001那須1

知りたい日本料理6―献立の話

2006年6月21日 (水)

「献立」(こんだて)という言葉は、日頃よく聞くと思います。

「今夜の献立は何にしようか」「今回ご紹介する献立は…」「給食の献立」などなど、家庭からレストラン、テレビの料理番組まで、ひろく当たり前に使われていますよね―。

洋食の世界だと「メニュー」にあたる言葉だと思ってらっしゃる方も多いと思いますが、実はこの「献立」、もともとは洋食で言うところの「レシピ」、要は「作り方」や「組み立て」の意味でした。

ですから、本来はお客様にお見せするものではなく、調理人が実際に料理を作るさいにそれを見ながら作業をするための、設計図のようなものだったんですね。

そして「会席料理」はお酒を楽しむための料理ですから、「献立」とはつまり「一献ずつの酒の肴を組み立てたもの」という意味でした。

ちなみに「一献」とは「三杯の酒を勧める」という意味です―。

室町時代以降の礼法で、来客へのもてなしの際は肴を添えた盃を出し、酒を勧めたことをあらわしているのですが、その方法は、膳に銚子・盃・肴をのせて客前に出し、酒を三杯勧めてからその膳を下げる、というものでした。

次の酒を勧める時は、膳を新しく持ち出すわけですが、そのつど新しい肴をのせて供しますから、その肴を組み合わせたものがすなわち「献立」となったわけですね。

お酒も、一杯だけでは「これっきり」という、まるで別れの水杯ですし、「二」という数字は、奇数を「陽」としてきた日本では避けられます。

となると、三杯ではじめて落ち着く話ですから、結婚式での三々九度も、駆けつけ三杯も、みんな意味があってのことなのですね。

さて上で「献立とはどういうものか」というお話をさせていただきました。

献立とは、元来料理人が使うものであり、お客様を招いて酒をもって饗応するとき、何を肴にして供するかを並べて書いたもの、ということでしたよね―。

室町時代以降の正式な酒宴の饗応、ということもお話しましたが、この饗応にはおもに3人であたりました。

まず、1人が酒の肴と盃を三方にのせ、客前に持ち出します。

続いて2人目は銚子(ちょうし)を持った勧盃役が進み出て盃に酒を注ぎ、三方上の肴で客に酒を三杯飲ませると、三方ごと下げます。

控えていた3人目は用意しておいた提子(ひさげ)から、注ぎ足し用の酒を銚子に注ぎます。

これで「一献」ですから、また初めに戻って、新しい肴を三方にのせて客前へ持ち出し、酒を三杯飲ませては下がる、この繰り返しをするわけですね―。

ひな祭りのお人形で「三人官女」というのをご存知と思いますが、実はあの3人が、この饗応のかたちを表しているのです。

真ん中の官女(「トリ○アの泉」によると、ただ1人既婚者だとか…)が、盃の乗った三方か島台を持ち、両脇には長柄の銚子(柄杓のような形をしていて、注ぎ口がついたもの)を持っている勧盃役の官女と、銚子に酒を注ぎ足すための提子(ひさげ)を持った官女が付き従いますが、この3人のかたちが、昔の正式な饗応の姿だったわけです。

そして、このような酒宴で、料理人が何をどう作って出すかを考え、一献目の肴、二献目の肴、三献目の肴…というように並べて書いたものが「献立」だったわけですから、本来「献立」という言葉は、最初から料理が全部並んでいる料理や、茶懐石などには使わない言葉でした。

しかし、年月を経るに従って混同され、また流用されて、今では「給食の献立」やら「晩御飯の献立」などと使われているわけですね―。

さて、では本来の意味で「酒を楽しむ」料理である「会席料理」、別名「喰い切り料理」の献立は、現代どのようになっているのでしょうか?

日本料理のなかで、正式な武家料理である「本膳料理」は、初めにご飯と汁に菜を添えて出し(一汁三菜、一汁五菜、二汁五菜など)、まずたっぷりとご飯を食べていただいてから、膳を替えての酒席となるものでした。

当然、まずはご飯のための「菜(さい)」(おかず的なもの)が並んだわけですが、かたや「会席料理」の場合は、初めから酒のための「肴」をもって始まり、その後も季節の味覚を中心に、酒を飲むための料理が続いて、最後に〆の食事が出る、というかたちになります。

会席料理のなかでも「喰い切り料理」と呼ばれ、一品ずつ供されるコース料理の典型的な献立を、以下に一例としてあげてみます。
  先附 前菜 お椀 お造り 煮物 焼物 
  揚物 酢の物 食事 止め椀 水菓子 甘味

これは一例ですから、もちろんこの他にも「蒸し物」が出たり、「強肴」(しいざかな)が出たり、あるいは「口替り」や「中皿」が出たり、ということもあります。

そしてこれらは、茶懐石や本膳料理の一部を取り入れ、それぞれの良さを吸収して出来上がってきたものなので、用語が流用されていることが多いんですね。

また、組合せや品数は、料理人がお客様の様子や予算と相談しながら変えていくものですから、その時によって違うものになるわけです―。

ただいずれにせよ、どのような食材を使い、どのような順番で、どんな風に料理して、どう盛り付けるか、また、どんなものを添え物として使うかなどが、ひと目でわかるようになっているもの、それが「献立」なのです。

料理人は、次のようなことに気を配って献立を作ります。
 1.「起承転結」または「序破急」を意識した内容とする
 2.一つの献立のなかでは、同じ食材を使わない
 3.食材の上位・下位を理解して組み立てる などなど……

さて、それでは実際にお客様へお出ししている料理はどんなものなのか、ご紹介しましょう。

残念ながら写真が無いのですが、私どもの過去の献立帳から、ある年の「水無月献立」です。

先 附 海素麺とろろがけ 焼干子
前 菜 滝川豆腐振り抹茶 順才
    雲丹たたきおくら 短尺サーモン
    海老枝豆ゼリー寄せ
お 椀 利休白玉南京 花冬瓜 牡丹玉子 蓮芋 口柚子
焼 物 鱚塩焼き籠盛り込み 鰻八幡巻 はじかみ
口替り 鱧せん 手長海老 新蓮根 小柱 青唐 
    美味出汁 赤おろし
煮 物 冷やしのっぺい 砂地芋 鮭 人参 椎茸 滑子
    さや 若唐黍 木の芽
酢の物 白瓜雷干し 赤貝 つらら蛸 針独活 防風 赤芽
食 事 山芋そば 打ち葱 山葵
水菓子 有りの実 巨峰


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?