「ヒアリング沼」にハマったすべての営業職に伝えたい少年コムの話
「良質な質問を続けていれば、答え(提案)が見つかる」
こんなフィードバックや指導により、営業職は深い沼にはまることがある。
しかし、いつしか気づくのです。
「良質な質問」を続けていても、お客様に刺さる提案にはいきつかないと。
宝物が埋まっていない、土の中を掘り続けるモグラのようなもの。
その罠に陥らないために、わたしたち営業は何をすべきだろうか。
この記事では、営業を仕事にしている「少年コム」の成長をたどって考えてみます。
ヒアリングしても手ごたえがない
「●●さんのお役割ってどのようなことなんですか?」
「へぇ~、採用も教育も労務も大変ですね。ちなみに教育に関してはどのような取り組みをされているのですか?」
少年コムは商談で社内でフィードバックを受けた「ヒアリング」を駆使しまくった。
結果的にお客様の「課題であろうこと」は沢山聞けていたが、同時に少し違和感を感じていた。
「いろいろ発散したけど、この後、どのような話の展開にもっていけばいいのだろうか・・・」
どんなに愚直にヒアリングをしても、けっきょく「〇〇研修をやりたい」「〇〇な提案をして欲しい」というお客様からのひと言に行きつくことができない。
「それでは、今日話にあがった○○の情報を送りますね!」という言葉で商談は終わった。
「お客様のやりたいであろうことが見つかった」となんとなく思った少年コムは心の中でガッツポーズをし、自社に帰っていった。
ヒアリング後にやっぱり残る違和感
また別の日、少年コムは新たなお客様と商談をしていた。
商談が始まり、ほどよいアイスブレイクに、自己開示。お客様との会話も弾み、得意のヒアリングにトントンと進んでいった・・
担当者の領域は? 関心どころは? ミッションは? 課題は? 意思決定者は? と、これまでに習った「ヒアリング項目」を愚直につぶしていく。
「お客様が話した言葉をさらに深ぼる質問をするといいよ」と上司からのアドバイスを思い出し、それも駆使した。
「今、〇〇さんがおっしゃっていた上司との関係性が悪いというのは、具体的にどんな状態なんですか? どんな問題が起こっているか教えてください」
商談は難なく終わり、今日は「提案の機会」ももらえた。それだけでなく「深堀りのヒアリング」もできたことに、少年コムは恍惚の笑みを浮かべていた。
だが、一抹の違和感も同時に感じていた・・・
「○○なテーマの研修がやりたい」という最後の一声に今回もいきつかなかったこと。
そんな気持ちを払拭するように、少年コムは社に戻ってプログラム依頼をするのであった。
いやな予感が的中
着々と商談を重ねてきた少年コムは、この日、2件のお客様から提案の結果を待っていた。
「あんなにヒアリングもしたし、お客様の要望通りの研修プログラムを出したのだから大丈夫だ!」
事務作業から追われていた午前中を終え、お昼から返ってくると新着メールが2件。提案した例のお客様だ・・・・
少年コムがドキドキしながらメールを開くと、
そこに書かれていたのは「他社で決めました」との言葉・・
「な、なぜだ! なぜだーー(暴)」
お客様に電話をし、返ってきた言葉は、
「プログラム内容は差がなかったのですが、既存の会社の方が内情を良く知ってくれているので・・」
「金額、内容もどちらも良かったのですが、他社の提案の中で、○○があったので・・・」
「そんなことなら当社でもできるのに、何が違うんだよー!」
少年コムには煮え切らない思いがめぐっていた。
そしてまた来た「あの言葉」
夕方、少年コムは上司に報告をした。
「なるほどね~。やっぱりお客様の本質を掴めていないね。今回、マネージャーと部下との関係性が課題で1on1提案していたけど、そもそも、マネージャーとその上司の関係性については、聞いていたの?」
「他社が提案していた、マネージャーとその上司の関係性から改善していく方が、組織全体が変わる気がするよね。やっぱ、ヒアリングが足りないよ!」
またか! またヒアリングか!!
少年コムはその日、音楽を聴きながら帰ったが、耳に聞こえてくるのは「ヒアリングが足りないよ~♪」というトラウマになる言葉ばかりだった・・・
じつはこの時、少年コムは既に一人では抜け出せない底なしの「ヒアリング沼」にはまっていたのです。
さてここから少年コムはどうやって抜け出したのでしょう。
ヒアリングを重ねるだけではダメだ
敗戦を重ねるなかで、少年コムはあることに気が付いた。
「どれだけヒアリングしてもやりたいことを言ってくれるお客様って、じつはほとんどいないんじゃないか?」
上席コンサルタントと上司の同行を重ねることで、さらに気づいた。
「あれ・・? 課題は聞くけど、結局、自分たちが考える答え(打ち手)で提案しているじゃん! お客様から答えを引き出してはいないな。自分みたいに質問の連発もしてないな・・・」
抱えていた違和感を払拭するために、さらに上司の同行を重ねる少年コム。
すると新たな発見が。
「上の方々は課題や解決策を想像し、それが正しいか確かめるために聞いているじゃん!!」
「そう考えると、何も想像していない自分に「ヒアリングしたいこと」なんて生まれるはずないじゃん!!」
「おれは今まで、単なる『目的のない質問』を重ねていただけだったのかーーー!!」
ヒアリングの2つの目的
この時点で少年コムは、ヒアリングの中には2つの目的があることに気づいた。
一つは「お客様を知ること」。もう一つは「打ち手が正しいか判断すること」。
振り返ってみると、これまでの少年コムは、あてもないヒアリングを重ねるだけの存在だった・・・
まるで、宝のない土の中を掘り続けるモグラのように。
「聞いていれば」どこかにたどり着くのではない。仮説を立てて課題や解決策を想像しなければ、どこにも行きつかないのだ。
それ以来、少年コムは2つのことに注力した。
ひとつは顧客の課題解決の事例を知ること。もうひとつは上席コンサルタントが話す顧客との会話をスポンジのように吸収することだった。
ああ、ヒアリングってこれだったのか!
自身の失敗と経験をもとに、少年コムの中でヒアリングのイメージが変わっていった。
ヒアリングとは、「自分の仮説(想像)の正しさを実証するもの」であると。
想像した打ち手のどれが正しいか、納得してもらう根拠を集めるために、
ヒアリングを重ねていたのだと。
この時点で、少年コムはヒアリングの真の目的を理解した気がした。
ヒアリングに必要な想像力の付け方
ヒアリングを行うには想像(仮説)も大事だと感じたコム。
コムがやってみてよかったのは以下の4つだ(重要なものほど★が多い)。
①社内の出来事を内省する(★★★)
どの会社にも泥臭い人間ドラマがあるはずだ。上司との関わりや後輩との接し方。管理職であればメンバーを育成してみて感じたことがあるはずだ。
社内での出来事を1日一行でもいいから、振り返ってみるのがおすすめ。その蓄積が、他社との話でいろんな想像を生むきっかけになる。
②課題解決の事例を沢山知る(★★★)
提案に至る「背景」をたくさん知ること。どんな課題があって、その課題に対して提案者にはどのような考えがあり提案に行きついたのか。この部分が他社と話すときに使える。
③同席経験から学ぶ(★★)
上席コンサルタントなど経験豊かな方の同席も想像の種を集める機会になる。できれば初めの関わりから受注まで、付きっきりで関わってみるといい。
④「なぜ」の習慣づけ(★)
②③がやりにくければ、想像する癖をつけることも効果的。「なぜ」を習慣化し、背景を知ることを心がける。物事には必ず何かしらの見えない背景がある。なぜを習慣化することは、想像を増やすきっかけになる。
「ヒアリングが足りない」は正しいけれど
たしかに「ヒアリングが足りない」という上司の指摘は正しい。
だが上司にはいろんな想像(仮説)が作れているからこそヒアリングができている点は、往々にして見落とされている。
こんなイメージではないか。
読者の皆さんも学生の頃に、「大好きな人」が一人や二人できた経験はなかろうか。
そんな時、
「あの子はどんな性格だろう」
「デートに行くならどこが喜びそうだろう」
「かわいいと思ってもらえる服装は何かな」
などとワクワク、ドキドキしながら想像、妄想したことだろう。
少年コムが携わる営業も、じつは同じことなのかもしれない。
少年コムと同様に、あなたも社内の開発部隊から「これ聞いたの?」「あれは聞いたの?」「ここ足りなくない?」と辛いフィードバックをうけてきたのではないだろうか。
そんな時は、これまでの話を思い出すとともに、心の中でこう思って欲しい。
「ラッキーだ! また一つ想像の種が増えたぞ!!」と。
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