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【#Real Voice 2023】 「マネージャーに性別は関係あるのか」 2年・渡邊朋恵

ア式蹴球部(以下ア式)に来て1年が経った。
とてつもなく恵まれた環境で活動できている。
当たり前になりがちだけど、絶対に感謝の気持ちを忘れてはいけない。


1年前、まだ慣れない環境に体が硬直し緊張でグラウンドに行くのが怖かった。
けれど今は部員に名前を覚えてもらえて、グラウンドに行けば後輩が挨拶をしてくれる。
自分もア式の一員になれているのかなと嬉しくなる。




ア式に来て1番難しさを感じたのは、「部員とのコミュニケーション」だった。
マネージャーという立場から選手にどのように接していいのかずっとわからず、勝手に選手と自分との間に壁を作った。そうして自分で勝手に孤立していった。

そんな時、ある先輩マネージャーが「コミュニケーションは無理に取る必要はないけれどマネージャーとしてチームに関わっていく中で、他人を知ることは必要。」というアドバイスをくださった。
その通りだと思う。コミュニケーションを取らないと、仲間が何を考えてるのかわからないし、自分が何をすればいいのかもわからなくなってくる。


ある時同期に「朋恵はいつも笑ってばかりで感情を出さないから、何を考えてるのか分からない。」と言われたことがある。
同期にまでそう思わせてしまったことを本当に申し訳なく思った。

2年生になって後輩が入ってきた今シーズンは、先輩として後輩に厳しく言わないといけない場面もあった。それでも私は取り繕っていい顔をした。


私はこれまで生きてきて、本気で日本一を目指すような集団に属したことがなかった。また男性が大半を占めるような組織に所属したこともない。
ア式で出会う人たちは自分とあまりにもバックグラウンドが異なりすぎて、未知の世界だった。


練習中、副審をやる人がいないとなったら男性マネージャーに頼みに行き、キーパー練習では男性マネージャーがボールを受けているの横目で見ていた。
練習後の自主練では選手とボールを蹴り合う男性スタッフ。
私はそうやってコミュニケーションが取れることを羨んだ。


そして次第にこんな考え方を持つようになった。



女性マネージャーは必要なのだろうか。


世の中の運動部には活躍されている多くの女性マネージャーの方がいらっしゃるから、こんな考えを持ってしまうなんて失礼に値するのは十分承知している。
それでも当時の私はこう思ってしまった。


女性である自分が、サッカーについてよくわかっていない自分が、声を発していいのかわからなくて、試合中に鼓舞する声を出すことを躊躇った。
落ち込む選手になんて声をかけていいのかもわからないし、シュートを決めて喜ぶ同期にさえ、自分は声をかける資格があるのだろうかと思っていた。


いつから自分はこんなにも性別を気にするようになってしまったのだろう。
思い返せば小学生の頃、男の子に混じってサッカーをしていた時に相手コーチから試合中

「女子に負けるなよ。」

そう言われたことがある。

修学旅行でタクシーの運転手さんに行きたい場所をうまく伝えることができなかった時に

「これだから女性は。」

そう言われたこともある。

これが原因かはわからないけど、いつしかYouTubeで警察や自衛隊など男性が多い組織で懸命に働く女性のドキュメンタリーを見て、自分もこんなふうに強い女性になりたいと思うようになった。



そんなある日、YouTubeを見ていたらこの動画を見つけた。


徳島県にある城東高校野球部の練習に密着した動画。
その中でも自分の心に強く響いてきたのは、マネージャーを務める永野悠菜さんの言葉だった。


「お手伝いだけのマネージャーじゃなくて勝ちに貢献できるマネージャーになりたい」


永野さんは、ある日先生が不在の日に選手がノックを打っていて「ノックを受けれていない選手がいる」という声をきっかけにノックの練習を始めたそうだ。野球経験がないのにも関わらず。


ノッカーとして練習に参加し、選手と共に戦う永野さんの姿を見て、私は今まで性別を言い訳に自分の弱みから逃げていたことに初めて気がついた。
永野さんのように、チームの状況を見て自分から何か新しいことにチャレンジしたことはあっただろうか。
私はその行動力に圧倒された。


副審を男子マネージャーに頼みに行くことで自分は無力だと感じるのであれば、どうして副審について勉強しようとしなかったのか。
選手とコミュニケーションの取り方がわからないのを、自分の性別のせいにしていないか。
サッカーがわからないと思うならば、どうして色々なチームの試合を見たりしようとしなかったのか。
行動できることは色々あったはずなのに、訳のわからない言い訳をして行動しない選択をしていたのはいつも自分だった。


そう思った瞬間、女子マネージャーは必要かと疑問視した自分を恥だと思った。
チームのために貢献したいと思ってそれを行動に移す分には、その思いはきっと周りに伝わるはずで、そこに性別は関係ない。
女性だからとかどうこういう前に、まずは行動に移さなくてはいけないと2年目にしてやっと気がついた。



先日、学年対抗ゲバ(紅白戦)をした際に、自分の心に強く残った出来事があった。

試合が始まる前、同期全員で円陣を組んでいた。
その時私は円陣に入るという考えさえもなかった。
けれどみんなは全員で円陣を組みたいと言って私を入れてくれた。

その時、私も仲間として戦っていいんだと思えてとても嬉しかったのと同時に、もっとみんなとチームとして共に戦っているという意識を持たなくてはいけないと思った。

この出来事を通して、ア式には性別で人を判断したりするような人はいないと思った。
そんなの前からわかっていた。私がミスをした時は学年ミーティングで厳しい言葉をかけてくれた。選手・スタッフ関係なく同じように練習前準備の仕事が割り振られていた。


この組織は選手・スタッフ、女性・男性関係なく、1人の人間として接してくれる場所だということに気がついた。
私も部員一人一人に向き合い、もっと自分の言葉をぶつけなければならない、そうじゃなきゃ失礼だと思った。




私は選手としてピッチ上でプレーすることはできないし、点を決めることもできない。

毎日の練習に参加する中で、部員のみんなからもらってきた勇気や感動をどうにか勝利に繋げることができないか。

ずっと考えてきた。



いつかの2年生マネージャーミーティングで髙見(髙見真史)
「選手はいろんな想いや夢を持ち、覚悟を決めてア式に来ている。さらに選手たち一人一人にご家族や応援してくださる方々がいる。俺たちはそういうことも感じながら活動しよう。」
と言った。


私はこの言葉にハッとさせられた。
今まで自分はなんて生半可な気持ちで活動してきたのだろうと思った。





部員ブログを読んでいると普段は口に出さない部員一人一人の想いを知ることができる。
その中でも特に印象に残っているのが1年・柏木陽良(鹿島アントラーズユース)のブログ。


最後に自分の夢について書きたいと思います。
私は日本一のチームでプレーしたいと思い、常勝軍団と呼ばれる鹿島アントラーズのユースに入りました。
本気でトップチーム昇格を目指し、努力し続けた3年間。
しかし、プロになるためには実力が足りず、目標は成し遂げることはできませんでした。
本当に悔しい。
でも絶対諦めない。
私はこの夢を叶えるために早稲田大学ア式蹴球部を選びました。
この4年間が最後のチャンスという覚悟でここにきました。


相当な覚悟を持ってア式に来たことが伺えた。

私は果たして簡単に「部の仲間と一緒に戦う」と発言していいのだろうかという疑問が頭をよぎった。


髙見が言っていたように、選手はもちろんスタッフも様々な思いを持ってア式の活動に参加している。
もしこの人たちの力になりたいと思っているのならば、私はその人たちと同じように覚悟を持って自分ができる最大限を出し切ることができているだろうか。

最大限を出し続けることは難しいかもしれないけれど、これを自分に問うことは自分の中の軸としてぶらしてはいけないと思った。
私にはこうやって新しい考えを与えてくれる同期がいる。


そして他にもア式には常にチームのことを思って行動していて相談にも乗ってくださる先輩、心強い同期や後輩がたくさんいる。
尊敬できる人がたくさんいるこの組織で、自分よりも常に頑張っている人がいて活力を与え続けてくれるこの組織で、他の人から学べることを学びとって自分の成長に繋げていきたい。



今シーズン、このチームで戦えるのは残り7試合しかない。
昨シーズンは降格という厳しい現実を突きつけられた中、どうやってチームを立て直していくのか誰よりも考えてくださった4年生、監督、コーチ、社会人スタッフの方々。

最後に4年生を笑顔で送り出せるように。
自分も組織の一員としてみんなと一緒に戦えたと自信を持って終われるように、残りの1日1日を大切に過ごしていきたいです。



最後に同期のみんなへ。
同期としてみんなと活動できるのはもしかしたら今シーズンで最後かもしれません。
1年前、1個下と同期になると言われて少し複雑な想いでした。でも今はみんなと同期になれて良かったと心から思っています。
この2年間、私の原動力は同期の活躍や怪我からの復帰でした。
私は実際の学年が1個上で初めの方はどう接すればいいかわからないという声も聞いたことはあったけれど、それでも同期として受け入れてくれてありがとう。



1年後、自分が4年生として活動しているのかはまだわからない。
どちらにせよラスト1年悔いが残らないように、地に足つけて自分のできることを1つ1つやっていきます。


◇渡邊朋恵(わたなべともえ)◇
学年:2年
学部:人間科学部
出身校:帝京大学高校


【同期マネージャーとの対談記事(早稲田スポーツ新聞会 企画・編集)はコチラ☟】


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