くろせさんきち

短い物語を書いてます。 短編集『きまぐれ遊園』https://kakuyomu.jp/…

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短い物語を書いてます。 短編集『きまぐれ遊園』https://kakuyomu.jp/my/works/16817330652919721745 もし読んで頂けたら、何でもいいんで一言コメントお願いします!

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Teenage Kicks〜ルールを知らないオーナメント〜勝手に楽曲コラボ

「刺激的だろ?族車の装飾」 2ケツする前に必ず武は言うけど、確かに刺激的だった。 ロケットカウルもマフラーも、そして彼自身も…。でも、私が本当に惹かれていたのは、並走している博の3段シート。 そんな私の気持ちに武も気付いたのだろう。彼は愛車のシートを張り合うように高くしていき、年の瀬には最も刺激的な装飾になった。 「いくらなんでもヤバ過ぎない?すぐパクられるよ」 「刺激が必要な俺はな道交法なんて知らねんよ。それに今の時期にピッタシだろ?」 真っ赤なウィンカーがトナカイの鼻みた

    • Death Disco(Swan Lake)〜"にか"いめのデビューはジュリアナで〜

      私は永い眠りについた。 葬儀は一種の音楽葬。これから棺台に乗せられ、希望した曲が流れる段取りだ。 流れてきたのは白鳥の湖、ではなくユーロビート。 ダンサーとしてデビューした記念日の曲をお願いしたが、これは”二"回目のデビュー。即ちジュリアナデビュー記念日の曲だ。 なんという手違い。しかも棺"台"ではなくお立ち"台"に乗せられている。ひどい演出だ。 だが当時の記憶も甦る。厳格な両親の元でバレエ一筋に育てられた故の反抗だった。 しかし最初のデビューの時だって一生懸命だった。それこ

      • 着の身着のままゲーム機

        突如道路の真ん中に筐体が現れた。 これが着の身着のまま、夜逃げをしてきた者の前に現れるというゲーム機か。 近づいて見ると画面には、よく知る取り立て屋そっくりのキャラが、もう一人いた俺そっくりのキャラに近づこうとしている。 俺がコントローラーを動かすと同時に、画面の中の俺も動く。そうか、これは現実と同じく、プレイヤーが取り立て屋から逃げるゲームなんだ。 俺は画面の中で夜道を必死に駆ける。だが相手も負けずに追いかけてくる。 さあ、捕まえられるかな?まるでガキの頃に戻ったみたいだ。

        • Flowers Of Romance〜呪いの臭み:勝手に楽曲コラボ〜

          白菊に囲まれた父の体に蓋がされた。 釘を打つ母の瞳はまだ潤んでいる。 告別式でも語った恋愛話を思い出しているのだろうか。 外に出ると雪がちらついていた。 僕はバスに、母は霊柩車に乗り火葬場へと向かう。 信号で止まり、外を眺めると軒先に飾られた姫榊の花が見えた。 鰯の頭の代わりで、この花の臭いも鬼は嫌がるらしい。海のない地域ならではの習俗だ。 「他の親族が乗らないのも、ここだけなんだって」 隣に座るカナさんが言う。 その人は、最後に花を入れた女性だった。 火葬場に着くと蓋が

        Teenage Kicks〜ルールを知らないオーナメント〜勝手に楽曲コラボ

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        • 造園note
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          サンダーソニア〜ブーメラン発言道:勝手に楽曲コラボ〜

          その道はブーメラン発言道と呼ばれている。 宙に放った言葉がそのまま物質化し、自身の元へ戻ってくるからだ。 質量を伴っているので、当然当たれば痛い。 だが、発言師と呼ばれる芸人達は上手く身を躱し、黒い文字を道に突き立てる。 それは土地の名物にもなり、観光客がその言葉と記念写真を撮ったりもする。 それも歳を取っているからこそ出来る技。 若者が発すると、文字ではなく只の色として現れてしまう。発言師が皆年配なのもその為だ。 美術部の私がここへ来たのも、その話を聞いたから。 言葉にな

          サンダーソニア〜ブーメラン発言道:勝手に楽曲コラボ〜

          inu ni naru〜伝説の安心感:勝手に楽曲コラボ〜

          「パト〇ッシュ疲れたろう、僕も疲れたんだ」 少年は目を瞑って言う。 これが伝説として語り継がれる最終回か。確かに感動的だが何か違う。 「なんだかとても眠いんだ」 少年はもう一度隣で眠るオッサンに言った。 ……パト〇ッシュって人間なんっだっけ? 同じ事が前にもあった。 東北に花咲か爺さんの伝説が伝わる地があり、訪ねて文献を見せて貰うと、ポチが人間だった。 「ここ掘れ!」 台詞にワンワンが無いだけで全然印象が違う。というか、人同士だから老人虐待にしか見えない。 確か中国地方に桃

          inu ni naru〜伝説の安心感:勝手に楽曲コラボ〜

          Kiss Me Deadly〜グリム童話ATM:勝手に楽曲コラボ〜

          地下道を通り家に着くと、小人が俺達二人を地下室に案内しようとした。 相棒はまだ疑っている。無理もねえ、美女とキス出来るうえに大金まで貰えるんだ。 だが、報酬は確かにATMに入金されていた。疑問は残るがヤクを手に入れる為だ。俺達は黙って階段を下りた。 「誰にも見られなかったろうな」 小人が念を押すように訊く。 こんな真夜中だ、見かけたのはグレイハウンド一匹。そんなにヤバい仕事なのか? いや、ヤバいのは棺の中で眠る女だ。俺はその美貌に震えながら引き寄せらていく。 が、すぐに瞼が開

          Kiss Me Deadly〜グリム童話ATM:勝手に楽曲コラボ〜

          メガネ初恋

          メガネの女の子に恋をした。これは多分僕の初恋だ。 でも何処の誰だかわからないから、近所の占い師に見てもらうと「メガネに向かえば会える」と言われた。 なんだインチキか。諦めて帰る途中、橋の上にあの子を見つけた。しかもその橋は二連アーチ型で川面に映るのと合わせてメガネに見える、眼鏡橋だった。 そういう事か。でも踏み入れた途端、橋はグラグラと揺れ出した。欄干に凭れた僕達は見つめ合ったまま動かない。これって吊り橋効果?じゃあ、あの子も僕を好きに…。 なんて事はなかった。 なぜなら揺

          Devils Haircut〜ヘルプ商店街〜

          ぼくがここに引越してきて一月経った。 今日は八百屋のヒロ君の七五三で、同じ商店街の床屋さんが髪を切りに来てくれるんだって。 福引きに行く前にヒロ君家に寄ると、ちょうど髪を切ってるとこだった。 ヒロ君のパパもママも床屋のおじさんも真っ黒な服を着ていて、ヒロ君が掛けてる布だけ白かった。 Got a devil’s haircut in my mind おじさんが鋏を動かしながらよくわかんない英語の歌を唄うと、ヒロ君パパとママも真似するように唄った。 ヒロ君は何日か前から悲しそ

          Devils Haircut〜ヘルプ商店街〜

          失恋墓地

          クリスマスの夜、僕は妹の眠る墓地、通称失恋墓地にいた。 叶わぬ恋心を抱いたまま、永遠の眠りについた彼女のもとに、今宵歌が届けられるという。 He's got a ticket to ride And he don't care 最初に聴こえてきたのは『涙の乗車券』 賛美歌じゃないのか? 好きだよと言えずに初恋は ふりこ細工の心 次は『初恋』だ。 そうか、二曲とも失恋ソングでリードボーカルは故人。 失恋した妹に相応しい曲を歌い、天国に迎え入れてくれるという事か。 ポッ

          トモ君の葉っぱ

           プールで泳いだのも書いたし、蝉捕りも書いた。    西瓜割りは二回も書いた。川のは本当で海のは嘘。浜辺の色は白にした。  次は二回目の婆ちゃん家、これは流石にバレちゃうかな? 忘れ物を取りに戻ったことにしようか。   「馬鹿らな、宅急便があるらろ」  兄ちゃんが、ムシャムシャと西瓜を噛りながら言う。    「だって、もう書くことがないんだもん」  「あれは? ほら、泣きながら母ちゃんに歯医者に連れてかれてたじゃん」  「そんなの恥ずかしくて書けないよ」  「なら

          トモ君の葉っぱ

          執念第一

          M子がY先輩から第二ボタンを貰ったらしい。 先を越されたか。ううん、でもそれなら。 「じゃあ、私には第一を下さい」 「L美ちゃんごめん、これは取っておきたいんだ」 「そんな…私にはくれないの?」 「ごめん」 でも諦めなかった。それから毎日断られても断わられても、先輩に頼み込んだ。 これはもう執念だった。第一ボタンを貰おうとする執念、執念第一だった。 そして同時に、卒業後の進路を見つけた気がした。 夜、目を覚ますとL美が乗っかっていた。 そしてその手には、ホークが握られていた

          穴の中の君に贈る〜I Wanna Be Your Boyfriend〜

          今まで秘密にしていた話なんだけど、昔あるバンドに衝撃を受け、ギターを買いに中古楽器屋に行ったんだ。 でも中古といっても結構してさ、諦めようとしたんだけど、その時十円のアコギを見つけたんだ。 店員に訊くと、夜な夜なサウンドホールから歌声が聴こえてくるらしい。 なんでも元の持ち主が歌手志望の娘だったらしく、彼女が不慮の死を遂げた後店で引き取ったんだって。 そんな物売るなよと思ったし買う気もなかったけど、その娘の写真を見て気が変わった。 俺は店員からモズライトを借りると、見様見真似

          穴の中の君に贈る〜I Wanna Be Your Boyfriend〜

          男子宝石〜何も言えなくて…夏〜

          食料・物資の不足が叫ばれ早数十年。 物価高騰により貧窮した人々は、コールドスリープの道を選んだ。 俺達が今いる建物の下にも、そのうちの一人が眠っている。アレと一緒に…。 地下室に下りた俺達は、装置のロックを解除しカプセルの蓋を開けた。冷気が部屋に充満する…。 「おばちゃーん」 清が声を掛けると、寝ていた人物が目を開けた。 「なんだ坊主達か…今日もこれかい?」 駄菓子屋のおばちゃんは、隣に置いてあった井○屋のあずきバ○を差し出した。 土埃と汗に塗れて遊んだ夏の夕暮れ、俺達男子

          男子宝石〜何も言えなくて…夏〜

          違法の健康(改稿)

          握力は、健康状態の表れとも言う。 職場の握力テストで最低の結果だったボクは、近所のスポーツ用品店でハンドグリップを買うことにした。 だが、並んでいる品は値が張ったものばかり。既にカツカツだったボクは、隣町に出来た百円ショップに向かった。 「アキラさん、久し振りです」 と、声を掛けてきたのは、エプロンを掛けた高校の後輩だった。 「やあ、君ここで働いていたのか」 「はい。何か探してるんですか?」 「うん。健康のために、握力を鍛える道具を買いに来たんだ」 「なるほど

          違法の健康(改稿)

          バイリンガルギョウザ

          中華料理屋で頼んだ餃子が、僕と留学生の友人に話し掛けてきた。 「こんにちは」 と、最初に挨拶したのは焼餃子。 「こんにちは」 「ニーハオ」 と、言語を使い分けたのは水餃子。 友人が言うには水餃子は中国から泳いできて、その国の言葉を覚えるとの事。つまり、バイリンガルギョウザなのだ。 水餃子という程だから水に濡れても平気で、新しい土地にもすぐ順応出来る。つまり、水に慣れるのも早いらしいのだ。 「しかし餃子が喋るなんて初めて知ったよ。ヒダの所がパクパク開くけど、そこが口なのかい?」

          バイリンガルギョウザ