雪村つばめ

おとぎ話に生きる物書き。うつくしいものを愛しています。

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銀河鉄道を追いかけて #1

1st stop よいやみ色の切符 「ヘラは嫉妬深い女神だったので、ヘラクレスにお乳を飲ませることを拒否しました。というのが正しい訳です。ヘラクレスは、英語ではハーキュリーズと言うのは、昨日やったはずなんですけどね?」  教科書を片手に、先生がじろりと一人の生徒を見下ろしていました。教室の後ろの方の席からその様子を眺めながら、正人は、より一層、英語の授業に嫌気がさしてしまいました。生徒たちが教科書の英文を読んで堅苦しい日本語に訳し、先生が間違いを指摘して、手本の訳を読むば

    • 孤独なオルフォイス

      10代後半~20代前半のころに書いた作品です。  ブツリ、とやけに生々しく、それでいて乾いた音が耳のすぐ傍で聞こえた。あ、と思う間もなく体がどさりと投げ出される。同時に、倒れた椅子に脚を強く打ちつけた。痛い。咳と共に吐き気が込み上げてきた。這って行く力もなく、その場ですべてを吐き出してしまった。何も食べていなかったからか、胃液しか出ない。物置で見つけた麻紐はどうやら古くなっていたようで、首に食い込んでいた跡を残したまま、途中で切れてぶら下がっていた。 「死ねなかった……」

      • 薔薇の妖精

        ——13,4歳のころ書いた物語です。きちんと形にして公開したのはこれがはじめて。(ワードファイルは紛失のため、ノートからなるべく原文ママに書き起こし。)  これは、そう遠くない昔のこと。  マイは、14歳で、中学へ通っていた。彼女は、花を育てて、部屋に飾るのが大好きだった。特に、白いバラがお気に入りだった。  ある日、マイは、白いバラが7輪も咲いたので、その花をつもうとした。すると声がしたのだ。 「待って! 花をつまないで!」  びっくりして、声の方を見ると、小さくて、とて

        • 花岡八幡宮の狛犬たち

          そもそも狛犬とは。 ・神社や寺院の前に置かれる、獅子に似た獣の像。 ・魔よけの効があるとされ、平安時代には清涼殿の御帳の前に、左に獅子像、右に狛犬が一対並べて置かれた。 (ブリタニカ国際大百科事典より引用)  現代ではどちらも狛犬という扱いだが、本来は、向かって右側で口を開いているのが獅子、左側で口を閉じ頭上に角があるのが狛犬だそうだ。これが阿吽、陰陽になぞらえられる。  真面目なお話はこれくらいにして。ふとしたきっかけから興味を持ったので、改めて、幼少期からお世話になっ

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        銀河鉄道を追いかけて #1

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        • ツバメ旅行記
          10本
        • 銀河鉄道を追いかけて
          7本

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          2020.4 太鼓谷稲荷神社・徳佐八幡宮

           紅葉シーズンも盛りを過ぎ、初雪すら観測された今の時期に、桜の話をしようとしている。  私は、桜の花を愛している。  冬から春へと季節が移ろい、空の青さが、空気の温かさとともにくっきりと次第に濃く青くなってきた頃、見上げると、淡くピンクがかった白い雲が手の届きそうなところに浮かんでいる。  いつも、心洗われるような感覚が胸いっぱいに広がっていくのを感じる。見ているだけで、自分の内側がその美しさで満たされていく心地だ。  日本では、どこかへわざわざ出かけていかなくても、普段の

          2020.4 太鼓谷稲荷神社・徳佐八幡宮

          2022.07 奈良・某所

          先月、奈良の寺院や神社を訪ねた中でも、蓮の花が見どころであったあるお寺であまりに楽しい出会いがあったので、紹介させていただきたい。 (野生の生き物に関する言及があるので、具体的な場所を一応伏せる。) 蓮の花はこのように鉢に植えられ丁寧に並べられていて、なかなか、圧巻の花景色! とはいかなかったけれど、どの花もはっとするような美しさだった。 きちんと参拝も済ませた後、地図の案内に従って苔庭を目指した。 雨上がりで木陰ですら蒸し暑く、蝉しぐれがまた、その暑さを引き立てていた

          2022.07 奈良・某所

          2020.2.24 なぎさ水族館

          この日は朝から雨、そして曇り。 花粉が飛ぶ前に出かけてしまおうと、周防大島町のなぎさ水族館へ行ってきた。 島へ入ってからの道のりがなかなかに長いのだが、だんだんと差してきた日の光に照らされ、瀬戸内の海がエメラルドグリーンに透き通っていて、それを眺めている間に到着してしまう。 このなぎさ水族館はとても小さな水族館だが、最近ではネット上で白いナマコが話題になっていたり、何より今回の私の目当ての、日本最大級の屋内タッチングプールがある、とても魅力的な水族館だ。 入口の扉をく

          2020.2.24 なぎさ水族館

          2020.02.08 よこはま動物園 ズーラシア(2)

          さて、気を取り直して進めていくとしよう。 もはや個人的に申し訳程度の記録を残そうとしているばかりの文章になってしまう。 自分の画像フォルダから、なんどかヒョウ?のような写真を見つけたものの、あまりにひどいブレっぷりの写真だったので、次の動物へ。 これは何の動物かわかるぞ!と元気を出したが、それでもこの様子だ。 この子は、ユーラシアカワウソ。カワウソたちはネコ科動物たち以上に、丸くなって眠っている場面にばかり出くわしてきていたので、あまりの活発さにびっくりしてしまった。 そ

          2020.02.08 よこはま動物園 ズーラシア(2)

          2020.02.08 よこはま動物園 ズーラシア

          かの有名な、憧れのこの動物園に行ったのは、去る2019年10月のこと。 日記を書けるまでに、随分と時間が空いてしまったため、写真のアルバムを見ながら記憶をたどって、記してみることにする。 動物園のスターといえば、のうちのひとりは間違いなくゾウだろう。この写真の彼らはインドゾウだ。 いつ、どこで見てもその存在感はやはり大きく、賢い動物なので我々人間が自分たちのことを見てはしゃいだり、写真を撮ったりしているのもしっかり意識している。そのために、ゾウらしい過ごし方をしてやろう

          2020.02.08 よこはま動物園 ズーラシア

          銀河鉄道を追いかけて #7

          7th stop 手のひらに銀河の欠片  正人は、くらくらする頭に手を当てて、目を開きました。コオロギの鳴き声が、耳元や遠くで聞こえています。起き上がってみると、正人は、公園の滑り台のすぐ下に横たわっていました。 「真吾!」  正人はあたりを見回して、すぐに真吾を見つけました。真吾は正人のすぐ近くで、リュックサックを抱えたまま、倒れているのか、寝てしまっているのか、わからないような格好でいました。 「んー、あれ。マサ?」  真吾は眠たそうに身を起こして、正人を見ました。正人は

          銀河鉄道を追いかけて #7

          銀河鉄道を追いかけて #6

          6th stop 居るべき場所へ よだかが二人を降ろしてくれたのは、南十時駅の傍でした。北からそう遠くない場所に、白い渚と大きな十字架が見えました。 「あちらのほうへ行ってはいけませんよ。あすこへは、きみらはまだ、行く時ではないんですから」  よだかは厳しい表情で、少しだけ心配そうに言いました。 「次の汽車が来たら、すぐにお乗りなさい。それから、あまりこの銀河にも長居しない方がいい。きみたちは、ほんとうは、地上に居るべきなのだから」  正人はうなずいて、お礼を言いました。真吾

          銀河鉄道を追いかけて #6

          2019.11.03 秋吉台サファリランド

          10月某日、よく晴れた、空も景色も眩しい日だった。 実はこんな日は、動物たちを見るにも、写真を撮るにも、最適というわけではない。個人的には、曇りや雨の日が、過ごしやすさの面でも、眩しさにまけず動物たちを見られるという面でも、動物園日和なのだ。 だが、この日行ったのは秋吉台サファリランド。坂道も多く、広い敷地を歩くには、やはり明るく晴れたこんな日でとても運がよかっただろう。 今回はサファリゾーンには入場せず、通常の動物園のように歩いて廻れる動物ふれあい広場を訪れた。 「動

          2019.11.03 秋吉台サファリランド

          2019.8.1 萩博物館・特別展「危険生物大迷宮」

          気がつけば、梅雨も明けて、すっかり信じられないような暑さに世界中が飲み込まれてしまっている。 私は、寒さよりも暑さの方がずっとずっと苦手だ。 自分の部屋から一歩も外へ出たくなくなる前に、博物館へ行くことにした。博物館ならば、屋内なので、暑さにやられてしまうこともない……!(その意味では水族館もおすすめだ。) 今の時期、萩博物館では夏休みの子供がターゲットなのだろうか、ちょっとエンターテインメント的なタイトルと紹介で特別展をやっている。去年か一昨年はたしかUMAの解説やそ

          2019.8.1 萩博物館・特別展「危険生物大迷宮」

          2019.06.23 光あじさい苑

          来週からこの辺りもいよいよ梅雨入りらしい。 本音を言うと、花を見て、写真を撮るのに適しているのは、少し曇っていて、何なら程よく、しとしとと雨の降っているような日であると思う。 太陽の光が反射して、花の色も眩しく本来の色がとらえられなくなってしまうからだ。 しかし、6月の終わりはもう見え始めてしまっている。 ぐずぐずしていて機を逃しても残るのは悔いばかりなので、ようやく紫陽花を見に出かけてきた。 時刻は9時を過ぎた頃。ゆっくりと道すがらも楽しみたいので、あじさい苑の反

          2019.06.23 光あじさい苑

          2019.06.16 周南市徳山動物園

           朝起きるのがどうしても苦手な私だが、その朝はそこそこ元気に目を覚ました。今日は動物園へ行くのだと、決めていたからだ。窓の外を見ると、良いお天気。しかも、肌寒いくらいに涼しい。  これは絶好のお出かけ日和だ!ということで、「周南市徳山動物園」へ。  開園時間の9時を過ぎて、日曜日の家族連れが集まり始めるなか、到着。  入り口を通り、まず目に入ったのが、無料で貸し出ししている日傘。これは本当にありがたい。気温はそれほど高くないものの、日差しが鋭く痛かった。お借りして、先に

          2019.06.16 周南市徳山動物園

          銀河鉄道を追いかけて ♯5

          5th stop さまよう銀色の少女 真吾がしばらく歩いているうちに、草原の向こうに、白くて大きな砦が見えてきました。 「真吾くん。あれが、少女の砦ですよ」  よだかがくちばしでそれを指しながら言いました。真吾も、それを真っ直ぐに見据えます。砦は、青く暗い空を背中に、月の光のようにぼんやりとしてうつくしい光と、そのなかにところどころ細かく砕いた水晶を散りばめたような透き通った光を放っているのでした。 「ありがとう。行ってくるよ」  真吾がそう言うと、よだかは心配そうに

          銀河鉄道を追いかけて ♯5