【4話の4】連載中『Magic of Ghost』
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※この記事は【4話の3】の続きです。
「……だってベッドひとつしかないし。校長先生はまだ寝ないって言ってたし……」
「いや、ベッドがひとつしかないとかそういう問題じゃ……」
当然動揺を隠せていないのは自分でも手に取るようにわかっている。なにもないとわかってはいても、仮にも、うちの学校で誰もが目を引く女子とまで言われたやつと一緒に寝るということは考えられなかった。しかし、動揺していても格好悪いので、一旦落ち着いて、俺はバレないように軽く深呼吸をした。
最初からソファーを選んでおけばよかったと心底思う。
キングベッドひとつしかないことは搭乗時に確認していたが、相当疲れていたのかもしれない。そんなことは一切忘れてそのままベッドに横たわってしまっていた。
「……俺はソファーで寝るからベッド使っていいよ。ごめんな気が利かなくて」
そう言ってベッドから立ち上がり部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
「……優鬼がなにもしなければあたしは別にいいよ。……あーっ! もしかしてなにもしないって言う自信がないんだぁ?」
俺に対するクレアの挑発はなかなか素晴らしいものだった。しかも、短いスパンで二度も俺を挑発するのにははっきり言って笑える。俺は精神と本能の境に立たされたが、なにもしないということをクレアと自分自身に約束した。俺の中の3つ目のポリシーは『約束は死んでも破らない』ということだ。
「……上等だ。約束しよう。俺はなにもしない。ただ!」
「ただ?」
「ちょっと離れて寝ろ! いいなっ!!」
捨て台詞のように言い放ち、ベッドの端に入って布団をかけた。
クレアには背中を向けていたので、クレアの行動はわからなかったが、大人しく布団に入ったようだ。
キングサイズで助かったと思いながらつくづくこの王様に感謝をした。
「……おやすみ優鬼」
「……あぁおやすみ」
こうして沈黙が続き、やがてクレアの寝息が聞こえてきた。そして俺は寝られず、さぁどうすると考え始めて数時間が経った。どこかに置いてある時計の針の音が刻々と過ぎて行く時間を告げている。
そして寝ていないせいか、空腹にさえなってきた。
遂に俺は一睡もできないまま朝を迎えてしまった。
その時を待っていたかのように、スピーカーから再びサイモンの声が鳴り響いた。
「オハヨウゴザイマス! アト10分ホドデ着陸シマスヨー! 支度シテクダサイネ!」
なんとも気分の悪い目覚まし時計だった。そして俺は横でぐっすり寝ていたクレアの肩を数回叩いて起こそうとした。
「おい。起きろ! あと10分で着陸するらしいぞ! シートベルトしないと危ないんじゃな……」
こいつは俺がなにかすると思ったのだろうか。それとも夢で誰かと戦っていたのだろうか。
これでもかと言わんばかりに勢いよく俺の左頬とやつの拳が対面した。
こいつを起こすのはもう二度と止めよう。俺は心に誓った。
「うぅん……優鬼おはよぉ」
「あぁおはよう暴力女」
寝起きだったからか、俺が最小限にボリュームを下げたおかげか、この時は殴られずに済んだ。
扉を開け二人で寝室を出る。
「きゃあっ!!」
横にいたクレアの叫び声に俺は全身が痺れたように驚いた。
「な、なんだよいきなり!」
「優鬼!! 顔!! その顔どうしたの!?」
俺は慌ててバスルームの洗面台へ駈け込んで、自分の顔を覗いた。綺麗に左の頬のみが赤紫色に腫れ、変色していた。そのことにも驚いたが、あいつが殴ったことをまったく覚えていないという事実に一番驚いた。
俺は激しい足音を立て、クレアに近づいた。
「お、ま、え、が、やったんだよっ!」
俺は左の頬とクレアを何往復も指差し、嫌味を充分に混ぜた言葉を吐いた。こいつに殴られるのは慣れている。だが、慣れたらマズいということも頭の片隅にはしっかりとあった。しかしそんなことを考えている余裕はない。もうすぐ着陸だ。いくら離陸で少し慣れたとはいえ、まだ油断はできない。なにしろパイロットはあのサイモンだからだ。そして俺は離陸の時と同様、誰よりも早く個々のソファーに座り、部屋着のままシートベルトを装着した。
クレアは自分がしたことを思い出そうとしているようだが、勝手に考えていればいいと思い放っておいた。今の俺はそれどころではない。
すると校長が横に座ってきた。
「よく眠れましたか?」
「えぇもうぐっすり」
校長の言葉よりも今は着陸に専念することが最優先だ。寝れなかったことなど今はどうでもいい。
クレアも席に着きシートベルトを装着した。
「着陸シマスヨー!!」
そして俺達はディヴァイン・ジャッジメントの専用滑走路に着陸することになる。
【5話の1】へつづく……
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