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本来、人間は太らないようにできている!「セットポイント理論」

カロリー制限だけでは痩せない

カロリー制限は短期的(1ヶ月ぐらい)にはどんどん体脂肪が減るのですが、長期的(1年ぐらい)になると、体脂肪の減少率がどんどん少なくなるという研究が結構あります。そして、この原因とされているのが、代謝機能の低下です。具体的には、カロリー制限の状態が長く続くと、以下のような現象が起きてきます。

1.甲状腺ホルモンが減る:甲状腺ホルモンは、代謝スピード(脂肪の燃えやすさ)をコントロールする超重要ポイントです。この量が減るほど、基礎代謝が下がっていきます。
2.筋肉の減少:筋肉はエネルギーの消費量が大きいエリアですが、カロリー制限が続くと、体がパニックを起こし、脂肪よりも筋肉を減らそうとします。
3.とてつもない空腹感:空腹感にはエクササイズを行う気力も奪う作用もあり、たとえ同じ運動をしていてもダイエット効果は半減してしまいます。加えて、脳が「エネルギー節約モード」になってしまい、自分でも気づかないうちに日常の活動が減り、消費カロリーが減少します(NEATの減少)。

このようなことから、強引にカロリーを減らすと、脳と体が総がかりでエネルギーを節約しようとします。基本的にカロリー制限で痩せるのは不可能と考えたほうがよさそうです。
ただし、自然に食欲を減らす方向に進めば、空腹や筋肉の減少に悩むことなく、カロリーを減らして痩せることは可能です。その最重要ポイントが「セットポイント」だと言われています。

自然に痩せる「セットポイント」

セットポイントとは、人間の体に備わっている自動的に一定の体重を保つ仕組みです。摂取カロリーの増減に応じて、レプチンやグレリンといった満腹ホルモンの量が変わり、以下のような状態になります。

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つまり、「空腹感」と「代謝」という2つの武器を使って、自然と元の体重をキープしようとするシステムが働くわけです。また、このセットポイントは、およそ40〜70%が遺伝で決まっているそうで、同じカロリー量を食べたとしても、遺伝の違いによって4倍も脂肪がつくペースが変わるそうです。

太りやすさは遺伝によるところが大きいですが、「本来、人間の体は太らないようにできている」というのが、現代の肥満学の考え方です。例えば、野生の動物に肥満がいないのはもちろん、原始的な暮らしを送る狩猟採集民たちも、食欲のおもむくまま炭水化物を食べているにも関わらず、太った人はいません。運動量の違いが影響していると考える人もいるかもしれませんが、タンザニアのハッツァ族を調べた研究では、狩猟採集民の消費カロリーは西洋人とほぼ変わらないことがわかっており、運動とダイエットは関係ないと言えそうです。

つまりこれは、本来のセットポイントに逆らわない「自然な暮らしをすれば、人間は自然に痩せた状態をキープできる」ということです。逆に言えば、現代人特有の生活などが原因でセットポイントが上がってしまうと、どんなにダイエットをがんばっても痩せなくなり、肥満に繋がります。

人間は脳から太っていく

セットポイントが上がる原因としては、大きく「脳」と「細胞」の2つに分けられます。

脳のセットポイントが上がる原因の1つは、まず「食事報酬度の高さ」があげられます。たとえば、美味しいものを食べりすると、脳の報酬系が刺激されます。そうすると、快楽物質のドーパミンが放出され、もっと食べたくなります。つまり、「美味しいものを食べると太りやすい」というシンプルな話です。

この「美味しいもの」という定義が旬の魚や野菜などであれば、あまり問題ないのですが、これが加工食品やファストフードのような食品だと、一気に脳が許容できる刺激の量を超えて、人工甘味料や添加物の味に体がついていけなくなります。そして、脳の食欲コントロール機能がおかしくなり、栄養じゃなくて快楽だけを求めて食事をするようになり、セットポイントが大きく上がることによって、異常な食欲に苦しむことになります。

もう1つ、脳のセットポイントを上げるのが「食事の多様性」です。たとえば、さっきまで満腹だったのにデザートは食べる余裕があったり、バイキングではいつもより食が進んだりなど、誰でも覚えがある話ではないでしょうか。

食事のバラエティが豊富になるほど食欲が増すことは、ニューヨーク州立大学でも「食事の多様性とカロリー摂取について研究した39の論文を調べたところ、いずれも食事の種類が多くなるほど、体重と脂肪が増える傾向が確認された」ということが報告されています。もともと、人間は食べ物の種類がとぼしい環境で進化してきたため、バラエティに富んだ食事を見ると、脳が必要以上に喜んでしまうそうです。

太る原因の3つ目は「睡眠不足」です。人間の体内時計は脳の視床下部がコントロールしており、ここに狂いが生じると、報酬系が壊れて食欲が異常に増加します。実際、不規則な睡眠が肥満につながるという研究も多く、いずれも体内時計に異常から糖尿病や心疾患、ガンの原因になるなど言われています。また、睡眠が足りないと、体が生命の危険を感じて脂肪を貯めてしまうことも大きな原因だそうです。

なぜ人間の食欲は暴走するのか?

セットポイントがきちんと動いていると、人間の体は一定の体重をキープしようとがんばります。ところが、いったん肥満になってしまうと、いくら食べても空腹感がおさまらず、逆に代謝は下がり脂肪が燃えない状態になってしまいます。

これは「レプチン抵抗性」と呼ばれ、ホルモンバランスが崩れてしまった状態を意味します。レプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、脳に満腹感を伝える役目を持ちます。そのため、本当なら脂肪が多いほど簡単に満腹感を得られるはずですが、「レプチン抵抗性」がアップすると、脳がレプチンに反応しにくくなり、どれだけ食べても食欲がおさまらなくなります。つまり、肥満の人というのは、見ためは太っていても脳のなかは「飢餓状態」と同じということになります。

脳がレプチンに反応しなくなる原因として、細胞にダメージを与える食品の存在があります。具体的には、以下のようなものがあげられます。

オメガ6:オメガ6は多価不飽和脂肪酸の一種で大豆油やキャノーラ油なんかに多くふくまれる成分です。特に西洋式の食事が多い人ほど、オメガ6の摂取量も多い傾向があり、細胞のダメージも増加します。オメガ6の量が増えると、インスリン抵抗性が高まったり(=糖尿病のリスク)、甲状腺ホルモンが減ったり(=慢性疲労や鬱病の原因)と、様々な害が指摘されています。

グルテン
:グルテンは小麦にふくまれるタンパク質の一種です。パンやパスタを食べて飢餓感やアレルギーなどが起きた場合は、なるべく摂取を控えたほうがいいでしょう(生まれつきグルテンに強い人もいる)。

抗栄養素
:抗栄養素とは、ビタミンやミネラルなどの吸収をブロックする成分で、主に小麦系の食品、豆類、玄米などに含まれています。人によってはナッツ類でも問題が起きる場合もあり、腸が弱い方は避けたほうがいいかもしれません。

トランス脂肪酸
:市販のドレッシングやマーガリンなどに含まれる成分で、細胞へのダメージはかなり凶悪です。心臓病やアルツハイマーの原因とも言われており、徹底的に食卓から排除すべき食品の代表格です。

アレルゲン
:これはアレルギー体質限定ですが、アレルギー反応は体に炎症や酸化が起きている証拠です。当然ながら細胞には大きなダメージが起きます。ちなみに、食品アレルギーのように、すぐには反応が出ないタイプの症状もあるため、気になる場合は検査をオススメします。

これらは、あくまでも「摂り過ぎた場合」で、少量であれば、そこまで肥満の原因にはならないと思います(トランス脂肪酸を除く)。ただし、毎日のように食べ続ければ、蓄積されたダメージがいずれ影響を及ぼすことになりますので、なるべく量を減らしていきたいです。

レプチン抵抗性が起きる原因の2つめは、慢性的な食べ過ぎです。カロリーオーバーな食事が続くと、細胞は大きなダメージを受けます。血液に溢れだした栄養素が上手く吸収されなくなり、インスリン抵抗性が増加します(=糖尿病になりやすくなる)。食べ過ぎの自覚がある人は、プチ断食やファスティングなどのテクニックを使って、定期的にカロリーを減らす日を作るといいかもしれません。また、慢性的な過食が良くないように、慢性的なカロリー制限も細胞はダメージを受けます。確かに一瞬だけ体重は減りますが、すぐに筋肉量が減り、基礎代謝が落ちるため、高確率でリバウンドします(かつての私がそうでした)。

そして、意外なほど多いのが、カロリーは足りているのに、栄養素が足りなくて太ってしまうパターンです。たとえば、極端な低脂肪ダイエットは細胞膜の再生をさまたげて代謝を落とし、糖質制限ダイエットも行き過ぎると甲状腺ホルモンが減って脂肪が燃えにくくなることが知られています。同じく、 ビタミンやミネラルなどの微量栄養素の不足も、激しく体の代謝を落とす原因となるため、できるだけ食事に野菜をたくさん取り入れましょう。

ある意味現代病といわれる「座りすぎ」が原因となっている可能性があります。座ると足の電気信号がストップして消費カロリーが減っていくうえに、脂肪を燃やす効果のある酵素の量も少なくなるそうです。実際、座り仕事が多い人は肥満率が高いという研究も多く、ガンや糖尿病の発症率が2倍になる、遺伝子に異変が起きる、食欲のコントロールが効かなくなるといわれています。

脳の不調から来る肥満を防ぐ

本来、人間は自動的にスリムな体型を保てるはずなのに脳が不調を起こしたり、細胞がダメージを受けることで肥満になってしいます。その「太る原因」をチャートにすると、以下のようになります。

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つまり、これらの要素を1つずつ消すことで、自然とセットポイントが正常に働き、スリムな体型を自然と維持できるということになります。ここでは「脳の不調」から来る肥満を防ぐ方法を考えます。

脳が不調を起こす第一の原因は加工食品です。まずはこれを完全に排除します。とはいえ、お菓子やジャンクフードで脳が中毒状態になってると、止めることは非常に困難です。特に砂糖はドラック以上に依存性が強いことがわかっています。そこで、常に代替食品を用意することで、対策していきます。具体的には、「甘いお菓子が食べたくなったら、フルーツやサツマイモを食べる」、「ポテトチップスを食べたくなったら、茹でたジャガイモに塩を振って食べる」、「脂肪分の多いケーキを食べたくなったら、全乳のヨーグルトにブルーベリーを入れて食べる」などで解毒期間を乗り切ります。

つまり、未加工で自然に近い食品に置きかえることで、脳の中毒状態を少しずつ正常に戻していきます。 加工食品を止めることで、自然と栄養不足や体へのダメージも減ります。ここでのポイントは、カロリーを気にせずに、あくまで加工食品をはぶくことに専念することです。カロリーを制限すると、さらにセットポイントが崩れてしまいます、まずは脳が中毒から抜け出すまで根気よく待ちます。中毒を抜け出せれば、本当に栄養が必要なときにだけお腹が空くようになり、自然と摂取カロリーは減っていくことと思います。時間はかかりますが、長期的に痩せたいならこの作業は絶対に必要です。

次に「食事の多様性」は、できるだけシンプルなメニューの食事を心がけましょう。基本的には、ワンプレートでメイン(魚や肉などのたんぱく質)と付け合わせの野菜が理想です。また、調理法もシンプルにするのが大事で、低温調理や味付けは塩とスパイスだけを使うようにします。非常に単純ですが、これは1970年代から効果が確認され続けてきたテクニックで、実際に試してみるとビックリするぐらい総摂取カロリーが減るはずです。

睡眠の改善については、基本的に「日中に大量の陽の光を浴びる」「ブルーライトをカットする」ことが重要です。特に日中は陽の光を浴びて、日が沈んだら光を浴びないようにします。眠れないときは、「刺激性減療法(ベットを寝るためだけに使う)」や「コーヒーナップ(コーヒーを飲んだあとに昼寝をする)」、「寝る前に白米を食べる」、「うつぶせ寝」など、とにかく自分に合う方法を探して試してみてみます。

細胞のダメージを防ぐ

慢性的な食べ過ぎは、ホルモンバランスに異常を引き起こします。ホルモンバランスが崩れると、セットポイントが上がり、どんなにダイエットをしても痩せない体になってしまいます。その対策の1つとして、タンパク質の摂取量を増やすことがあげられます。タンパク質には食欲を抑制する作用があり、意識して摂取量を増やすだけで自然と食事量を減らすことができます。

1日のタンパク質の摂取量は、「推奨量(g/日) = 体重 × 1.6」となっています。2005年の研究で、推奨量のタンパク質を摂っていれば、効率よく体脂肪を減らせるとのデータもあります。タンパク質の供給源は肉類が基本となりますが、推奨量を肉類だけで摂取することは難しい場合は、プロテインを使っても大丈夫です。このとき加工食品を食べてしまうと、再び食欲が戻ってしまうため、タンパク質を増やしつつ加工食品は完全にカットします。

次に、ダメージ食品をカットします。先にも上げましたが、「ベジタブルオイル(酸化したオメガ6)」「グルテン(現在はあまり関係ないとの研究もあります)」「野菜や小麦系の食品、豆類、ナッツ類に含まれる抗栄養素」「市販されるドレッシングやマーガリンなどのトランス脂肪酸」「アレルゲン(食品アレルギー)」といった食べ物たちのことで、できるだけ食卓から省くことをオススメします。これらは毒ではないですが(トランス脂肪酸は毒かもしれません)、他にもっと良い栄養源がある場合は、そちらを食べたほうがセットポイントは確実に下がります。例えば、炭水化物をとるならパンよりも根菜類(じゃがいもなど)を選んだり、タンパク質をとるなら豆やナッツよりも肉や魚を選んだり、脂質をとるならサラダ油よりもココナッツオイルやオリーブオイルを選ぶなど、これだけでも細胞のダメージが減らし、痩せやすい体になっていくはずです。

また、カロリー制限は代謝に大ダメージを与えて、ダイエットを失敗に追い込む最大の元凶だといわれいます。たんに痩せにくい体になるだけじゃなく、逆に太ってしまう可能性もあるのが困ったところです。これを防ぐには、とにかく体が要求するカロリーだけはちゃんと食べることです。ダメージ食品や加工食品を止め、しっかりタンパク質をとっていれば、自然なところで満腹になるように食欲が調整されるため、あとは食欲に従って食べます。当たり前のことのようですが、実際のところは出来ていない人が多い印象です(私含めて)。また、極端な糖質制限やベジタリアン(ヴィーガン)は、栄養が偏りってしまい、ホルモンバランスが崩れてしまいます。このような場合、栄養価の高い食べ物を取り入れることで改善していきます。

そして、運動不足はホルモンバランスを崩す大敵です。たとえば、タバタ式トレーニングやHIITのような短時間の運動がベストです。基本は以下のような運動を取り入れます。

■ハードな運動をした翌日は徹底的に休む。肉体労働のあともちゃんと休む
■運動はできるだけ陽の光の下で、土や草の上で行う
■週に2〜3回ほど、ダッシュやスプリントのような強度の高い運動を行う
■定期的に石や木材のような重いものを持ち運ぶ
■基本的には、軽いウォーキングのように毎日なにかしら体を動かす

上記が難しい場合は、まずは座る時間を減らします。仕事中、なかなか運動できないという方は、30分おきには立ち上がって軽いストレッチをしてはいかがでしょうか?

まとめ

ここまで、乱れたセットポイントを正常に戻し、ムリなく痩せるためのポイントを書いてきましたが、いかがでしたでしょうか?基本となるのはやはり食事で、特に加工食品を避けることが第一なように感じます。食べ過ぎも睡眠不足も、運動不足もわりと脳機能の障害に近いところがあるので、まずはそこから少しずつ改善していけたらなと思います。

※本記事は鈴木祐さんの「セットポイント理論」を参考に記述しています。詳しく知りたい方、気になる方は鈴木祐さんのブログや本をご一読いただくとより知見が広がるかと思います。

【参考】




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