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【移り行く季節に】


人生の束の間の休息のような、梅雨の入りから早や幾日。
ふるさとの至る所がすっかり、“梅雨模様” に染まってしまった。
『さ霧消ゆる湊江の 船に白く 朝の霜 ただ水鳥の…』(冬景色)
『春は名のみの風の寒さや 谷の鶯 歌は思えど…』(早春賦)などと
馴染みの歌を口ずさみつつ、朝に夕に故郷の地から
遠くを見やった日々は、いつのことであったやら。


炬燵にうもれて、寒さをじっと凌(しの)いでいたことも
白い息を弾ませて、通い慣れた道を駆け抜けたことも
つい昨日のことではなかったのか?
知らぬ間に、通り過ぎてしまうものの代表格が
『季節』であったのかも知れない。
 

季節はまさに、小休(おや)み無きものである。
悠久の時の流れと共に、ものみな巡り行くものなれど
とりわけ春は移ろいやすい。
立ち止まることの許される人生とは裏腹に
しばしも、待ってはくれないからだ。


過ぎし日の春よ……。
待つ日々の思い出が長かりしほど、それらは尚更なつかしい。
春がしのばれて、さながら遠くへ旅立つ友を
見送るほどの心境にも似ていようか?
友のみならず、人生における折々の移ろいもまた、然(しか)り。
去ってしまった後から、しみじみと味わい深くなるものだ。
 

しとしと降る雨——。
窓ガラスにつたわる銀のしずく。
その窓々の近く、君らはいま何を考えている?
楽しげな夢に胸を膨らませている君。
それとも、ひとり寂しく雨のリズムに耳を傾けている君。


愛すべき君らよ。
僕は今こそあえて、春を振り返り、春を讃えたい。
春はことのほか美しく、ことのほか優しい季節。
万人にとって春は、欠くことのできない
特別な存在であったと思う。


素直な心で春と向き合うとき
春はいつでも、その柔らかな御手で
君らを等しく包み込んでくれる。
春とは、母親の慈愛のごときもの。
 
  

然しながら世界各国の現状は、あまりにも厳しい。
春をも知らぬ人々が、数限り無く実在する。
春はおろか、一国の平和や安寧すらも。


たとえ国土が狭くとも良い。世界と比べれば
四季折々の季節を持つ我が国は、非常に恵まれている。
その一方で年々深刻化する、地震・台風・豪雨・疫病等の環境異変。
被災された方々の心痛は、筆舌に尽くしがたい。
それでもなお、復興に向けて日々邁進しておられるのだ。
 

我が国が、たとえ災害大国と呼ばれようと
たとえ幾たび、大自然の猛威に痛めつけられようと
困難を皆で乗り越え、世界で一番の
優しさと、思いやりと、助け合いの精神を築き上げてきた。


戦争もなく、豊かな生活が保障され
陽だまりのような、あたたかい人情と
美しい気候風土の恩恵に、浴されてきた我々国民は
生涯にどれほどの、恩返しが出来るのだろうか?


驕ることなかれ。強欲を張ることなかれ。
いま一度、春を振り返り、おのおのが
平和を愛する善民たることだ。
そうして新たな季節の到来に、備えていただきたい。
 

どんよりとした雲の割れ目から、時として太陽が—。
『あっ、あれは真夏の太陽だ!』と、叫ばんばかりに
君らは空を見上げる。
そう、待ちに待った盛夏は、すぐそこまで来ている。
海と山の、フェスティバル・シーズン近しだ。


さわやかな白南風(しらはえ)と共に
透き通る青空と、太陽の強烈な日差し……。
まぶしい夏が、君らを なおいっそう輝かせることだろう。
 

そして、この梅雨空も一挙に、過ぎ去りし思い出となる。
若き日々の苦労さえ、いずれ同様の運命をたどるように。
そうであるならば、君らは過去に浸ってばかりもいられない。
人生の長き道のりにおいて、すでに過去の体験は
未来への力強い道標(みちしるべ)を打ち建てる為の
エールであったと思う。


『未来』とは、すべからく建設的で
いつでも希望に充ち満ちたものであってほしい。
さあ!果てしない未来へ向かって、君らよ
青春の大いなる旅立ちだ。
 (私の後輩たちに捧ぐ……)



【関 連 記 事】

🔷【夏の風物詩】|建礼門 葵 (note.com)


🔷【秋の風物詩】|建礼門 葵 (note.com)


🔷【冬の風物詩】|建礼門 葵 (note.com)


🔷【あたたかい冬から春へ】|建礼門 葵 (note.com)



🔷【移り行く季節に】|建礼門 葵 (note.com)


🔷『桜の花びらが散る前に…』|建礼門 葵 (note.com)


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