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安全保障は「究極の生活インフラ」 今こそ必要な強い司令塔|【特集】歪んだ戦後日本の安保観 改革するなら今しかない[PART01]

防衛費倍増の前にすべきこと

安全保障と言えば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。
だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。
日本人が長年抱いてきた「安全保障観」を、今、見つめ直してみよう。

現代日本は〝権威〟が崩れ、小規模成功者が蠢く「多頭化」の時代だ。そんな日本が国際社会をリードするにはどうすべきか──。処方箋を示そう。

文・先﨑彰容(Akinaka Senzaki)
日本大学危機管理学部 教授
東京大学文学部倫理学科卒、東北大学大学院博士課程を修了。フランス社会科学高等研究院に留学。専門は日本思想史。著書に『違和感の正体』、『バッシング論』、『国家の尊厳』(以上、新潮新書)の三部作が話題に。


 「今後、日本は、世界はどうなってしまうのですか」。コロナ禍以降、しばしば人から質問されるようになった。当然と言えば当然で、眼に見えない敵にわれわれが抱く恐怖はどこまでも広がる。地震や津波で破壊されたわけでもないのに、店舗からも鉄道からも人が消え、従来のビジネスモデルが通用しない。社会は混沌に陥ったのだ。

 その中を生きる「私」も位置づけを見失い、どう生きたらいいか分からない。羅針盤がなければ、どちらに進んだらいいか分からないからである。投資先も将来像も描けない。

 そこに突然、ウクライナ危機が重なった。常任理事国の一角を占めるロシアが核兵器の使用をちらつかせ、西側全てを敵に回している。第二次世界大戦後の国際秩序への挑戦であり、国連への期待という常識は通用しない。いったい世界は、日本は、ほかならぬ私自身はどうなってしまうのか──。こうした不安が、質問者の背景にはある。

 だから防衛費の国内総生産(GDP)比2%への増額であれ、憲法改正であれ、コロナ対応の是非であれ、個別問題だけを論じても意味がない。近視眼的に是非を論じ、興奮しているだけでは将来像は描けない。日本が置かれている現状を俯瞰し、時代全体の流れを把握しなければならない。広い視野を持つ者こそ、羅針盤の行く先を指し示すことができるからだ。

日本は世界の〝主人公〟の一角となることを否応なく求められている (DA-KUK/GETTYIMAGES)

現代社会を象徴する言葉
「権威の喪失」と「多頭化」

 では現代社会をどう理解すべきか。

 「権威の喪失」と「多頭化」がキーワードとなる。例えばこれまで、私たちの情報源はテレビであれ新聞であれ、限られた少数の媒体の情報から発信されたものを享受し、社会を知る基準としてきた。テレビや新聞に掲載される記事は「真実」であり、識者はそれなりの見識と地位がなければ登場する資格を持たない。つまりテレビや新聞は、権威ある少数の媒体であり、視聴者は受け身に情報を得ていたのである。

 ツイッターやユーチューブなどのSNSが引き起こした革命とは、この常識全てを覆したことにある。画面の向こうには夥しい数の発信者がいて、自分の意見を発信している。いつでも、どこでも、誰でも番組プロデューサーになることができ、支持者さえ増えればよい。たった1人で100万人のフォロワーを抱える人物は、数千人を雇用し発行している新聞よりも、発信力と影響力を持つことができるようになったのだ。

 問題は、彼らには……

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