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夏ピリカグランプリ応募作品(全138作品)

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2022年・夏ピリカグランプリ応募作品マガジンです。 (募集締め切りましたので、作品順序をマガジン収録順へと変更いたしました)
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#私の作品紹介

短編小説 | 水鏡

 かつて、水にうつった自分の姿を見て、惚れてしまったナルシスという人物がいたという。 「おお、なんて美しいのだ。わたしはあなたのことを愛してしまいました」 そして、そのまま、水の中に入っていって死んでしまったという。 「それって神話だろ。そんな奴は実際にはいないだろう」 「いや、それがそうでもないらしいんだよ。とある統計によれば、少なくても今までに158人が、ナルシスと同じ死に方をしたらしいぜ。ぼくの知っている秘密の蓮池で」 「とある統計ってどこの統計だよ?だいたい、その蓮

夏ピリカグランプリ応募✨童話【おばあちゃんの三面鏡】

ピリカさんの夏ピリカグランプリに参加させていただきます。  童話【おばあちゃんの三面鏡】 「おばあちゃんいるかな」 もえこはおばあちゃんの部屋の襖をそうっと開けました。そこにはおばあちゃんがいつも座っていた座布団がぽつんとありました。 もえこはまだおばあちゃんの匂いのするその部屋に入って座布団に座りました。 すぐそばに三面鏡がありました。 もえこはおばあちゃんの三面鏡がお気に入りでした。だってママのと違って鏡が3つもあるからです。 もえこは三面鏡の前に座って鏡の扉を開き

太陽と月のエチュード|夏ピリカグランプリ応募作|

『ハルのピアノが大好きよ。私はいつだってあなたの一番のファンなんだから』 鏡の中でハルに顔を寄せ、お母さんは笑った。肩を抱いてくれた手のひらが、じんわりと温かかった。 念願の音楽大学に合格した日、お母さんは飲酒運転の車にはねられて死んだ。 鏡に映った自分の泣き顔を、ハルは力任せに叩き割った。 以来、ハルのピアノから感情が消えた。 音大生となったハルは、機械になったようにピアノを弾いた。無表情で次々と難曲を弾きこなす姿は、他の学生たちを遠ざけた。 試験が迫った日

『アンティーク』(夏ピリカ)

私は大学を卒業後、憧れの英国に留学する事を決めていた。 中学の時、兄が聴いていたビートルズの曲に衝撃を受けてから、音楽だけではなく英国に関する映画や本、そして古城に興味を持ち、時間をかけて訪れたいと思っていたのだ。 ✴︎✴︎✴︎ ロンドンに来て一ヶ月が過ぎた頃、蚤の市を見に行った。日本では殆ど見かけないアンティークな人形やオルゴール、陶器などもあって、見て歩くだけでも楽しかった。 歩いていると、老婆と目があった。 何か言いたげな感じだったので、「ハロー」と声をかけると、

鏡の中のバディ【夏ピリカグランプリ】

 「あー、もっと可愛くなりたいよー。どうすりゃいいのかな」  ひなたは手鏡を片手にソファにごろんと転がった。お風呂上がりのスキンケアもそこそこに、ひなたは鏡の中の自分の顔を見ながら独り言を言った。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。  「お前、何言ってんの?自分で自分を可愛いって思わないでどーすんの?」  ひなたは飛び上がって周りを見渡した。だけど、当然ここには自分一人しかいない。怯えるひなたにはお構いなしに、また声が聞こえた。  「ひなた、ここだよ。鏡の中だよ

【夏ピリカ】鏡あらわる

とつぜん、目の前に大きな鏡が現れた。 楕円形の、つるりと光るそれに映っているのは、わたしじゃない。 ななめ前の席で、向かいあうようにして給食のカレーを食べる、クラスメイトの石川くんだ。 ワイシャツの白とセーラー服の水色に沸いた、 にぎやかな教室で思わず目を瞬かせた。 ためしに、スプーンでカレーを掬ってみた。 鏡を見ると、石川くんも同じようにしていた。 ほおばる。 もぐもぐと、口を動かす。 鏡のなかの石川くんも 同じようにカレーを食べている。 ……何これ。 あんま

短編小説『じいちゃんの言葉』#夏ピリカグランプリ応募作品

 夕焼けを見るとじいちゃんを思い出す。もうずいぶん昔のことになるが、オレはじいちゃんと毎日のように川沿いの道を散歩した。昼間だとキラキラ光る水面も夕方には輝きを落とし、西の空に大きな赤い太陽が見えた。ビル越しに沈んでいく太陽が空をオレンジや赤に染め上げた。 「タカヒコ、ほら、見てみろ。きれいな夕焼けだ」 「明日もいい天気になるね」 「そうだな。夕焼けはな、どこかで誰かが笑ってるから出るんだぞ」  当時オレは小学校に入ったばかりだったか。じいちゃんの言うことはよく分からなかった

三面鏡

その日も母に叱られて泣いていた。 「ホントにもう!なんでこんなことが出来ないの!」「何やらせても遅いんだから」キツいことばが頭の上から降ってくる。 こんなに叱られてばかりでお母さんはわたしを嫌いなんだ、もしかしたらお母さんの子供じゃないかもしれない。泣きながら母の部屋にある三面鏡を開けてみた。 両側の鏡を閉じるように顔を突っ込むとたくさんのわたしがわたしを覗き込むように迎えてくれる。 「どうしたの?」正面に映るわたしが話しかける。 「あのね、お茶碗洗っておこうと思ったらフ

【短編小説】 鏡よ鏡 【夏ピリカ】

「鏡よ鏡、この世で一番可愛いのは誰?」 幼少期によく絵本で読んだグリム童話の真似をして、戯けて問うが返事は無い。おかしい。聞こえなかったのだろうか。 「ねえ、鏡よ鏡。この世で一番可愛いのは誰だと思う?」 まただ。返事が無い。 「聞こえているんでしょ。何とか言ったらどうなの」 何度問いかけても返答がないことに、だんだん声を荒げてしまう。 「どうして何も答えてくれないのよ」 鏡は沈黙を貫いたままだった。いつまで私を無視し続けるつもりなのだろう。この前まではそんな事し