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最近の記事

【雑】躾のできていない犬

久しぶりに自分のために文章を書く。自分のためというのは、自分が思っていることを書くためということだけど、考えてみれば私の場合は会社員の仕事以外にこうして書いている文章のすべてが自分のためにやっていることなのに、その中で自分のための文章と自分のためでない文章に分かれはじめるのが不思議だ。自分のためでない文章というのは、既存の小説やコントような一定の型を有する作品と呼ばれる種類のものであって、「はい、ここでカット」、「ここで風景描写」、「ここで二人の会話入れよう」といった、人を楽

    • 【雑】なにをもってセックス

      (雑記) 小説を書いたことがある人なら分かると思うけど、人の書いたものにはどうやってもその人がいて、考えていることが出てしまうから、小説を書いて、読まれて、私も人の書いた小説を読んで、そういうことがあったなら、それってなんかもう実質的にセックスなんじゃないかな。そういうのってあり得ないのかな。 セックスが肉体のやりとりでそれでいて肉体以上に精神的なやり取りの機微だというのなら、もういっそのこと肉体を介さないで精神と精神を直接やり取りした方が早いんじゃないか。 目の前にいる

      • 【エセー】リアル真夜中の恋人たち

        どうしようもなく惨めで、自分が世界で一番不幸だと思ってしまう夜がある。昔はほんのたまに、一時期は一年の半分以上夜だけでなく昼も、今はそこまでじゃないけど少なくない日数、そういうことがある。 人は生まれながらにしてそのような気持ちを持ち合わせているわけではない。最初にこの気持ちを知ったのはいつのことだろう。たぶん20代半ばのころ。それまでわたしはずっと研究者になりたいと思っていたし、そうなれるくらいには賢いと思っていた。ある所までは実際にそうだったのだけど、いざ自分が研究室に

        • 【詩】古本がすきだということ

          わたしは本がすきだと思う 古本がすきだと思う 古本に染みこんでいる時間がすきだと思う だれかが読んでた数時間、家に置いてかれてた時間、古本屋のバックヤードに放置されてた時間のこと そんなことを考えたりします 古本に微量に残存する理由のことを考えたりします 買われた理由、売られた理由 知りたかったこと、知れたこと、知りきれなかったこと 本を読むことで近づきたかったあの人、もっと知りたかった人、何を考えていて、何が好きなのか知りたかったあの人のこと 本の話ができた人、仲良くなれ

        【雑】躾のできていない犬

          【小説】 彼、あなた、私のインスタントな失恋相手へ

          この前わたしは手紙を書きたい相手がいないと言ったけど、あなたには手紙が書けるような気がしたので書きます。このブログに何度も出てきている彼、あなた、私のインスタントな失恋相手。呼び方はなんだっていいのだけれど。 あなたと会ったのは結局のところ3日だけだから、わたしの人生においてあなたとは無関係に、わたしだけで成立している毎日のほうが圧倒的に多いわけです。そういう意味で、ここでいうあなたは実在するあなたではなく、わたしが心を開けたかもしれない架空の希望、幻想、または執着であって

          【小説】 彼、あなた、私のインスタントな失恋相手へ

          【小説】 ふつうについて

          手紙を書こうと思います。手紙というものは、恋人とかお母さんとか子どもとか、大事な誰かに充てて書くものだと知ってはいるけど、わたしは特に手紙を書きたいと思う相手がいないので、これは自分に向けて書いている手紙です。変でしょう。おかしいでしょう。自分を分裂させてものごとを考えるのは頭がおかしくなりそうな作業です。だけどそもそもこんなことを考える時点で普通ではないので、遅かれ早かれおかしな人はいずれおかしくなるのが運命だと思うのです。小説に銃が出てきたらそれは必ず発砲されなければなら

          【小説】 ふつうについて

          【小説】 春の砂嵐

          彼は左利きで両方の腕に時計を着けていた。そのときわたしが彼について知っていたことは、そのふたつだけだった。右腕の時計は午後8時45分―それは私たちがいる日本の現在時刻だと思われる時間だった―を指し、左腕の時計は午前あるいは午後の12時過ぎを指していた。 文字盤もベルトも黒くて、着ているパーカーもズボンも黒くて、まぶたの上のぎりぎりまでかかった前髪も眼の奥まで黒いから、彼はとりつくしまが無く完結しているように見える。どうして時計をふたつ付けているの、そんな疑問を愚直に解決しよ

          【小説】 春の砂嵐

          【小説】 悪夢十夜:第一夜「母と瀧浪くん」

          こんなことがあった。 「ねえ、瀧浪くんがあんたのこと見てるよ」 男の子の恋心ってかわいくて仕方がない、というように母が言った。 母は楽しくてたまらないと心の底から思っている人だけが放つ、あの顔の皮膚の奥、真皮のもっと奥底から湧き上がる笑顔で、私の耳元に顔を近づけてそう言った。 日能研から帰る夜のバスのなか、母と私は二人で座っていた。小学校四年生の時だったと思う。 小学四年生から中学受験の塾に通う生徒は公立小学校では全然多くなくて、女の子が私を入れて三人、男の子は瀧浪くん

          【小説】 悪夢十夜:第一夜「母と瀧浪くん」

          【小説】 話にならない女言葉のはなし

          ******** 「小説を書こうと思ったの。」 女は言った。 「できると思ったのよ。エッセイをいくつか書いたあとにね、確信したの、私ならとんでもないものが書けるって。それが、いざやってみたら全くすすまないの。セリフの一つすら書けやしない。うそだと思ったわ。」 「あんなにたくさんの文章を書いてきたのに。五百ページの明細書だってイチから書いたことがあるわ。いや、仕事のことを言いたいんじゃないの。もっとこう、内面的なことよ。精神、思想、そういうこと。書きたい内容はいくらでも湧

          【小説】 話にならない女言葉のはなし

          【エッセイ】「自分で文章を書いたりしてないんですか?」

          10月のおだやかな空気は、まるでそこに酸素さえ存在しないよう。 完璧な快適さのなかにいるときは、誰もそれが快適であることにも気づかない。 頭のかたちに窪んだまくら。白ワインを頼んだときに、大きな氷をくるくる回して冷やされたつめたいグラス。役目を終えた氷は人目につかないまま、ひっそりと捨てられる。ジャスミンの切り花の元で眠る、白い犬の不規則な呼吸。そういうものに似ている。 夏や冬という季節すら、存在していたかどうか思い出せない。 どうして人間はウールのコートなんか着るの?セー

          【エッセイ】「自分で文章を書いたりしてないんですか?」

          【エッセイ】 穏やかで優しくて賢い人たち

          職場の人たちのことだ。 彼らはみんな賢くて、穏やかで優しい。 私は製薬会社で働いている。 本社での仕事は、手を動かすタイプの仕事はほとんどなくて、沢山の資料を読んだり情報のヒアリングをして複雑な物事を整理して、皆でたくさん議論をする。 契約とか、各国の規制とか、特許とか、技術内容とか、あらゆる事象すべてが検討対象。分からないとかやったことがないとか、そんな言い訳が通じる分野はない。 おっとりした口調だけど、彼らは課題を的確に特定して、ふわっとした言葉で色んな部署の合意を取

          【エッセイ】 穏やかで優しくて賢い人たち

          【エッセイ】身体目的かそうでないか

          マッチングアプリで知り合った男性とキスをして、告白されて、彼は車で家まで送ってくれたけど、私はそのまま家に帰り、その直後に彼からの音沙汰がなくなった。 これは先日の私におきた出来事だ。 告白された1時間後にフラれるという私の体験を聞いたある人は、相手の男性が身体目的だったのではないか、と言った。 身体目的だったけど、セックスができなかったから、音信不通になったのだ、と。 だけど、私たちの間に起きたことは決してそうではないと、断言できる。 そこには互いに惹かれあう確かな好意

          【エッセイ】身体目的かそうでないか

          【エッセイ】 失恋のあとに残るもの

          自分の失恋を自覚した後の数週間、私はあんなに大好きだった自宅に居られなくなった。 彼と出かけた、といっても彼と東京を出歩いたことは2度しかないのだが、彼と出かけた街、三軒茶屋、学芸大学、経堂、代官山、豪徳寺は、もうかれこれ8年くらい東京に住んでいる私が一度も行ったことがない駅ばかりだった。 彼は事前にプランは決めず、待ち合わせ場所だけ決めて、その場の会話の中で行き先を調べ、行く駅を変え、色々な店をはしごした。 「三軒茶屋でしたいことありますか」と彼は言った。なんでも実現で

          【エッセイ】 失恋のあとに残るもの

          【エッセイ】 好きなひとの好きなもの

          彼はライフスタイル雑誌の編集者だった。 学生時代は映画を制作していたほど、映画が好きで、小説が好きで、漫画が好きだという。 美しいものをそのまま「美しい」といい、かわいいものを「かわいい」といい、素敵なものを「すてきだ」という人だった。 31年間生きてきて、私が好きなものを人と共有できたと思えたのは、彼がはじめてだった。 昔からガリ勉のくせにサブカルの興味だけ人一倍強かった私は、中学生の時にはFMラジオに張り付いて、洋楽と邦楽の最新曲から70-80年代の洋楽まで、ジャンル

          【エッセイ】 好きなひとの好きなもの

          【エッセイ】 恋愛のはじまりはどのくらい重要?

          恋愛のはじまりかたは、あなたにとってどのくらい重要? ――はじめは恋愛対象でなくても、悪くないから付き合ってみて、お互いに気を許しあっていけば大切な存在になる。 多くの人間関係において、おそらくそうした継続的な関係構築が、人を成長させる大事な経験なのだろう。 それでも私にとっては、恋愛ははじまり方が何よりも大事だ。一番最初に会ったとき、言葉にできないなんらかの引力を感じることができたなら、その後に判明する些細な違いなんかどうでもいい。 どんなに周りから嫌われていても気になら

          【エッセイ】 恋愛のはじまりはどのくらい重要?