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仕事中に見ているもの・2
2006年5月13日 (土)
ウチの店には、カウンターがありません。
料理は、厨房からサービスが運び出してバックヤードを通り、客席へと配膳されます。
ということは、板前が直接お客様の前に出ることが、まずありえ無い、ということで―。
う~ん、私見ですが、お客様の顔を直接見ない=反応をリアルに見られない、ということは、料理人にとってあまり良いことではないと思うんですよね。
もちろんサービス係りは、お客様の声をなるべく厨房へ通すようにはしています。
誉められても批判されても、とにかくなるべくたくさんの声をかけるようにはしているのですが、やっぱり直接言われないと、ピンと来ない事も多いようです。
日本料理の料理人には、職人気質で気難しく、ただの運び屋に何がわかる!という態度の人もまだまだ多いですし、ヘタをすると「俺の料理がわからない客には食べてもらわなくて結構!」なんて言ってのける人も居たりします。
ただ、こういう人たちはまだ良いのかもしれません―。
少なくとも、自分の料理に集中してプライドを持って仕事をしていますから、出来上がりが多少独り善がりではあっても、質の面である一定のラインを下回ることが無いのですから…。
問題は、勤務時間を消化するために料理を作っちゃっている料理人の場合です―。
お客様の顔の見えない厨房で手順だけ踏んで料理を作っている料理人は、たとえミスをしても身にしみませんし、配膳台に出すまでで完結してしまっています。
たとえば、こんなことがありました。
中途採用で入ってきた30才前の料理人、揚げ場(文字通り、揚物担当のこと)を任されていたのですが、ある日揚げ物の種を、包んでいた紙ごと、衣を付けて揚げてしまいました。
サービスは、衣揚げだったので白い紙が見えず、そのままお客様にお出ししてしまったのです。
当然、お客様からはクレームがつきました。
サービス担当から聞いてすぐに私がお詫びをし、作り直しのお許しをいただいて厨房へ行ったのですが、話を聞いているはずの彼は、まったく悪びれた様子がありません。
そればかりか、言うに事欠いて「よくあるんですよね」とのたまうではありませんか―。
料理長が不在の日で、慌てて二番手が「何を言ってる!」と強くたしなめましたが、本人はさしてこたえた様子もありませんでした…。
その後、二番手がきちんと作り直したものを私がお持ちした時、お客様がこう言われました。
「なぜ、料理人が来ないのかな?責任者という意味で女将が来るのはわかるけれど、料理担当には料理担当の責任者が居るでしょう?
なにも本人にわびを入れに来い、って言ってるんじゃないんだよ。
だけど少なくとも、料理にたずさわってる人間が一言『すみません』って言ってくれた方が、ああ、わかってくれたんだな、って思うじゃない?
だって、サービスの子は一所懸命にやってくれてるんだよ。
それなのに、自分とは関係ないことでお客に文句言われてさ、やった本人達はその子の後ろに隠れてるようなモンじゃない?おかしいよ!」
面倒だからわざわざ言わない―。というお客様も多いなか、言いにくいことをおっしゃってくださったお客様のご意見、ありがたく拝聴させていただきました。
残念ですが、お客様の前に出ない、ということは、往々にしてこういう事が起こりがちです。
仕事をしている間中、頭の中でお客様が見えていないのです。
見ているのは目の前の食材と出来上がる過程のみで、その後それを食べる人が居るということが、現実感を伴わないのだと思います。
「仕事を見て人を見ない」
接客について1月26日の記事に書いたことですが、これはけしてサービスだけの言葉ではありません―。
料理人は店の宝です。この人たちが居なければ、どんなに良いサービスをしても意味がありません。
しかし、この人たちの目線の先にいつもお客様の姿がはっきりと見えていなければ、出来上がる料理には心がありません。
心の無い料理は、お客様を満足させはしないのです。
お客様を満足させられない料理人を、宝と呼ぶことはできません―。
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