あめ売り

「今日もさっぱりだ」「生きていくのも面倒だ」
土手でごろ寝して、ぐちを言うのは、あめ屋
川原を見ると子供達が、川の石を集めて積み上げて遊んでいる。
うらやましそうに「俺も気楽に暮らしたい」
何をしても仕事が長続きしない
しくじりが多くて嫌われる。
子供相手ならと、あめ売りをしたが売れない
何が悪いのか自分ではわからない
「おじちゃん」
見上げると五歳くらいの娘が立っている
「なにしているの」
土手に座り直して「休んでるんだ」
と答える
「おじょうちゃん、あめ好きかい」
あめ売りはニコニコしながら商売をはじめる
娘は悲しそうに頭をふる
「なんだい、あめ嫌いか」
「お金ないの」
なるほど、裕福そうには見えない娘だ
駄賃も貰えないのだろう
どうせ売れ残るのだからと、娘の手をとり
棒あめを渡す、手がぷよぷよだ。
目元がやさしげな娘は、お礼を言って下に降りていく。
「そろそろ潮時かな」
次の日にあめ売りは、売れ残りのあめを捨ててしまおうと
土手に来る。
座っていると、昨日の娘が来た。
「また売れ残ったよ、あめをあげるよ」
うれしそうな娘は、下に居る子供達に手を振ると
わらわらと子供達が土手に登ってくる
「なんだい、ちゃっかりしているな」
苦笑いしながらも、子供達にあめを渡した。
娘が「ありがとうね」とかわいく笑う。
長屋に戻り、さて次からどの仕事にしようかと
悩んでいると、戸が叩かれる
あめ屋が不思議そうに「大家かな」と
戸を開けると、鬼がいる。
虎柄の腰巻きに、全身が血のように赤い。
二本の角を生やし、手に金棒を持っている。
呆然としている、あめ屋を押しのけて家に入る。
「あの子供達にあめを渡したか」
凄みのある声で問われると、あめ屋は腰がぬけて座り込む
鬼はあめ屋の
襟首を掴み部屋に、ひきずると
「おまえがあめを渡したのか」と聞いてくる
嘘も言えずに「渡しました、もうしわけありません」と
平伏するあめ屋
「あそこは賽の河原だ」
「子供達は石を積み今世の記憶を賽の河原に置いて成仏する」
「積み上げた石を崩して記憶を消すのが俺の仕事だ」
と鬼が自慢そうに語る
「お前が、あめを渡す事で今世に未練が残る」
「罰を与えようとしたが、地蔵様が止めたのだ」
地蔵様は、罪の無い死んだ子供を助ける仏様です
「お前が迷い込んだ理由は問わぬ」
「あめの代金は払うようにいわれた」
「二度と来るなよ」
何百両もある小判を畳に置くと、鬼は戸を開けて出てしまう。
あめ屋は小判を元手に、商売を立ち上げ、結婚をして子が生まれる
やさしげな目の娘を抱きながら「あめは好きかな」

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