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これまでのことを

こんにちは。私は、吹きガラスでうつわを作る仕事をしています。
吹きガラスをしています、というと「ああ、あの、ぷーってやるやつ?」と言われますが…まさにそのとおりなんです。
熱々のガラスを吹いて、形を整えて…ひとつひとつ生みだしてゆく。透明で、きらきらして、冷たいけれどあったかい。
私はガラスという素材そのものに魅力を感じています。最初は、本当にただそれだけでした。綺麗だからガラスやりたい。ガラスやりたいから美大行きたい。美大行きたいからデッサンやらねば…

ガラスに出会ってから、10年が経ちました。これまでのことを書き留めておこうと思います。

2007年春、武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科に(奇跡的に)入学。
順調に美大ライフを満喫し、2年生の後期からガラス専攻になりました。
ひととおりの技術を習得していく中で、吹きガラスが一番楽しいと思うようになりました。出来なかった事がだんだん出来るようになっていくのがうれしかったし、続けていれば必ず上手くなる、という実感もありました。

しかし、何のために作るのかわからないまま制作していました。
なんとなく、美大だから…アートのようなものを作る。
自己の表現としては弱すぎるし、素材の表現として卓越している訳でもないので、出来る範囲内の作品…になってしまっていただろうなと、今となっては思います。

武蔵野美術大学 卒業制作 ”Recollect”(2011)

そして…卒業後もガラスを続けていきたい。でもまだ技術も経験も足りない。
ということで、富山にあるガラスの専門学校に進学することを決めました。

2011年春、富山ガラス造形研究所 研究科に(勢いのみで)入学。
大震災の影響で卒業式にも出席することが出来ず、あわただしくやってきた新しい土地でした。

富山の自然は本当に美しくて、晴れた日のドライブで目の前に広がる立山や、夏の夜のホタルや流星群、冬には全て埋もれるほどの真っ白な雪。
また、学校には思う存分制作に集中できる環境がありました。私はそこで本当に作りたいかたちを考え直してみたのです。

"PIECES"(2010)

これは吹きガラスではなく、ガラスの粉を石膏型に入れて焼成するキルンワークという技法と、ガラスを削って磨くコールドワークという技法で制作しています。ビー玉部分と幾何形体部分は、ガラス用の接着剤で接着しています。

制作のスタイルが変化したことで、表現うんぬんよりも自分の求めるものに正直になり、こだわりを捨てることが出来るようになりました。
同時に、やっぱり吹きガラスが楽しいと改めて思うことにもなりました。

吹きガラスで、本当に作りたいものが作れるようになりたいな…
そんな2年間の富山生活はあっという間に過ぎ、都内の吹きガラス工房に就職するために再び東京へ。

2013年春、都内のガラス工房に(運よく)就職。
東京の東側、完成して間もないスカイツリーにほど近い江戸っ子気風あふれる工房です。
都内でも大規模な工房で、制作する製品は国内外の有名ホテルやレストランへと納められるものばかり。ひとつひとつが大切な製品であり、技術力が売り上げに直結する仕事です。
アシスタント業務だけでなく製品の制作を手掛けることもあり、毎日ガラスを扱う環境で経験値がぐーんと上がりました。

学生の頃は、作品を作ること自体が大切で作って発表することがゴールだと思っていましたが、仕事としてガラスに関わるようになってからはお客さまに買ってもらう、使ってもらうことがやりがいになってきたように思います。
製品をお取り扱いしているレストランで、きれいなお料理を盛りつけられたガラスのうつわは、何倍にも輝いて見えました。

生活の中で、身近な存在として使ってもらえるうつわを作りたい。

"Confetti"(2015)

しっくりくるかたち、好きな色、ポップな模様。手仕事だけど、できるだけプロダクトっぽく。
△の模様がぱらぱらと舞っていて、紙吹雪みたいだと思ったのでパーティー気分になれるような特別感をコンセプトに…ということで、もうひとつのデザインを考えました。

"Ribbon"(2015)

プレゼントみたいなリボン模様です。

しかし…この頃は展示会の予定もお取引先も、ほとんどありませんでした。Instagramも知らなくて、作品を発表することもしていない状況。制作するにも費用がかかってきます。このままだと作品を作り続けられなくなるのでは?という現実が目の前にありました。
頑張って美大に入ったこと、東京に来たこと、勉強してきたこと…ようやく、作りたいものが作れるようになってきたのに!

そんな時、iichiのサイト上のとある公募が目に留まりました。少しでも仕事につながる可能性があればと思い、応募してみることにしました。

2015年冬、rooms30に(背水の陣)出展。
H.P.FRANCEが主催する、バイヤー・プレス向けの展示会です。
当時、iichi登録作家の出展枠が設けられていて、バイヤーの方に直接作品を見てもらえる機会を頂きました。

通常の展示会とは準備するものが違い、展示作品、展示ブース、リーフレットなど、全てが初めてでどうすればいいのか分からず途方に暮れました。
また、出展料もかかりましたので、仕事につながるかどうかも分からないままの先行投資は重く重くのしかかってきました。

rooms30 会場風景(国立代々木競技場)

当時作成したカタログです。A3くらいでネットプリントに発注、両面印刷を切って折ってホチキスで留めて本になるようにしました。
吹きガラスの作品のラインナップが1つしかないので、アクセサリーや学生の頃のオブジェも詰め込んで間を持たせている…つら…

毎日の仕事終わりの制作、帰宅後の準備で疲労困憊になり開始前に魂抜けておりましたが、展示会では想像以上にたくさんのバイヤーさんに作品をご覧頂くことが出来ました!お店でのお取り扱いや、新規事業への参加などのお話を頂きようやく仕事としての制作が始まるのだと感じました。

そこで、本当はroomsまでに間に合わせたかったブランドロゴの制作に動くことに。
以前からひそかに憧れていたハンコ作家・イラストレーターの羅久井ハナさんに
勇気を出してロゴデザインを依頼してみました。(現在はご多忙の為、ロゴデザイン制作はされていないそうです)

作品を見て頂き、グラスから夢があふれるようなイメージが伝わる本当に素敵なイラストに仕上げて頂きました。
羅久井さんの世界観に追いつくようないい作品を作っていきたいと今も思っています。

10年間ずっと、ガラスに夢中でした。だけど、それぞれの環境でいつももがいていたように思います。
そんな時に支えてくれたたくさんの人々に私の作品で笑顔になってもらえたらいいな。
そのために作り続けることが今出来ること…かもしれません。

10年前の私へ
私は10年経ってもガラスを吹いて、作っています。なかなか、上手になったと思う。

※2023.9.20 加筆・修正して投稿しました。

最後まで読んで下さりありがとうございます。 これからも応援よろしくお願い致します。