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<アンディー・ウォーホル・キョウト展>京都市京セラ美術館:思いもかけずウォーホルの「線描」を楽しんだ


はじめに

 昨年末、関西の実家に行ったとき、京都を訪れました。街歩きスケッチのためですが、街で見たポスターで昨年9月から始まった表題の美術展のことを知りました。
 「線スケッチ」を始めてから、線描に関連して日本美術や新版画、ジャポニスムの影響を受けた欧米の作家の美術展を優先して見るようにしてきました。

 ですからポップ・アートの旗手であるアンディー・ウォーホルの美術展は、「線描とは関係がない」と判断し、いつもならば行くことはなかったと思います。

 ところが、この展覧会は「キョウト」と題名にあるように、なんと巡回はせず京都だけの開催であることが記されていました。

 「京都だけ」という言葉に反応し、他では見られないのなら行かなければとついつい訪れてしまいました。

線スケッチの立場からの感想

 線スケッチの関連する事柄について感想をまとめます。

●「線描とは程遠い」どころか線描のオンパレードで、その繊細で表情豊かな線に驚いた。
●商業イラストレータの時代からファインアートに移っても、その色合い、配色はポップで美しい。
●線で描いてから彩色する、彩色してから線を描くと線描の順番は自由自在で、まず筆(ペン)ありきと考えがちな東洋(日本)の人間にとってその自由さに驚く。
●マリリンモンローやその他著名人の肖像を使った作品は、写真だけを利用したと思いこんでいたが、線描も使っていたことを知った。特に、毛沢東の肖像画の場合、何度も顔のスケッチをしており、ウォーホルは画家としての基本のデッサンに重きを置いていることが分かった。
●現代アメリカの最先端の作家が、東洋や日本の絵の影響を受けると思っていなかったので、アジアの黄金、日本の障壁画の金地に線描、北斎の「神奈川沖浪裏」の波の模写、生け花にインスピレーションを受けて描いた一連のペン画など、意外な面を感じた。

 以下、実際の作品を示して補足説明します。
 なお、以下で紹介するする写真はすべて会場で撮影したものです。一部の作品を除いて、撮影OKでした。正直驚きましたがウォーホルの作品のフリー画像がないので大変助かります。主催者に感謝します。

まず繊細で表情豊かな線に驚く

 ウォーホルと云えば、私が中学、高校生の頃、ポップアート界の異才として世間をにぎわしており、現代アートに詳しくない私でも「キャンベル・スープ」の絵や「マリリン・モンロー」などの作品は知っていました。

マリリン・モンロー
キャンベルスープ

 これらの絵の印象から、ウォーホルが線描を描くとは予想していなかったので、商業イラストレータ時代の線描をみて、俄然興味が湧いてきました。

図1 商業イラストレータ時代の作品

 現代でも人気が出そうなイラストですが、当時人気が出たのは当然のような気がします。

ポップな色合い、配色が心地よい

 商業イラストレータ時代だけでなくポップ・アート作家になっても独特な色合いと配色が美しい。

初期の作品

 後のポップ・アートを感じさせる色合いがすでに出ています。

ポップ・アーチスト時代

 草むらの上に四つの花を置いただけですが、いつまでも印象に残る色調です。他の絵にも云えることですが、紫色の使い方が特に印象に残ります。

大画面作品(迷彩模様)

 縦3m、横10mはあろうかという大画面に、迷彩調の模様がひたすら描かれています。色は、本物の迷彩服とまったく異なる色と配色です。

 一方、迷彩色を使いながら自由の女神と組み合わせた作品も展示されていました。発想が面白い。

迷彩模様を使った作品

 自由自在の線描法

動物シリーズ

 上に示した動物シリーズでは、現実の動物の色をまったく無視して彩色を行っています(パンダの赤!)。よく見ると実際の輪郭から微妙にずれた位置に輪郭線を引いています。そのずらしがまたポップに感じます。

大画面作品(線画と部分彩色)

 前項で紹介した迷彩模様の大画面の隣に、同じく大画面のこの作品が展示されていました。
 迷彩模様の作品とは異なり、画面いっぱいに筆で人物とオートバイが描かれています。線の肥痩とかすれは、まるで水墨画の線のようです。
 最初は筆と墨で描いたのかと思ったのですが、どうやら違って絵具のようです。私が描く線スケッチでは、こんなに大きい画面で描くことはしないので圧倒されました。身体全体を使って描いたのでしょうか。それとも小さく描いたものを大画面に拡大印刷したのでしょうか。
 彩色はいわゆる部分彩色で、東洋の水墨画でも珍しくありませんが、彩色の感覚は東洋のそれとは違うようです。
 部分彩色はやったことがないので、いつか試してみたいと思っています。

線描を用いた肖像画

 有名人の写真を用いた作品はウォーホルの代表的な作品分野です。下に線描を用いた作品を示します。

有名人の肖像を使った作品

 写真の上に輪郭を線で表したもの、線画風に描いたものなど色々ですが、次に示す毛沢東の絵では、写真からスケッチしたペン画が並べて展示されており、いきなり写真を加工しているのではなく、まずは顔のスケッチをしていることから、やはりポップアートと云えども伝統的なデッサンから始めていることに何か安堵を覚えます。

毛沢東の肖像

アジア・日本からのインスピレーション

 アンディー・ウォーホルの画業全体からみれば、その割合は少ないと思いますが、今回は「KYOTO」の名前を冠した美術展であるためか、アジアおよび日本の文化に触発されて描いた作品が多く展示されていました。

 まず最初は、アジアの仏像の黄金、日本の障壁画あるいは蒔絵の金に触発されて描いた(と推定される)、金地に線描の作品です。

金地と線描の作品

 上の絵では、何となくタイやビルマの仏教美術やインドの文化を感じます。さらに、日本の障壁画や蒔絵から影響を受けたと思われる、金地に線描の絵を描いた本形式の作品がありました。(下記写真)

金地に線描
金地に線描、彩色

 さらにウォーホルが北斎の「神奈川沖浪裏」の大波を描いているのに驚きました。理由はないのですが、アメリカの現代アーティストが日本の絵に興味を持つとは思っていなかったからです。

北斎の大波

 この美術展ではタイトルの中に「KYOTO」の文字があるように、京都を訪問した時の作品のコーナーが設けられています。
 日本を訪問する機会に北斎の大波を描いたのか、それとも若い頃から日本の絵、特に浮世絵版画に興味を持っていたのか不明ですが、右のうちわの形に描いた波はいかにも現代アートらしい表現と彩色で、19世紀のフランスのジャポニスムの絵とはまったく違うのが興味深いですね。藍色を使っているのは北斎のベロ藍に敬意を表したのでしょうか。
 「神奈川沖浪裏」のBIG WAVEを描いた広告イラストは、北斎人気の世界的高まりで近年至る所で見るようになりましたが、この絵はそのはしりかもしれません。

 最後に、京都訪問時に生け花に刺激を受けて描いた多数の線描スケッチを下に紹介します。

花瓶に花シリーズ(1)
花瓶に花シリーズ(2)
花瓶に花シリーズ(3)

 ひと筆描きのような花や葉の輪郭、そしてペンの動きが分かるような陰影のハッチング、商業イラスト時代の無機的な輪郭線と違って、ウォーホルの手の動きが感じられる臨場感あふれるペン画です。

 東洋の筆の文化とは異なるペンさばきも興味を惹きました。

なお、最後に京都訪問時に描いたスケッチも展示されていましたので、それらを紹介してこの記事を終えます。

京都訪問時のスケッチ

(おしまい)

 前回の記事を下記に示します。


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