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プロ野球でパフォーマー(チアリーダー)の卒業が多い理由

 2023年のプロ野球は阪神タイガースの38年振りの日本一で幕を閉じ、現在は選手の移籍などの話題で野球ファンは盛り上がっています。そんな中、最近あるニュースを耳にすることが増えました。それは球団に所属するパフォーマー(チアリーダー)の卒業についてです。今回、パフォーマーと表記するか、チアリーダーと表記するか迷ったのですが、各球団の公式サイトを見てみると、パフォーマーやパフォーマンスチームなどの言葉を使っているケースが多かったため、今回はパフォーマー、パフォーマンスチームと表記をします。

 まず、大前提として、プロ野球チームのパフォーマーは1年で卒業することも珍しくない世界で、長くても3年程度、4年以上続けるケースは非常に少なく、2023年シーズン終了後、これまでよりも極端に卒業が増えているというわけではありません。その点を踏まえながら、今回はプロ野球チームのパフォーマーの現状や今後どうあるべきかを私なりに考えてみました。

◯プロ野球チームのパフォーマーの仕事と待遇

 プロ野球12球団のうち、広島東洋カープ以外の11球団にパフォーマンスチームがあり、専属のパフォーマーがいます。プロ野球のパフォーマーにはどのような仕事があるのか、私はライオンズファンなので、埼玉西武ライオンズのパフォーマンスチームであるブルーレジェンズの情報を調べました。

 ライオンズの2024年のパフォーマンスチームの募集要項に記載されている活動内容は以下の通りです。
・2024シーズンホーム公式戦におけるダンス、MCなどのパフォーマンスやファンサービス
・球団PR活動、各種媒体(テレビ、ラジオ、雑誌、webなど)への出演
・サンクスフェスタ(ファン感謝イベント)、地域イベント、球団PR活動などへのイベント出演

 球場でのパフォーマンスだけではなく、幅広い活動が求められていることが分かります。現在はイベントの際のMCをパフォーマーが務めることも多く、球団によってはSNSの投稿など、10年前と比べても、パフォーマーの仕事内容はかなり増えていると思います。

 次に待遇についてです。こちらもライオンズの2024年のパフォーマンスチームの募集要項から抜粋します。
・出演費
・リハーサル費、交通費別途支給
・衣装貸与

 待遇について、1つ気になることがあります。それはリハーサル費についてです。他の球団のパフォーマンスチームの募集要項も確認したのですが、リハーサル費の支給について記載されていたのはライオンズとホークスの2球団のみでした。これは演劇や音楽などエンターテイメントの世界のあるあるなのですが、リハーサル費を支給しないケースは現在でも非常に多いです。お客さんの前で何かを披露する場合、当然リハーサルの時間は必要になりますし、その時間は確実に拘束されます。当然、リハーサルで拘束している時間の手当は出すべきだと思うのですが、エンターテイメントの世界ではこれが常識ではないのです。ほとんどの球団が具体的な待遇については面接の際にお伝えするなどと募集要項に記載しているため、実際はリハーサル費の支給がある球団が他にもあるのかもしれませんが、募集要項を見る限り、「拘束時間が長いわりに待遇が良くないのではないか」と私は思いました。唯一、ジャイアンツは2023年のパフォーマーの平均年収を募集要項で約110万円と公表しています。この数字を見る限り、プロ野球チームのパフォーマーはそれだけで生計を立てるのは難しいことが分かります。

◯プロ野球チームのパフォーマーは活動が大きく制限される

 各球団の募集要項に必ず記載されているのが、「パフォーマーの活動を優先できる方」などの文言です。プロ野球は前年の11月頃には翌年の全試合のスケジュールが出るため、パフォーマーが出演するホームゲームの開催日については事前に把握することができます。しかし、他のイベント出演については事前に分からないものも多く、他にアルバイトをするにしても、ある程度はシフトの融通が利くものしかできないと思います。屋外球場を本拠地としている球団の場合、試合が中止になり、別日に延期になった場合の待遇や負担も気になるところです。

 また、プロ野球チームのパフォーマーは自分自身でイベントを開催して、収入を得ることもおそらく制限がされていると思います。プロ野球チームのパフォーマーになるような人はダンスが好きだったり、そのような仕事で生計を立てたいと考えているケースも多いと思います。球団のパフォーマーだけで生計が立てられないなら、他のパフォーマンスやダンスに関する仕事に取り組みたい人も多いでしょうし、努力次第ではシーズンオフなど時間に余裕がある時に自身のイベントを開催して、収入を作れる人もいるでしょう。シーズン中であっても、自身のファンクラブのようなものを個人で作り、様々なことを発信するなどして収入を稼ぐ方法もあります。しかし、そのような活動をしている人は私が知る限りいません。球団の活動を優先してもらうなら、球団側はそれに見合う報酬を用意するべきだと思いますし、それができないのであれば、一定のルールを設けたうえでパフォーマー個人の活動を認めるべきだと思います。

◯人気の高まりによって過剰なファンが増えている

 現在、YouTubeなどのSNSではプロ野球のパフォーマーに関する動画が増えています。自分が応援するパフォーマーのことを多くの人に知ってもらいたくて,収益化はせずに動画を上げるのはまだ理解できる部分があります。しかし、それで収益化をして、利益を得ている人がいることには疑問を感じます。そして、このような発信が増えたことでプロ野球のパフォーマーの人気は以前よりも大きく高まりました。しかし、それにより別の問題が出てきています。それは過剰なファンが増えたことです。2023年7月27日、ライオンズは過剰なファンに対して、以下のお願いを発信しました(一部を抜粋しています)。

 「公式パフォーマーの活動時間外における全てのファンサービスを控えさせていただいておりますが、現在一部の方による出待ち・入り待ち・公共交通機関内での撮影・接触などの行為が見受けられます。
 危険防止ならびに一般の方にご迷惑がおよぶ可能性があるため、活動時間外のファンサービスを控えさせていただいておりますので、ファンの皆さまのご理解とご協力をよろしくお願いいたします。」

 ライオンズがこのような発信をしたということは他球団でも同じようなことは間違いなく発生しています。ここで考えなければいけないのが、プロ野球のパフォーマーは人気商売ではないということです。パフォーマーの努力によって観客動員数が増えたり、球団の利益が上がっても、それがパフォーマーに大きく還元されているわけではありません。決して待遇が良いわけではないにも関わらず、プライベートでも声を掛けられたり、写真撮影を求められたら、それは負担になるに決まっています。2023年のシーズン終了後、北海道日本ハムファイターズはパフォーマーの多くが卒業することを発表していますが、はっきり言えば、プロ野球チームのパフォーマーは掛かる負担に対して、割が合わない部分が多いのだと思います。

◯プロ野球チームのパフォーマーはどうあるべきなのか

 最後にプロ野球のパフォーマーはどうあるべきなのか、私の意見を書きます。ここまで球団の待遇の悪さについて散々書きましたが、球団のパフォーマーに関する取り組みとして、良いと思うものもあります。それはダンススクールの運営です。全球団ではありませんが、球団の中にはダンススクールを開校して、ダンススクールの講師を現役のパフォーマーやOGが努めているケースがあります。これはパフォーマーのスキルを活かせる仕事ですので、とても良い取り組みだと思います。

 現在、プロ野球チームのパフォーマーに関するいちばんの課題は待遇をどのように上げるかです。私は一定のルールは設けたうえで、パフォーマーが何かのプラットフォームを使って個人のファンクラブのようなものを作ることや、イベントを開催することを認めるべきだと思います。もしも、球団としてこのような個人の活動を認められないのであれば、球団がパフォーマンスチームのファンクラブのようなものを作り、運営に掛かる費用以外は全てパフォーマーに還元するべきだと思います。

 本来、パフォーマーは多くの観客の前でパフォーマンスをして、それによってその場所や場面を盛り上げて喜んでもらうことをやりがいにしているはずです。しかし、現状、あまりに注目度が増していることで本来は球団のパフォーマーの役割ではないことまで求められるようになっています。そして、ファンが増えたことでプライベートの時間に声を掛けられるなどの問題も増えています。多くの人に存在を知られることで負担が増え、その割に還元されるものが少なく、それならば自分達の存在はあまり知られない方が良いという矛盾が生まれてしまっています。そのため、パフォーマーの頑張りが待遇面で報われる仕組み作りが必要だと思います。

 今回、各球団のパフォーマーの募集要項を確認しましたが、具体的な待遇については「面接の際にお伝えする」などと記載している球団が多く(ジャイアンツとホークスは1試合あたりの報酬を具体的に記載していました)、パフォーマーの待遇面は不透明だと感じました。もしも、球団側がパフォーマーの待遇に自信を持っているなら、もう少し具体的な条件を公表できるはずですが、それができないということはパフォーマーの待遇に後ろめたさがあるのだと私は思っています。

 決して恵まれた待遇ではないにも関わらず、いつも笑顔でパフォーマンスをしているパフォーマーの人達は本当に凄いと思います。私も以前、ライオンズのパフォーマーで応援していた人がいたのですが、その人を観ることが大阪から所沢まで足を運ぶ大きな動機にもなっていました。それだけの力を持っている存在なので、今後、パフォーマーの待遇が改善され、長く活躍することができる世界になることを願っています。


◯出典
・埼玉西武ライオンズ 公式パフォーマンスチーム『bluelegends』2024シーズンメンバー募集! 2023年11月26日
https://www.seibulions.jp/news/detail/202300348289.html

・北海道日本ハムファイターズ 2024年ファイターズガール新メンバーオーディション開催 2023年11月26日
https://www.fighters.co.jp/news/detail/202300438128.html

・東北楽天ゴールデンイーグルス 東北ゴールデンエンジェルス 2024 メンバー募集開始! 2023年11月26日
https://www.rakuteneagles.jp/news/detail/202300465288.html

・千葉ロッテマリーンズ 2024年M☆Splash!!新メンバーオーディション開催 2023年11月26日
https://www.marines.co.jp/news/detail/202300401381.html

・エイベックス・オーディション オリックス・バファローズ × エイベックスNEW DANCE&VOCAL UNIT AUDITION 2024 2023年11月26日
https://avex-audition.jp/audition/202310050002/

・エイベックス・オーディション 福岡ソフトバンクホークス パフォーマンスチーム オーディション2024 2023年11月26日
https://avex-audition.jp/audition/202310230002/

・読売ジャイアンツ(巨人軍)公式サイト 読売巨人軍公式マスコットガール「ヴィーナス」 2024年度新メンバーを募集 2023年11月26日
https://www.giants.jp/news/12438/

・東京ヤクルトスワローズ 公式サイト 東京ヤクルトスワローズ公式ダンスチーム「Passion2024」新メンバーオーディションを開催 2023年11月26日
https://www.yakult-swallows.co.jp/news/detail/29022

・横浜DeNAベイスターズ オフィシャルパフォーマンスチーム「diana」2024シーズンメンバーオーディション開催! 2023年11月26日
https://www.baystars.co.jp/news/2023/10/1002_02.php

・中日ドラゴンズ チアドラゴンズ2024 メンバーオーディション開催のお知らせ 2023年11月26日
https://dragons.jp/news/2023/audition-cheerdragons.php

・阪神タイガース 公式サイト オフィシャルファンサービスメンバー「TigersGirls」 2024シーズンオーディション開催および体験会実施について 2023年11月26日
https://hanshintigers.jp/news/topics/info_8904.html


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