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知りたい日本料理6―旬の話

2006年6月 5日 (月)

日本人は、身の回りのさまざまなことに四季を感じ取ってきた民族ですが、料理の世界も例外ではありません。

はっきりとした四季を持ち、海・山・川・湖・里などから豊富な食料を手に入れることが出来る日本では、昔から、それぞれの食材の「旬」(しゅん)というものを大切に味わってきました。

ところで、「旬」(しゅん)とは何でしょう?

辞書を引くと、「しゅん」読みではこう記載があります。
 
・季節ごとの農産物や山海の恵みが、もっとも多く獲れて
 味の良い時季をさす。

わかりやすいところで言うと、すいかは「夏が旬」と言えますし、魚の秋刀魚(さんま)は「秋が旬」と言えるでしょう。

四季の恵みを一番美味しい時期に美味しくいただく、その味はこたえられないものです。

そして「旬」を「じゅん」と読むと、こういう意味になりますね。

・一ヶ月を十日ずつに分けた時の、それぞれの十日間をいう。

そうなると、同じ字を書くことでもわかるように「旬」(しゅん)とは本来、短い期間でもありました。

昔は今ほど農業技術も進んでいませんでしたから、出荷調整など望むべくもなく、農作物の出盛りは一斉で、早生や遅生があったとしても現在のように長期では無かったでしょう。

そのため日本人は、その本当の「旬」の前後も、味の変化を楽しむための工夫をこらし、食卓に乗せてきました。それが、「はしり」であり、「名残り」です。

「旬」の前、ものが出始めのころの新鮮な味わいを「はしり」と呼び、「旬」の後、ちょっと味は落ち加減ですが工夫して味わうものを「名残り」(なごり)と呼びました。

たとえば、これからが季節の「鮎」の楽しみ方はこうなります。

はしり→初夏の解禁のころ、出たて、採れたてを塩焼きにし、
    爽やかな香味を蓼酢(たです)でさっぱりと味わう。

旬→真夏のころ、成長して大きくなり、脂ものってくるので、
  田楽やフライにして味わう。

名残り→秋口になると卵を抱き、落ち鮎のころとなる。
    身の旨みは少なくなるが、煮浸しなどにして名残りを
    惜しみつつ味わう。

この他に例えば、「苺(いちご)」はどうでしょうか―。

今はほとんどハウス栽培となってしまい、クリスマス需要を見込んで12月頃からの出荷が増えていますが、もともとは夏が旬でした。

以下は私の体験に基づく、苺の「はしり・旬・名残り」です。

ハウスでない5月頃に出始める露地ものの苺は、はしりの頃、少し酸味があってやや小粒のことが多く、つぶしてから砂糖をかけ、牛乳をかけて食べたりしましたね。
(↑あれ?これも年齢制限のある話でしょうかw)

旬には、完熟したものをそのまま美味しくいただきました。
もちろん、きょうだいと取り合いですよ。競って食べると、2倍美味しいでしょ?

名残りの苺は、熟れすぎのものを箱買いしてジャムにします。

ウチでは、そうめんをゆでる大きな鍋で大量のジャムを作っていたのですが、ゆっくり煮詰めるのに、母は七輪を使ってましたね、そういえば…。

炭のとろ火がちょうど良いのと、台所が暑くなるので、外で出来るのが良かったらしいです。

かと思うと、鰹(かつお)の旬は長く、2度あると言われています。

5~6月に相模湾の沖合いで獲れる鰹は、充分に太ってはいますが、まだ脂ののりが少ない魚体です。

別名を「上り鰹」(のぼりがつお)ともいい、さっぱりとした味わいを刺身にして、今年最初の味を楽しみますが、これが1度目の旬です。

この鰹、「はしりでは?」と言われることもあるのですが、最近では3~4月に南洋で獲れたものを「初鰹」として水揚げするようです。

一方、5~6月ごろには近海での充分な漁獲高がありますし、初夏の「旬」と読んで差し支えないと思うんですけどねぇ…。

まあ、厳密な決まりがあるわけではありませんので、むずかしいところですね。

鰹は秋になると三陸沖まで回遊してきますが、この頃は脂がたっぷりのった魚体となっていて、別名を「戻り鰹」(もどりがつお)「下り鰹」(くだりがつお)と言います。

最近では、消費者の好みで脂がのったものの方がよく売れるということもあり、秋の鰹が安価にたくさん出回るようになっていますから、この時季が第2の旬というわけですね―。

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