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インド人と毎週カレーパーティしてた話 出会い編

大学は出会いの場と人は言うが、此には私も同感である。私も例に漏れなく多くの人物に出会いそれと同じくらい様々な体験をした。
今回はそのなかでも私に強烈な印象を残し、突如蒸発したインド人の話をしよう。私の長ったるい駄文に時間を割いてくれれば彼もどこかで喜んでいることだろう。

思い出は美化されるという言葉があるが、彼と過ごした当時を今思い返してみてもよく分からない日々であった。


そんな彼とは一回生の秋に大学前のセブンイレブンで出会った。結論から言うと、私が彼について興味が絶えず声をかけた形になる。これだけを書けば私が同性愛の趣向があると勘違いされそうなので先に断っておくが、ただただ好奇心から来る行動であった。抽象的な表現になるが、それだけ彼は異色であり私を引きつけた。

セブンは関大生にとって集会所の様な役割を果たしており、様々な人が行き交い、時には井戸端会議など開かれていた。
私も授業の間や放課後など暇を見つけてはそこに入り浸り、友達と世間話や与太話に興じていた。

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今思い返せば何が楽しく何時間も屯っていたのか理解しかねるが、これも「いい思い出」の一つとして美化され昇華されるのだろう。それだけここには通っていたのである。

そんな生活を何ヶ月と続いていると気になる存在ができた。今回の話題である彼である。
セブンでは様々な人が行き交うと言ったが、大学の近くにあることから大半は大学生であった。逆を返せばサラリーマンや主婦だとか、他店舗では大半を占めるであろう客層はここではあまり見かけなかった。そんな状況の中毎日のようにたばこを吹かし、寡黙にただずんでいる彼は目立った。大学生と群れない彼は紳士的でミステリアスでもあった。


それだけなら「いつもいる目立つ人」とだけで終わるのだが、彼は一人ではなかった。
彼はいつも一人ではなく、二人でいたのである。その一人もこれまた変わった風貌の人物であった。年齢は70代くらいで肩に掛かるほどの白髪にサングラス、上下ジャージながらも何百万もするであろう高級時計を腕に付けていた。そんな老輩がインド人の彼といた。

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異色も異色といえる二人が若者が占める学生街にただずんでいたのである。気にならないわけ無いだろう。当時の私の知的好奇心を強烈に刺激し、その次に知的探究心が私の足を動かしていた。気になったらすぐに行動してしまう難儀な性格が私を動かしたのである。
そして私の軽率な行動に対する後悔の念に駆られるまま歩を進め、連れ添いの老輩に話しかけていた。

話してみるとタカさんという方らしい。落ち着いたしゃべり方と時折サングラスからのぞかす座った目が特徴的だった。彼も過去に色々とあった人物だと後から聞かされたのだが、それは後半に書こうと思う。
私はタカさんに気になっていたことと、インド人の彼とも仲良くなりたい旨を伝えた。
生まれつきか、それとも年の功か、どちらにせよタカさんは心が広かった。
私の若干失礼な頼みを快く受け入れてくれ、インド人の彼に話を通してくれるらしかった。私の後悔しか生み出さなかった難儀な性格もたまには功を奏すのだ。

「ラム!」 タカさんはそう言って少し離れたところでたばこを吹かしていた彼を呼びに行った。彼の名前はラムというらしい。
どうやら本当に話を通してくれている様でこちらに向かって歩いていた。私は彼が私の元にたどり着くまでの数秒間で必死に自分の思いを英語に翻訳した。
そして彼が私の元に来ると同時に意を決してこう言った。

「あ、アイ ウォント えっと,,, トゥービー ユア フレンド」




英検三級に落ちた過去がある私の限界であった。高校一年生でももっとましなことを言うだろう。

しかし自分から関わりたいと啖呵を切ったくせに、ろくに英語も喋れないポンコツぶりを披露した私にも彼は笑顔で頷いてくれた。私が緊張していると思ってくれたのだろうか。紳士的でとても大人に見えた。ありがたさと同時に、勝手に抱いていた紳士的な彼と一致したことに喜びも感じていた。
そしてこれ以上彼には粗相は置かせないとも思った。彼の発する英語までも聞き取れなかったら文字通り話にならないのである。

センターリスニングで一割しかとれなかった耳を研ぎ澄ました、最悪の場合Google翻訳で訳そうとポケットに忍ばせたスマホにも手をかけた。
笑顔でその時を待ちながらも、今か今かと彼の口に注目した。周りが見えなくなり、彼が言葉を発するまでの数秒がとてつもなく長くなるほど集中した。死刑囚の処刑される時を待つ時間の感覚はこんな感じなのだろうか。
そして永遠のように思えた数秒を経て彼はこう言った。

「私タチモウトモダチ 私ハ毎朝アサダチ」

私は固まってしまった。面食らうという奴である。

「私タチモウトモダチ 私ハ毎朝アサダチ」
私が聞こえていないと思い彼はもう一度言った。

「はは,,,」
顔が引きつった愛想笑いしかできなかった。
なぜに韻を踏んでいるのか、誰がこんな日本語を教えたのか、色々あるが呆然としかできなかった。
先ほどまで狭まっていた視界が広まっていった。それと同時に幻想も飛んでいった。
勝手に抱いた幻想である。勝手に紳士と思い、下ネタ大好き外国人と知り呆然としていたのである。ラムからすればいい迷惑である。

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私が憮然としている間も彼は下ネタジョークを披露していた。
何を言っていたかも何をしゃべったかもあまり覚えていない。
一言一句聞き取ろうとしていた集中力と気持ちは失せ、あれだけ遅く感じた時間の流れは濁流のように過ぎていったのである。
ただただ空回りしていた私を思い出し、マンガであれば白黒になり木枯らしが吹くくらい呆然といていたのである。

こうしてラムとの衝撃の出会いは終わった。
これから数ヶ月にわたり彼関連の事件に巻きもまれたりする。
それは後半に書くので読んでくれると幸いである。


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