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【ファジサポ日誌】120.ビジャレアルの歴史を辿りながら~「街づくりにおけるスタジアムの在り方」講演会に参加して~

今週末からJ2リーグも再開します。いよいよ勝負の残り14試合に突入する訳ですが、その前の本日(7月29日月曜日)「21おかやま産業人クラブ」様が、タイトルのとおり「街づくりにおけるスタジアムの在り方」講演会を開催されました。

岡山においてもサッカー専用スタジアム新設の機運は少しずつ高まっているものと筆者は捉えていますが、一方でその必要性に対する理解も含めて、広く県民・市民の関心事にはなり得ていないとも感じています。

クラブは今シーズンの新体制発表会において、新スタジアムに関しては今年何らかのアクションを起こすことを示唆していました。(新体制発表会の内容は以下の投稿をご参考くださればありがたいです。)

筆者は今回の講演会が、新体制発表会において北川真也会長(当時:社長)が触れていたファジアーノ岡山新スタジアム建設に向けた最初のアクションになるのではないかと考え、聴講して参りました。

今回の記事は、その感想となります。
あくまでも筆者の個人的感想です。筆者なりの解釈を交えた構成になります。是非、参加されました他のサポーターさんのXでの投稿も参考になさってください。

1.講演会の構成

内容は大きく分けて、以下のとおりとなりました。

①ファジアーノ岡山の森井悠社長が、フットボールスタジアム・アリーナについてのクラブの基本的な認識を示す。

②ファジアーノ岡山の木村正明オーナーと同時期にJリーグ理事を務められていたスペイン、ビジャレアルの佐伯夕利子氏による「街にとってのクラブの在り方」に関しての講演。今回のメインの部分であったと思われます。

③佐伯氏、木村オーナー、21おかやま産業人クラブからオーエムホールディングス株式会社(ファジアーノ岡山スポンサー)の難波圭太郎代表取締役によるクロストーク

なお、21世紀おかやま産業人クラブさんに関しては、平易に述べますと、岡山経済界における県政応援団体と呼べる立ち位置とのことです。
オーエムホールディングスさんと言えば、チーム草創期からスポンサーを務められている印象が強かったのですが、そのとおり現在のファジアーノのスポンサー企業の中では最古参になられたとのことでした。

2.講演の内容

まずは講演内容について要約したいと思います。

① 森井社長の講演
U-18日本代表に選出された末宗選手の話題からスタート。
今春、社長に就任されたばかりとのこともあり、自己紹介にも時間を割かれていました。歴代の木村社長、北川社長、共にサポーターとの気さくな関係性が特長でもありましたから、こうしたお話も社長として必要な段階にあるのかもしれません。

後半では、ファジアーノ岡山としてのスタジアム・アリーナの認識を明確に示されていたと思います。いわゆる「体育館・競技場」と「アリーナ・スタジアム」との違いを「観戦者」にとって、価値あるものか否かで判断材料としているようです。更に具体的に7つの指標で細かく「体育館・アリーナ・競技場・フットボールスタジアム」を評価、フットボールスタジアムの必要性に言及されていました。
現段階でクラブは全国25スポーツ施設の視察を終えているそうですが、その中でも事例として強調されたのは、エディオンピースウイング、沖縄アリーナ、エスコンフィールドの3施設でした。

最終的にはスポーツ文化の醸成、スタジアムを「使う」ことによりスタジアムを地域で育てる、そしてスタジアムを街の象徴にするという基本的ビジョンを共有してくださったと思います。

② 佐伯夕利子さんの講演
森井社長が語ったフットボールスタジアムの基本的ビジョンを体現している、また101年の歴史の中で経験してきたのがビジャレアルといえる。
そんな佐伯さんの講演であったと思います。

全体的には人口5万人の小規模地方都市であるビジャ・レアルの歴史を時間軸にしながら、スタジアムの進化がクラブの成長となり、果ては街の発展に繋がるという経過と、そこから見えるスタジアムにまつわる考え方を語ってくださりました。

非営利団体としてのクラブから法人化する際の資金難に陥るといった「お金の問題」が悩みとなる中、佐伯さん述べるところの「フィランソロピー=富の償却」、「メセナ=富の循環」、そしてシェアの奪い合いではなく、「産業全体を盛り上げる」という発想を持つ親会社に買収されたことは大きな転機であったといえそうです。

クラブの大きな経営環境の変化を経験しながらも、3年以内に1部を目指す、育成アカデミーの充実を図る、スポーツCITYを確立するといった強化策を打ち出しながら、2000年代以降はいわゆるビッグクラブと異なる生き残り策を図っていきます。
そんな時が流れる中においてもリーマンショック、パンデミックといった社会課題に対して、失業者の年間シートを無料にする、リーガの包括放映権制導入を勝ち取る、そしてコロナ禍においてはスタジアム前にパブリックアートを設けて、芸術・文化の発信を行うなど、クラブが積極的に生き残りを図り、社会に対して発信していく姿が印象的でした。

現在、地方クラブのお手本としてファジアーノも含めて多くの海外クラブが視察に訪れるビジャレアルですが、ある視察者は社会の延長上にスタジアムがあると述べたそうです。

そんなビジャレアルのスタジアムは、現在新たな社会課題の要求に応えるため、サステナビリティな次世代型のスタジアムを目指しています。そのスタジアムのコンセプトは、コミュニティが生まれる、笑顔があふれる、歓喜が湧く公益としてのスタジアムとのことです。

③ クロストーク
佐伯さん、難波さん、そして木村オーナーのトークセッションです。
主に木村オーナーがお二人に質問していく形でした。

このクロストークの中で印象的でしたのが、ビジャレアルの育成の柱ともいえる「人を大切にする姿勢」でした。
佐伯さんの講演からも伝わる部分はありましたが、ビッグクラブとの格差の中でクラブを強化するには、自前で選手を育成しなくてはならない。しかし、まずは育成組織に入ってくる選手を大切にする体制を築かなくてはならないということでした。

選手寮の設備的な充実のみではなく、寮の職員数を充実させる、フルタイムのサイコロジストを12人雇用し、選手のメンタルケア、そして当時育成組織の監督も務めていた佐伯さんのコーチングに対する指導にも活かしていたそうです。ビジャレアルが2部に降格した時も、オーナーは充実した育成組織を縮小することだけはしないと述べたそうです。

こうした佐伯さんの話を受けて、木村オーナーからはABC契約の撤廃、そして今後予想されるサラリーキャップの撤廃後の危機感についても述べられていました。

3.感想

さて、ここまでお読みいただきまして、あれっと思われる方もいらっしゃるかもしれません。そうなんです。スタジアムの話は?という感じがしますよね。

この部分は筆者の表現力不足で伝わっていないのかもしれませんが、フットボールスタジアムをただのフットボールをする「場所」、「容器」として捉えていないのですね。クラブの発展=スタジアムの発展であるのです。よってクラブという主語がスタジアムに置き換えられるといっても過言ではないのです。スタジアムを公共的空間として捉える考え方も特徴的です。

100年続くクラブを目指すファジアーノ岡山にとって、101年目を迎えているビジャレアルは、まさに良質のモデルであるとの印象も深めました。
今、岡山が一部に上がろうとしている、そして育成を強化している姿はまさにビジャレアルもこれまで経験してきた道程ですし、近い将来、ファジアーノが迎えると予想される困難も、スペインの政治経済やリーガの格差構造を踏まえると、そのヒントはビジャレアルにあるような気もしました。

一方でビジャレアルの発展にあたっては、オーナー企業のいわゆる「一人勝ちは存在しない」という経営マインドが根底にあり、ユースの選手の名前を全員覚えているような草の根のサッカーへの関心が、地域社会の課題への高い感度となっている側面はあると思いました。

現在市民クラブであることから、体育施設の指定管理、部活動の地域移行、最近では浅口市寄島町の旧中学校のグラウンド整備など、社会問題の解決に積極的なファジアーノ岡山ですが、今後、何らかの企業にクラブを委ねるとなった時、果たしてこのような活動への理解が深いオーナーに出会えるのかは不透明であるといえます。一般的な日本企業の傾向を考えましても「シェア」の発想はなかなか生まれにくいように思えるのです。

更に今回の講演を総括しますと、ファジアーノ岡山にとってはスタジアムづくりの土台、理念に繋がる話が多かったと思います。

裏を返せば、フットボール専用スタジアムについては本当に構想段階という印象が却って強く残りました。しかし、理念、構想はしっかりしたスタジアムをクラブ、そして岡山経済界は考えているとも思いました。

森井社長が参考事例として挙げました3スタジアムからは、音響効果や映像効果、繁華街へのアクセス、更に試合がない日の集いの場としての提供という共通点が浮かび上がってきており、おそらく、建設地や新スタジアムの規模・施設面においても妥協しない姿勢も浮かび上がってきます。

そして、もう1点はスタジアムの公共性という点を重視している姿勢も改めて伝わってきました。それが故のビジャレアルとの連携であり、佐伯さんとの関係性であるともいえます。

このあたりは行政との関係性も重要になってきますが、この講演会自体が21世紀おかやま産業人クラブとの関係性強化により開催されたという点はひとつのヒントになるのかなと感じました。

正直なところ、新スタジアム完成まで時間はかかりそうですが、いざとなれば政田の成功体験がファジアーノ岡山にはあります。その際、ポイントになるのは、サッカーに関心が無い人、サッカーが嫌いな人も幸せに出来るスタジアム理念を私たちサポーターが訴えていくことかもしれません。

以上、雑然ではございましたが、講演会の内容をまとめさせていただきました。下には、最近のスタジアムに関する記事等を貼っています。
ライセンスに関わる秋田の状況からは、入場可能数の緩和要件について述べられています。
そして、野々村チェアマン来岡時のインタビューも参考資料として貼っておきます。チェアマンは民設を唱えていますが、おそらくこれはどこのクラブに対しても述べてらっしゃるテンプレート的な話であると思います。
ファジアーノ岡山の最近の流れ、金銭的体力、そして今夜の講演を踏まえましても、岡山の新スタジアムは公設または半官半民型の建設が現実的であると感じました。

お読みいただき、ありがとうございました。


【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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