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わかおの日記150

惨めな思いは日記にしておくに限る。

一限が入っていたので、早起きして三田に行った。この一限は必修の英語の授業で、英語のクラスを申請し忘れたためにほぼ強制的に割り振られた余りものである。好き好んで一限を入れる奴なんていない。

少し早めに教室についたので、後ろの方の席に座った。しばらくすると見覚えのある人間が、友人らしき金髪の男とともに教室に入ってきた。まずい、あいつだ。

彼とは入学当初仲良くしていたものの、互いの性質が合わないことがわかると自然に疎遠になっていった。よくありがちな「最初だけの友達」である。彼の、利用するために友達を作っているようなところが個人的には苦手だった。しかし、これはどっちがいいとか悪いとかの話ではない、合う合わないの話なので、まあどうでもいいことだった。

授業が始まって英語の先生が入ってきた。上品な、感じのいい女史だった。そいつは、授業を始めるなりこう言った。

「えー、まあ、最初の授業なんでね。適当に5人くらいのグループを作って自己紹介してください。あとで他のグループの人に向けて他己紹介もしてもらいます」

小学校じゃねんだよクソババア!!と思った。お前は気を使ってやってるつもりかもしれねえけど、こっちからしたら大迷惑なんだよ、死ね!!!

ババアの突然の狼藉に動揺したのか、体中から変な汗が湧き出てきてTシャツを湿らせた。「適当に5人くらいのグループが作れ」るんだったらこうなってねんだよ!余計な事すんな!と内心怒りに震えながらもキョロキョロして、どうにか3人のグループを組むことに成功した。

なんら見どころのない人たちだった。特に面白い趣味もなく、サークルにも入っていないような奴らだった。ぼくも、野球をやっていたくらいの浅めの自己を開示するだけにとどめ、あとは気まずくならないように適当に話を回していた。

自己紹介のフェーズが終わり、他己紹介の段になった。他のグループはどうやら話が盛り上がったみたいで、専攻からサークルから趣味まで、軽いユーモアを交えながらちょうどいい他己紹介をしていた。そのあいだじゅうぼくは、「俺の方が面白いこと言えるけどな……」と思っていた。

そして僕の番が来た、

ぼくは「文学部〇〇専攻の○○さんです……サークルには入っていなくて、高校までバレエを習っていたそうです……(これでおしまい?という周囲の反応を察する)……アッ、以上です……」という最低な他己紹介をかまし、ここまでの他己紹介最短記録を更新した。他人に興味がないんだからしょうがないじゃない。

これでこのクラスにおけるぼくの立ち位置は確定した。「なんか肩幅が広いわりに陰気な、話しかけづらいやつ」である。もう一年間誰からも話しかけられることはないだろう。

授業が終わると、その「最初だけの元友達」がこちらに来た。

「久しぶり!なんか変わったね」彼はニヤつきながら言った。かれの言う「変化」は、多分、「ずいぶん陰気になったんじゃないですかあ?若生クンよお」くらいの意味である。ぼくは内心「お前はそもそも俺の何を知っているんだ」と思いながら「あそう?」と返した。その間、彼の後ろで連れの金髪フットボールサークルヤリチンは携帯をいじっていた。

絶対あの時ぼくは、彼に下に見られていた。教室を出た後に徐々にそのことが分かってきて、もう家に帰りたくなった。

昼は肉がたっぷり乗ったつけ麺を食べた。

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