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【詩】古本がすきだということ

わたしは本がすきだと思う
古本がすきだと思う
古本に染みこんでいる時間がすきだと思う
だれかが読んでた数時間、家に置いてかれてた時間、古本屋のバックヤードに放置されてた時間のこと
そんなことを考えたりします

古本に微量に残存する理由のことを考えたりします
買われた理由、売られた理由
知りたかったこと、知れたこと、知りきれなかったこと
本を読むことで近づきたかったあの人、もっと知りたかった人、何を考えていて、何が好きなのか知りたかったあの人のこと
本の話ができた人、仲良くなれた人、なれなかった人
読めたもの、読めなかったもの、途中まで読めたもの、読んだけど違うと思ったもの

わたしは古本がすきだと思う
読みきれないかもしれないのにとりあえず本を買ってみる人のことがすきだと思う
買ってみたけど読めなかった沢山の本のこと、読めないけど捨てたくはない本のこと、昔好きだったけど今はもう捨てたい本のこと
使って膨らんでぶよぶよになった参考書のこと、それで勉強してたこと
売ることすらできない日焼けした本のこと、誰にも話せなかった本の感想のこと
値札すら取られず読まれないまま古本になっている本、ブックオフに何冊も並ぶ昔流行った長編小説、日焼けした紙に残る小さい小さいコーヒーの茶色いしみのこと
古本屋のウッとなるにおいのこと、ウッとならない古本屋もあること

わたしは今まで人からもらった本のことを考える
もう改正されてしまったから用途がなくなった法律本のこと、いっぱい書き込みして勉強してたその本、今はもう役に立たなくてもすられてないこと
昔の上司にもらったアメリカの法律の本、大事なところに既にマーカーが引いてあったこと、書き込みに助けられたこと
みんなこうやって勉強してたんだなと思ったこと、大学の図書館のこと、なんや難しい本を先に読んでくれた先輩のこと、院試のこと、主席になりたい人らが寒くて古い図書館で深夜まで勉強してた院試のこと

本に残される誰かが使った跡のこと
跡なんか残らないほうが高く売れるのにどうしても残ってしまう跡のこと
跡が残っていることを売主にも買主にも気づかれなかった、その跡のこと
人が生きているとどうやっても残ってしまう誰かの跡のこと
わたしが残しているかもしれない跡のこと
残している自覚がなくても、誰かに残されているはずのその跡のこと

わたしに本のしおりを結ぶことを教えてくれた人
しおりを結んだらそれ以上はほどけないんだよと教えてくれた昔の友だちのこと
しおりを結ぶことを教えてあげた、あの人のこと
古本が100円で買えることを教えてくれた、あの人のこと
古本を買うことを教えてくれた、あの人のこと

人が生きているとどうやっても残されてしまう誰かの跡のこと

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