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現実逃避のその果てに

あとがき。追加あり。

   立川M生桃

強い風が吹き抜けた。 やがて、雨が降り出し雪に変った。

ライトの光が、風と強い雪を映し出す。

暗闇の中に長い列の光が映る。

もう。クリスマスも近い。

11月までは、あんなに心地よい天候だったのに・・・。

12月になると、流石にコートを着込んだ。
私のコートは、上等なダウンから毛皮に変化させた。

昨年は、運が良かったのか? それとも悪かったのか?

夏は、強い雨と戦った。 洪水の道を夜中、早朝と走り抜けた。
一人で走る車は、本当にドキドキしながら、祈るように走り抜けた。

ある所から、雨が止んだ。 いいえ。そもそも雨など、降っていないのだ。

それ程。遠くまで車を飛ばしていたのだ。

その年は、雪に見舞われなかった。


それが。 今年は、3年前を思い出す。
雪が積もり。バスを待った。 いくら待ってもバスが来ない。

そう。田舎のバス停。雪の早朝に乗る人など殆どいない。

30分待った頃、一人の年配の人がバスを待った。

上等の手袋にカイロを持っていた。毛糸の帽子も被っている。

流石の私もブーツの中が凍えてきた。
足先に感覚がなくなっていった。

そのうち、バスが来た。
嘘のような乗客の多さに驚いた。

私は、中学生ぐらいからバスなど乗ったこともなかった。

バスの表示を見ながら、バスの運賃のために財布を開く。
手が、かじかんで、思うように小銭が取れない。
やっとの思いで小銭を握りしめた。

その途端。バスの運転手が何処で降りるのか? と聞いてきた。
気がつくと、私と後1人の乗客しかいなかった。

心の中で、降りるバス停すら知らない。この私に・・・。

wで降りる様に指示されていたが、wは何となくわかるが
何処のバス停なのか? 知らなかったのだ。

wです。そう言うと。何故? 早く押しボタンを押さない。

早く降りろと怒鳴ったのだ。 え? 嘘でしょう?
この運転手? 何? 私は、急いでお金を運賃箱に入れようとしたら
手が、かじかんだままなので、小銭が転がってしまった。

それを拾おうとしたら、拾うな、そのままお金を投げ込めと言われたのだ。

慌てて、運賃箱に残りの小銭を入れてバスから降りた。

とんだ災難だ。そう思った。バスを降りると恐ろしい程の雪だった。

この一面雪景色の中を道無き道を足先が冷たくなったこのブーツで歩くのか・・・。

そう思いながら・・・とぼとぼと歩いた。

スタットレスのタイヤがあったらな~。
そんな事を言いながら・・・。職場に着いた。


そして、仕事の帰り道。Y職員が、雪も溶けたし、送っていこうか?

そう言って笑う。 思わず。はい。お願いします。

近くの駅まで送ってもらった。

その次の日も、雪が積もり。路面はシャーベット状だった。
仕方なく、次の日もバスに乗った。
その日は、バスをそんなに待たなくて良かった。
すぐにバスが来たのだ。安心したのもつかの間。
バスが近くの駅で、乗客を降ろすのだ。
このバスは、駅までです。
駅からwまでは、別のバスを待つことになった。

駅前のバス停から一時間。雪の中、立ったまま、震えるように待つ。
また。足先に感覚がなくなった。
今回は、カイロを持っていたが、余りの寒さと待ち時間が長い。

やっと、バスが来た。今度は、乗客が少なかった。

今回は、運転手が優しい人だった。


その日は、帰りもまた職場の人が送ってくれた。
駅からは、一人で歩いてとぼとぼ帰った。

道は、シャーベット状の所が、まだ少しあり、子供の頃なら喜んで、アイススケートをするのだろうが、今の私は、滑って転倒しないように注意しながら歩いた。

そして、実家は、水道管が凍ってしまい、温水器が壊れた。
その事を今回の雪が降り出して思い出したのだ。

私は、この前。ガソリンスタンドの若い女の子から、前輪の溝がないから、滑る可能性がある。タイヤ交換をした方が良いと言われていた。

スタットレスのタイヤを購入するか? それともノーマルタイヤを購入するか?

少し考えた。1番は、スタットレスのタイヤとノーマルタイヤの両方を購入できればベストなのだろう。

スタットレスのタイヤは、後で場所を取る。しかもほんの一時的な期間のみ。金額も高い。

仕方なく。ノーマルタイヤを購入することにした。
ディーラーに電話したが、水曜日だった。休みなのだ。

どうしても、色々考えて、タイヤをこの日に交換しないと、雪が積もる前に・・。

行き当たりばったりで、タイヤを売っている、カーショップを探した。
運良く灯りが見えた。お店が開いているのだ。

慌てて、説明をして、同じタイヤを交換してもらう事した。
二時間待ちだと説明を受けた。

私は7番目なのだ。タイヤ交換で他のお客も椅子に座って待っていた。

一時間経っても、他のお客のタイヤ交換がなかなか終わらない。

しびれが切れて、後、どれぐらいかかるのか聞いた。

最初に話した通り、二時間待ちだから、終わるのに20時30分だと言われた。

流石の私も諦めて、時間がもったいないからと、歩いて家に帰った。

帰るのにとぼとぼと30分かかり、家でトイレに行った。
少しだけ、ホッとした。

友達が家に来る時間だった。 来てくれたら、カーショップまで乗せてもらおうと考えていた。

しかし。待てど暮らせど。来なかった。

仕方なく。カーショップに約束の時間に間に合うように、家を出た。

片道30分歩く。良く考えたら一時間歩いている事になる。

仕事が終わって、一時間椅子に座り。一時間歩く。

タイヤ交換をあの時に、していればと後悔と反省をした。

店に着くとちょうど終わっていた。

クレジット2回払いにして、お店を後にした。

私は、もう。一人で頑張らないと誰も助けてくれない。
そう思った。 誰一人。頼れる人がいないのだから。

この歳になって、悲しい事かもしれない。私は強くならなければと自分に言い聞かせた。

車に乗ると何となく違っていた。これなら、ゆっくり運転すれば、
雪が少し積もったぐらいなら、ノーマルでも大丈夫かも・・・。

そう思えた。

金曜日に雪が積もり。天気予報どうりだった。

同僚に、これまでの話をすると、バスの時刻表をラインで知らせてくれた。
そして、バスに乗るのなら、家の近くのバス停ならば、雪でバスを待つ間が寒いのだから、バス停がすぐに見える公の駐車場に車をあらかじめ駐めて
そこで待つようにアドバイスをもらった。

朝方。その同僚からラインが入った。ゆっくり安全運転で遅刻になっても大丈夫だと書かれていた。

そう。大雪ではなかったのだ。

返事を送信して、車を走らせた。

大雪ではないが、路面に雪がしっかりあるのだから・・・。
前に車との車間距離をかなり空けて・・・。

その前の普通車が、尻を振った。 恐ろしい。そう思った。

気がつくと速度が12キロだった。
普通、20分で着くところが、一時間かかっていた。

職場に着くまでの間、警察の車を3台見た。

追突事故も見た。 何もなくて良かった。

やはり。二時間待っても、ノーマルタイヤでも無事に来れて良かった。

あの3年前のバスを待ち。大変な思いをするより。

スタットレスのタイヤが欲しいけれど・・・。

天気予報では、日曜日まで雪だと職場の皆が言った。

土曜日が気になった。
毎日。私の家に遊びに来る友人は、雪が怖いからと歩いて仕事に行き。

その仕事の帰りに一時間かけて私の家に来た。

帰りは、私が車で送った。
道路は、雪もなく。簡単に送れた。

コンビニで2人で話をしていると、小雪が降り出した。
たった15分の出来事だったが、一面雪景色になったのだ。

慌てて帰る事にした。
帰りに。経験したことのない、凄い勢いの牡丹雪が降り出した。

まるで、あの夏の大雨が雪に変ったかのように・・・。

怖い。 早く帰りたい。そう思ってもスピードが出せない。

諦めと怖さと戦いながら、慎重に運転しながら20分で帰れた。

明日が怖いな~。 明日は、近くまでバスが来ない。どうしよう・・。

歩きになるのか? そう思いながら目覚ましを6時にして寝た。

次の日。目が覚めると7時30分だった。
慌てて、窓から雪が積もっているか? 確認すると遠くの道路は雪が積もっていなかった。

雪景色なのだが、良かった。道路は大丈夫。

そう思っていたら、ラインが入った。

路面がシャーベット状だから気をつけてね。私は、ゆっくり車でコンビニまで来ているから、難所もどうにか車で大丈夫。そう書かれていた。

返事を書いて、時間もあまりないので、支度をして家を出た。


あとがき。

最初のバスの運転手の男性は、その後。職場に患者として来た。
高血圧だった。心臓も悪い。
しばらくしてから。。。普通の人より。どこか違う様に感じた。
神経質なのだ。

それから2年して、そのバスの運転手の人は、仕事を辞めたい。
生活保護になりたいと言い出した。
やる気が起きない。そうも言った。

高級なレクサスに乗っていた。それが、その車を売ると言い出した。
薬を奥さんが代わりにもらいに来る。それが何度か続いた。

すると、しばらくしてから、奥さんが血相を変えて、食事を取らない。
助けて下さい。そう言った。
院長がバスの運転手の家に往診に出かけた。

その後。私も呼ばれて、点滴をすることになった。
その時。姿が変っていた。痩せ細り。1週間の食事を取れてない?

そんな感じではなかった。もう。1ヶ月近く。まともに食事をしていない様子だった。

家には、息子が一人いた。変わり果てた父親を見ても、笑みを浮かべている。
状況が理解できないのだ。知的障害のようだった。

玄関の下駄箱の上に、神棚が無造作に置いてあり、そこには、御札もない。

変わり果てた、そのバスの運転手は、点滴を拒むが、どうにかルートを取った。
しかし。冷や汗をかき、体を震わせる。そして、限界だ。のけてくれ。止めてくれ。
そう言った。院長の言われたことです。貴方のためにここに来た院長先生の行為を無駄にしないでください。

そう言った。そして、腕を握って45分間、時間を待った。
とてもキツかった。

帰りは、奥さんが送ってくれた。

そのバスの運転手は、精神科の病院に入院した。

仕事も辞めている。

今でも奥さんが月に1度。内科の薬を取りに来る。

現実逃避できない。残された奥さんが、一番辛いように思えてならない。










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