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恋が、紅茶に落ちてゆく。

私があなたを好きになった瞬間は、今でもはっきり憶えている。紅茶をすするあなたが小さく笑った時だった。
初めてあなたと二人きりで出かけたときのこと。私たちは食事をして、その後カフェに入った。
メニューはシンプルなものが多くて、私はホットレモンティーを、彼はホットコーヒーをそれぞれ注文した。店は繁盛していて、注文したくても、店員を捕まえるのに一苦労だった。

だけど、運ばれて来たのは、温かい紅茶が二つ。

「あの、すみません」
「いや、いいんだ」
あなたは、店員を呼ぼうとする私の声を遮った。私は少し納得出来なかったの。だって、間違えたのは向こうなのだから、こちらが遠慮する必要はないはずでしょう?

だけど、あなたは良いんだと繰り返して、私に「砂糖はいる?」と問いかける。私は「角砂糖を一つだけ」と渋々答えた。
あなたは、私のカップだけに、砂糖をそっと落としてゆく。

「確かに、珈琲は来なかったけど、紅茶を飲む機会には恵まれたのだから」

彼はなんでもないことのように、つぶやく。
だけど、私は心がキュッとなった。

私は、正しくしか生きることを許してもらえない世界で育ってきた。だから、私にはないあなたの感性が、琴線に触れて響いたの。

この人となら、今までとは違う景色も見えるんじゃないかって思ったの。

「あぁ、美味しいね」

紅茶を口にしたあなたが微笑む。

私の紅茶に落とされたのは、砂糖だけじゃないってこと、その時には気付いていた。

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