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風を纏う


普段は、めったに白衣を着ないのだが、

それでも、私は、白衣を着ることが好きだ。



なぜなら、単純に、格好いいからということと、

ある時から、白衣を着ることへの憧れをもったからだ。




その憧れは、ある先生がきっかけだ。






私が高校生の時。

これまでの人生の中で、最も暗闇にいた時。



高校生の時に、化学を教えてくれた、その先生は、

いつも白衣を着て、白衣のポケットに手を突っ込んで、

校内を闊歩する姿が印象的だった。



まるで、風を纏っているかのように、

その先生が歩くと、白衣が揺れ動く。



その先生が白衣を着る理由は、

実験をするからではなく、細い体を隠すため。


かなり老齢だが、非常に背が高く、細い方だった。

なので、その理由は、当時の私にも頷けた。




私は、その先生と初めて会った時は、

なんだか、ルーズそうな人だと思い、印象は良くなかった。


だけど、楽しそうに授業をされる姿から、

化学がとても好きな人なんだと思った。



ある日、質問があって、先生の元を訪れた。

その時、先生は、教科書に載っている以外のことも教えてくれた。

私が疑問に思ったことを、ほぼすべて教えてくれた。



そこから、私は、すっかり化学の世界に魅了された。


疑問を見つけては、先生の元に足を運んだ。


先生は、どんな時でも、笑って、答えてくれた。


時には、化学以外の教科も教えてくれたし、

私の個人的な悩みについても、

良い意味で笑いながら、吹き飛ばしてくれた。


私は、私でいい、

そう教えてくれたのも、先生だった。




先生に、色々なことを教えてもらう時間は、

すごく楽しくて、あっという間だった。





私は、その先生に出会い、

化学を教えてもらえたことで、今がある。


化学の楽しさ、面白さ、複雑さ、奥深ささ...

すべて、その時に教えてもらった。



先生みたいに、白衣を着て、実験したい。

風を纏って、化学を追究したい。

そう思ったから、大学も理系を志望した。



これは、大学の進学先が決まった後で知ったことだが、

私は、先生と同じ大学に通うことになった。


偶然すぎる偶然に、怖くもなったが

心から尊敬する方と同じ大学に通うことができて、

光栄の極みだった。




だから、私は、その先生を忘れられない。



今でも、時々、ふと思い出す。


3年前に、教育実習で再会したきり、

お会いできていないし、連絡もしていない。



もう退職されて、高校にはいらっしゃらないから、

連絡を取るしかないのだが、

その先生は、私にこう言ったと記憶している。




「俺のことは、忘れろ」




この言葉を聞いて、

先生たるやこのことだと、改めて思った。



先生とは忘れられる存在であればいい。




先生の先生としての姿を示した言葉。



だけど、不出来な私は、忘れられない。

忘れろ、という言葉が、余計に、先生を忘れられないようにしてしまった。



詳細は、また記事にできればと思うので、ここでは割愛するが、



あの時、風を纏いながら闊歩していた、先生がいなければ、


今、風を纏いながら、私は、歩けていないのだから。






先生、ありがとう。

私は、あなたに憧れ、真似をして、

風を纏いながら、今、この時を過ごしています。

纏う風で、色々な事をしています。

また、折を見て、連絡します。


先生、ありがとう。一生、忘れません。

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