分の功績を誇っているらしい。医者の卵と言っている。彼は私を愛していると言う。私は少しだけ嬉しかった。安宿で楽しむと彼はまた会ってくれないかと頼む。私は彼の頬を手でなでた。

「またせたかな」
大きな鞄を持って彼は会いに来る。興奮しているのだろうか?彼は上機嫌だ。私を安宿に連れ込むといきなり私の腹をナイフで裂いた。彼は嬉しそうに私にキスをして解体をする。内臓がすべて取り出される。彼は丁寧にそれを並べて楽しむ。これが彼なりの愛なのだろう。

私は彼が近づくと腕をつかむ、驚愕した彼は逃げようとするが腕から伸びた根が逃がさない。私は起き上がって彼を抱きしめた。愛があふれる。私は彼を侵食しながら全てを取り込んだ。

裂かれた腹部を服で隠して、鞄を掴むと私は安宿を出る。川へ鞄を投げ捨てて私は元の場所に戻る。滋養を得た私は種を大量に作れた。明日には私の子供達があの街へ行く。私はその場に倒れると枯れたように体を土に戻した。

終わり

女性20220818-03


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?