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文章読本(谷崎潤一郎:著)【ブックレビュー】

文章読本系のジャンルをかいつまんできた。
そんななかでも、いまだ文章読本系のトップに君臨するといえる、この本。

本書は、「痴人の愛」「細雪」「春琴抄」などの作品を世に送り出し、耽美派として知られる谷崎潤一郎氏による

文章読本

出版社: 中公文庫
発売日: 1975/1/10(初版)
     1996/2/18(改版)

https://www.amazon.co.jp/%E6%96%87%E7%AB%A0%E8%AA%AD%E6%9C%AC-%E4%B8%AD%E5%85%AC%E6%96%87%E5%BA%AB-%E8%B0%B7%E5%B4%8E-%E6%BD%A4%E4%B8%80%E9%83%8E/dp/4122025354

このなかから、心に留め置きたい言葉をいくつか、のこしておきたい。



言葉は万能なものではない。

初版が発行されたのは約50年前のこと。
偉人の言葉は、時を重ねても心の奥深くにスッとつき刺さる。

言葉だけで、すべてのことが伝えられるわけではない。

私がつづる文章が、
たとえ不器用な表現だったとしても
誰かにとっての有害なものではなく、
願わくば、有益なものであってほしい。

限界を知り、限界内に止まる。

すべてのことが言葉で表現できるものではない。

人にわからせるように書くには、
限界があることを知ることが大切。
そして、限界内に止まること。

たとえ、使う言葉の数は少なくとも、
人に与える印象の深さは、
必ずしも、言葉を多用した饒舌な文章に劣らないという。

すらすらと云える文章か。

もしすらすらと読めないようであれば、それは悪文であるといっても間違いではない。
音読がいかに大切なのか、折に触れてせつせつと説く。

字面の美と音調の美が揃うことこそ、相手に伝わる文章であるという。

文法に囚われるな。

文章の上達のためには、文法に囚われないことだという。

編集作業をしていると、ついつい正しい文法で…とお直しをしてしまうことがある。
けれど、実は編集しないほうが「人間らしさ」があらわれているのではないか。

完璧な文法を目指すのではなく、そのとき、そのときに必要な言葉を選ぶ。

囚われず、ありのままに。

感覚を磨くこと。

文章の上達のためには感覚を磨くことが大切。
そのためには、上記の2つが心がけることだという。

たくさんの文章を読み、自分でも書いてみる。
何度も何度も、この二つを繰り返す。

自らの心をあらわす文章、相手に伝わる文章。
朴訥と、日々の繰り返し、少しずつ前を向いてあゆんでゆく。

調子(リズム)は天性のもの。

村上春樹氏をはじめ、多くの著名な作家からも聞くこの言葉。
文章には「リズム」が欠かせないと。

文章における調子、リズムは、その人の精神の流動であり、血管のリズムであるという。

もしかしたら、自分好みの文章には、ある特定のリズムの心地よさがあるのかもしれない。

noteで
「これ、いい文章だな」
そんな風に思った方の文章は、きっと自分の考えだけでなく、リズムも共鳴しているのかもしれない。


自らは卑下し、相手を敬う日本人。

ある文章講座で講師の方に添削していただいた際、
「へりくだりすぎ」
と言われたことがある。

確かその文章は、ある大手企業の部長クラスの方へのインタビュー音源をもとに、一人称でまとめる課題だった。

私は過去にバックオフィスで長らく勤めていたこともあり、ついつい自分を一番下に置く癖がついていた。
文章を書く際に、無意識でつくられた癖が、悪いほうへ出てしまった。

確かに日本人はへりくだるのが好きだ。
でも、必要な時だけにしておきたい…。

薄皮一枚で、品の良さを感じる日本人。

はっきりくっきり語る欧米人に比べて、ほんのりと、香るような表現を好む日本人。
それは奈良平安の時代から長く続く日本らしさの象徴ともいえる。

今では、自らの体験や思ったことをはっきり伝える表現者も増えてきた。
それに同調する人も増え、noteでも著名人・一般人関わらず、自らの思いを言葉にのせ、送り出す。

私はライターで、必要に応じて表現は変えるのだけれど、心のなかでは薄皮一枚を好む日本人かな、と認識している。

春の山に吹く、のどかであたたかい風のような言葉。
朝露に濡れた葉がほろりとこぼす、玉雫のような言葉。
心にポッと明かりがともるような、そんな言葉に癒される。

この本が、終始説いているひとつのこと。

谷崎氏がいう含蓄とは、「饒舌を慎むこと」であり、言い換えれば、

含蓄について細かな説明はなく、この本のすべてを熟読すれば、自ら理解できるものだという。

輪郭をぼやかすように、想像を掻き立てるように。

文章の世界は命の限り、続いていく。
楽しくもあり、険しくもあり、でも、もっと進んでみたくなる道。


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