見出し画像

サクラサク。ep11

吾輩は猫である。名前は朔(さく)。ご主人様が行方不明の今は、サクラというニンゲンにクロと呼ばれている。

「クロ、ごはんだよ!」

朝、サクラの凛とした声が響く。
ご主人様は朝、ぼんやりとしていたことが多かったけれど、サクラはとても元気だ。

美味しそうなスープとパンの焼ける匂いがする。吾輩はカリカリで充分だが、パンにジャムを塗るサクラは幸せそうだ。

“お前は可愛いから、いつか飼ってくれるヤツが現れる。その時は、綺麗サッパリ俺のことは忘れて、そいつの元で、誰よりも幸せになると良い”

ご主人様が言ってくれた言葉を思い出す。
ニンゲンは、飼い主がいなくても、自分で自分を幸せにできるんだな。

ネコも、自分で幸せに出来るのだろうか。
幸せになっても良いのだろうか。

ご主人様はいないのに。

「遅刻しそう!」

ご主人様より早起きなのに、サクラの朝はやる事が多いみたいだ。
鏡を見て、ひらひらとした服を着て、毛並みを何度も整える。

どんどん綺麗になっていくように見えるのはどうしてだろう。
朝の光がキラキラしているからだろうか。

「いってきます。イイコにしていてね」

行かないで。

吾輩はみゃあと鳴いた。サクラは少し困った顔をしている。

「そんな寂しそうな顔しないで。仕事が終わったら、ちゃんと帰ってくるよ」
サクラには、何故か猫の言葉がわかるんじゃないか、と思う時があった。

「今度こそ。いってきます」

サクラは仕事へと向かった。部屋がより広くなった気がした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?