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『アンティーク』(夏ピリカ)

私は大学を卒業後、憧れの英国に留学する事を決めていた。
中学の時、兄が聴いていたビートルズの曲に衝撃を受けてから、音楽だけではなく英国に関する映画や本、そして古城に興味を持ち、時間をかけて訪れたいと思っていたのだ。

✴︎✴︎✴︎

ロンドンに来て一ヶ月が過ぎた頃、蚤の市を見に行った。日本では殆ど見かけないアンティークな人形やオルゴール、陶器などもあって、見て歩くだけでも楽しかった。

歩いていると、老婆と目があった。
何か言いたげな感じだったので、「ハロー」と声をかけると、老婆は優しい笑顔を見せ、私にアンティークの手鏡を見せてくれた。
「素敵ですね」そう話しかけ、手にとって見ていると、一瞬鏡の中に英国の古いお城が見えた気がした。
「あっ…」と思わず声が出た。
私の動揺とは別に、老婆は私の顔を見ていた。
その日、その手鏡だけを購入して帰って来た。

✴︎✴︎✴︎

手鏡を購入してから、夜中の2時くらいになると淡い光と共にラップ音を聞くようになった。
決して霊的な現象を信じるわけではないけれど、来た当初は無かった事なので、少し不気味に思っていた。

そして、今夜もその現象が起きた。
勇気を振り絞って淡い光の方へ歩いていくと、そこにはあの手鏡があった。
そっと手にすると光は消えたが、そこには…あのお城が写っていたのだ。
突然、私の目から涙が溢れてきた。
お城の周辺には、ローズガーデン。
そして、ドレスを着た女性が刺繍を手に椅子に座っている様子が映っていた。
私は声にならない声で「逃げて!」そう鏡に向かって叫んでいた。
一体何が起きているのか?
到底理解する事は出来なかった。
私はこの事を誰に話すでもなく、この手鏡をあの老婆に返しに行こうと決めた。

あの出来事から二週間。
また、淡い光と同時にラップ音が聞こえたのだ。
私は手鏡を恐る恐る手にした。
今度は、白馬に乗った女性と男性が映っていた。幸せそうな光景。
それなのにまた涙が溢れてきたのだ。
次の瞬間、女性は落馬。
そこに数人の男性が現れ、怪我をして動けない女性を連れ去ったのだ。
「誰か助けて!」私は泣きながら叫んだ。
私は狂ったの?
自分でも分からなくなっていた。
結局朝まで一睡もできず、手鏡を鞄に入れ、蚤の市へ向かった。

一店舗一店舗食い入るように見て回っていると、遠くからあの視線を感じた。
老婆に違いなかった。
心臓は今にも飛び出しそうだったが、平常心を装って老婆に挨拶をし、購入してから体験した不思議な出来事を話した。
「お嬢さん、あなたのだったのね。さあ召し上がれ」
穏やかな目で老婆はそう言って紅茶を淹れてくれた。

✴︎✴︎✴︎

老婆が言うには、人間の魂は何度も生まれ変わるらしく、手鏡の中の女性は私の前世だったのではと。
英国に来た事、そして蚤の市で老婆からこの手鏡を買った事、全てそうなるべくしてなった事だと。

その日の夜、私は手鏡を枕元に置いて寝た。
夢の中にあの女性が出てきて微笑んでいた。

(本文1178文字)

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