見出し画像

自分たちで、規律をつくる。サイレントサッカーの育成力

観客にイエローカードが提示される大会がある

今年からサッカーの競技規則が変わってベンチのスタッフにもイエローカードが提示されるようになりました。でも今回はそれとは全然別の話。指導者や観客にイエローカードが提示されるルールの設けられたゲームがあることを御存知ですか?

育成先進国イングランドでジュニア年代のために設けられた草の根ルール。指導者も観客(主に保護者ということになりますね)も、コーチングに類する声かけを一切許されないというものです。拍手や歓声や悲鳴はOK。でもついつい我が子に向けて叫んでしまいがちな「蹴れー!」とか「あっちが空いてるぞー!」とかいった声援はすべてNG。思わず口にしてしまったらレフェリーからイエローカードが提示され、2枚累積すると退席ということになります。口出しせず静かに見守る。だから通称「サイレントサッカー」と呼ばれているようです。

その目的は実にはっきりしていますね。ピッチにいる子どもたちが自ら判断してプレーを選択し、ゲームを組み立てていくように仕向けるためです。監督の指示どおりに動けば確かに勝利には近づくかもしれない。けれど、それでは選手たちは自ら判断する余地を与えられず、思考停止状態でボールを追いかけることになる。サッカーIQとは無縁の世界です。それに、他者から指示されて動くより自分で判断して動くほうがタイムラグもないですしね。

そんなわけで、日本の育成年代指導者たちの中にも、サイレントサッカーを取り入れる人が徐々に出てきているようです。

大分県で初のサイレントサッカー大会が開催される!

この記事を書いているいきなり4日後の話で恐縮なんですが、2019年10月5日、このサイレントサッカーのU-11の大会が、中津市で開催されます。大分県下では初のはず。今回は初めてということもあり、観客にイエローカードを出したりはせず、やんわりと口頭で注意するくらい、とのことで、大会要項に記された「特殊ルール」は以下のとおり。

1)指導者の指示禁止
2)スタメン、選手交代、戦術は選手が行う
3)保護者の戦術的指示一切禁止
4)選手の出場機会確保(全選手が一人一試合必ず5分以上出場)
※怪我など以外は静観でお願いします。違反を犯したチームは大会事務局より注意を行います。

今回参加するのは10チーム。中津市内のクラブ以外に、福岡や山口からも。この10チームが2パートに分かれて12分ハーフ(ハーフタイム5分)のリーグ戦を行い、その後、各パートの1位2位が対戦するというレギュレーションです。

主催するのは、中津市を拠点とする「FCジュニオール」代表・浦本雅志さん。中津生まれで2000年に当時J1のアビスパ福岡でプロデビューし、その後も地域リーグでプレーしていた元ミッドフィルダーの育成指導者です。

画像1

現在6年生の長男・心温(しおん)くんもFCジュニオールの選手。でもパパはサッカーを教えたことはないんだとか。

選手に使われるコーチたち!? モットーは「超自主性」

FCジュニオールが掲げるのは「超自主性」。「超」ってどんだけや!

たとえば試合の準備。練習用具や機材のセット、テント設営、挨拶、アップとすべて選手主導で行います。選手と言っても小学生ですから、当然、チームスタッフがそばで見守ってアドバイスもするわけですが、それも最小限。逆にコーチが「俺たち何すればいい?」と指示を仰ぐと、選手たちが「暑いからポンプで水かけといて」と答えるレベル。その子どもたちの頼もしい様子に、コーチ陣は喜んでこき使われているようです(笑)。

トレーニングももちろん「超自主性」。戦術面でも、

技術面でも、

出来るだけ選手たちに考えさせるように仕向ける指導法。

ライフキネティックの要素も取り入れているのかな。通常のポゼッション練習にイレギュラーな状況に対する瞬時の判断力向上も加味したメニュー。

キャプテンも月替わりで、選手たちに話し合いで決めさせたり、それを適宜サポートしたりしています。その中で、「そういうタイプじゃなかった子がキャプテンシーを持つようになったりもする」のだとか。まさに環境が人を育てるんですね。

普段から積み重ねているこういうトレーニングの成果が、サイレントカップで試されますね浦本さん!(プレッシャー)

指導のルーツはあの名将。徹底的に頭を使った高校時代

実は浦本さんはインターハイや選手権で全国大会出場を果たし、国体メンバーにも選ばれた大分高校サッカー部OB。つまり、あの朴英雄・元監督の教え子なのです。「あの」ってどのだよ、という方は拙著ですがこちらを。

読んでいただければ話が早いのですが、とにかく選手に頭を使わせてサッカーをさせた先生です。世界の最新の戦術とか指導法とかについても、あれはもう勉強熱心とかいうレベルではなく、研究者でしたね。あんなにキャッチーなトークで人を楽しませる才能も持っているくせに、休み時間には大抵一人きり愛車の運転席にこもってタブレットでずっとサッカーの動画を見たり記事を読んだりしていた。2002年の選手権全国大会で3-3-3-1システムでの戦いを披露して解説者を唸らせたというエピソードも。以前から「地球上にないフォーメーションを考案したい」とかも言ってましたが、わたしに「ポジショナルプレー」というものを初めて教えてくれたのも、朴先生でした。

あの中野吉之伴さんも中津へやってきた!

育成指導者になった浦本さんの姿には、恩師である朴先生と重なるところが多々あって、FCジュニオールの指導体制にも、それが表れています。

まずはトレーナー。理学療法士を常駐させ、毎週1回3人ずつの選手の状態をチェック。コンディショニングも含めきめ細やかにアドバイスします。フィジコを兼ねているのでアジリティーにも専門知識が生かされます。

食育方面にも抜かりがありません。栄養アドバイザーとして、スポーツ栄養専門の管理栄養士の川上えりさんと業務提携。保護者を含めたグループLINEで随時アドバイスをもらったり、年に数回の講演会を開いたりしています。

他クラブの選手たちも自由に参加できるイベントも企画していて、今後はまず、12月22日に中津市商工会のお祭り「Loveファンタジア中津」でフットサル大会を開催。元ミスタートリニータの高松大樹さんをゲストに招きます。来年2月1日には元日本代表・前園真聖さんのサッカー教室も。

指導者の勉強の場も設けます。最近ではイングランドと並ぶ育成先進国ドイツ在住の育成指導者・中野吉之伴さんの講演会をセッティング。世界の最先端を、この九州の片田舎(ごめん、でもわたしも中津出身なので許して)にいながらにして肌で感じることが出来るなんて最高かよ。

育成年代だからこそ、指導の質はもっと追求されるべき

そういうイベントや勉強会の企画は、並大抵の情熱では成し遂げられないものです。クラブを立ち上げて3年目、いまだ会社員を続けながら、企画し協賛を募り段取りをして実行するまでのモチベーションは、ちょっとすごい。

それは多分、「そこにある才能を大切に育てたい」という思いからなのだろうなと、熱のある育成指導者たちの話を聞いていて感じます。熱と言っても昔ながらの根性論とかではなく、たとえ小さな子どもであろうともプレーヤーとしてリスペクトし、その存在を大切にするという熱。

指導者自身のスキルが高くなくては、せっかくの才能も潰しかねない。選手の判断力を奪うかもしれないし、それ以上に、サッカーを楽しむ気持ちさえ失わせてしまうかもしれない。たとえばゲームの中でパスが通らなかったとき、それは出し手のミスなのか受け手に要因があったのか、指導者として的確に判断できますか、ということ。「結果論で叱ってはダメ」と、浦本さんは訴えます。選手ひとりひとりの、その状況でのその瞬間のプレーの意図を斟酌し、その上でどう指導するか。指導者自身もつねにアンテナを張り巡らして、自らのサッカー観をバージョンアップし続けなくてはなりません。

現代サッカーの進化につれて、求められる状況判断の質も変化していると感じます。育成年代から思考し判断することを習慣づけておくために、何をすればいいのか。

まずはそのひとつとして、サイレントサッカー。興味のある方は観戦に行かれてみてはいかがでしょう? くれぐれもサイドコーチングして注意されないようにしてくださいね(笑)。

2019 U-11 サイレントカップ
日時;2019年10月5日(土)9:30〜17:00
会場:中津市営永添サッカー場(人工芝)

問い合わせ先:FCジュニオール 浦本
TEL:090-7921-9154

文章を書いて生計を立てています。楽しんでいただけましたらサポートお願いいたします♪