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「会社の当たり前」をやめてみた

ワヴデザインは2006年に創業したデザイン会社です。2006年というと、世の中はFlashによるリッチコンテンツ全盛期。大小さまざまな制作会社やデザイナーが次々と登場し、雑誌のWeb DesigningやMdNを賑わせつつ、ロールモデル無き世界を模索している……そんな時代だったと思います。

僕らもその時代の渦の中で、さまざまな試行錯誤をしていました。それは、単にクライアントワークとしてのクリエイティブに留まらず、チームづくり、会社づくり、仕組みづくりにおいても、自ら実験を繰り返し、社名の由来でもある「We Are Better」を実践していました。

そんな僕らが大きく変化を遂げたのは2020年以降、所謂「コロナ禍」に入ってからの数年間。正直、いろいろありすぎて、整理がつかなくなってきたので、ここらでちょっと言語化しておこうということで始めたのが、今回の<「会社の当たり前」をやめてみた」>という長編noteです。



01.コロナ禍を生きる「中小企業の試みと成長の物語」

ここから語られる話は、単に「デザイン会社の仕組みづくり」のTIPS記事ではありません。コロナ禍以降を生き延び、ちょっとユニークな成長と変化を遂げてきた「中小企業の物語」だと思ってください。

日本の企業数の99%を占める中小企業に関わる経営者さんや、現場で働くキーパーソンたちに「おもしろいかも」「これってアリなんだ」なんて思ってもらえたら、とても嬉しく思います。


02.「やめる」の中にあるクリエイティビティ

「やめてみた」というと少し消極的な響きを感じる方もいらっしゃるかも知れませんが、「やめる」という行為は、なにかをデザインするにおいても重要な思考のひとつとなる「引き算」にも通じます。

誰もが当然のこととしてきた既存の作法やルールを疑い、検証し、手放す行為は、僕らにとってとても創造的で、挑戦的で、刺激的なことばかり。ちょっとかっこいい言い方をするなら「常識からの開放」なんですよね。

「We Are Better」を掲げる僕らは元々、破壊的なイノベーションよりも、軽やかさや柔軟性をもって「これって、本当に正しいんだっけ?」と考え、自分たちで試しながら改善していくスタンスが好きでした。

でも、「好き嫌い」を超えて、コロナ禍以降の不確実性に満ちたVUCA(※)な時代に対して、僕らの「We Are Better」ってけっこうフィットするよな。なんて思ったりもしています。

(※)Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguityの頭文字で構成される言葉。将来の予測が困難な状況を示す造語。


03.「11ヶ月働き、1ヶ月休む会社。」から続くマインド

話は少し遡ります。時は2012年。 ワヴデザインはちょっとエポックな試みで脚光を浴びました。それが「11ヶ月働き、1ヶ月休む会社。」というプロジェクトです。(現在は休止)

創業から6年目。急成長と共に仕事の幅・量が大きく広がる中で、ふと思ったんです。

「あれ?人生って仕事のためにあるんだっけ?」と。

「事業は走り始めたら前進するほかない」
「仕事はあるだけこなしていきたい」
「働いた分だけ会社は成長するし、収入も大きくなる」
「幅広い経験が、幅広いデザインを生み出す力になる」

それは確かに正しい。でも、仕事をしている僕ら自身、人生の中で仕事を超えた部分で本当にやりたいことができる時間はどんどん少なくなっていくし、まとまった休みもなかなか取れない状況が続いていく。しかも、それを当たり前のことだと思いはじめてしまっている……これって、どうなんだろう?

普通の会社なら、そこで考えて終わってしまいそうですが、一度考えはじめたからには、具体的にアクションしていくのが僕らのスタイル。そんなこんなでスタートしたのが「11ヶ月働き、1ヶ月休む会社。」でした。その名の通り、社員が交代で1年の中の1ヶ月をまるごと休んで好きなことをするというものです。

これはかなり時代に先駆けた試みとしてメディアにも取り上げられ、話題にもなりました。なんとなく記憶にある人もいたりするかも知れません。因みに働き方改革が施行されたのが2019年なので、我ながら「早かった」と感じたりしています。

このプロジェクトの中で培われた「当たり前を疑う」「やってみる」、そして何より、クリエイターとして「働き方をデザインする」というマインドが、今回の<「会社の当たり前」をやめてみた」>へとつながっていたりします。


04.出社をやめて、リモートワークに振り切ってみた

この見出し↑を見て、「普通じゃん」と思った方も多いと思いますが、ちょっと考えてみてください。確かに2020年頃から世界を覆った新型コロナウイルスの流行……いわゆる「コロナ禍」において、リモートワークはある種のトレンドになり、もはや語るまでもないくらいの話題になりました。でも、新型コロナウイルス感染症が5類に移行して、街なかでマスクを外す人も増えた現在(2023年7月頃)、多くの企業がリモートワークをやめて、元の体制に戻ろうとしていますよね。

そんな中、僕らワヴデザインは、全社フルリモートワークを継続することを決めています。その理由こそが、「会社の当たり前」を本気でやめてみた結果、「メリットしかなかったから」なんです。

とは言え、にわかには信じにくいと思いますので、まずはコロナ禍以前のワヴデザインの状況整理をしていきたいと思います。

・代々木八幡に空間デザインにこだわったオフィスを持っていた
・オフィスではファッションブランドによる展示会も行っていた
・業績は順調で人員も増え続けていた

自らで言うのもなんですが、いい仕事、いい関係性、いい空間があって順調な状態。ただ、一方で新しい刺激が少なくなり、そろそろ何か変化が必要では?とも感じていました。そんな中で「突然のコロナ禍到来!」という……多くの中小企業が直面したであろう苦境が始まろうとしていたわけです。

でも、僕らは思いました。「これって本当に苦境なんだろうか?」と。

世の中がこぞってネガティブな方向に向かっていると、立ち止まって別の方向を向きたくなるんですよね。そもそも、「デザインって世の中で生まれた課題をポジティブに解決する手段じゃん」みたいな気持ちはずっと持ち続けていたと思います。

とは言え、「人との接触を最小限に留めなければならない」という制限下で思い浮かぶ懸念点はたくさんありました。

・オフィス、どうする?
・労務管理とか、人事評価とか、どうしよう?
・採用ってどうなっていく?面接は?教育は?
・社員とのコミュニケーションやケアは?

あの頃、多くの会社が同じ悩みを抱えていたはずです。あのタイミングで、これらの課題にどう向き合ったか?って、ある「前提」をどう選んだかで大きく変わったはずなんです。

それは、この状況(コロナ禍・リモート化)が、「いつかは元に戻るものと考えるかどうか?」だったように思います。そして僕ら ワヴデザインは「戻らない!」という方向に振り切って、社内のあらゆる仕組みや制度をリモート仕様に「最適化」することを決めました。

リモート仕様への最適化=出社をやめてリモートワークに振り切ってみた  

・愛着のあったオフィスを解約!
 →ランニングコストが劇的に下がった
・出社義務を完全撤廃! 
 →移動のストレスがなくなり、暮らす場所も自由になった

時間的・空間的な自由度が増える

仕事の質も人生の質もBetterに

やってること自体はわりと普通なんですけどね。イメージするのと実行するのとではまるでちがう。「当たり前だと思っていたことからこんなにも自由になれるなんて!」って実感しましたし、逆に自分たちが「いかに常識に縛られていたのか」を思い知る体験でもありました。

さて、この「最適化」をきっかけに、 ワヴデザインは次々と「会社の当たり前」をやめまくっていくことになります。

・だらだら働くのをやめてみた
 →工数管理を徹底的に見直したら働き方が可視化されてメリハリがついた

・募集条件に「居住地」を記載するのをやめてみた
 →人材登用の可能性が広がった

・終身雇用的な発想をやめてみた
 →積極的に転職先を紹介することにした

・副業を「禁止or認める」だけで捉えるのをやめてみた
 →ガンガン奨励することに

・社内教育をやめてみた
 →社外の人を交えて学ぶ「学校」を設立することに

こうやって自ら書きだしてみると、ちょっとどうかしてるように見えますよね……特に最後の「学校を設立」なんて、 最近のワヴデザインを知らない方なら「え?何のこと?」ってなるはずです。詳しくはこれからさらに書いていくことになりますんで、このまま読み進めていただけると嬉しいです。

「オフィスがなかったら社員とのコミュニケーションはどうするの?会議は?来客は?」
「フルリモートで社員を採用してもケアできなくない?」
「出社しなくなったらサボるヤツとか出るんじゃない?」

……なんて具合に、もっともらしい「変えない理由」(僕らにとっては「やめない理由」ですかね)を挙げるのは簡単です。でも、その理由を突破するアイデアや仕組みを見つけた方が断然面白い。コロナ禍こそ「会社の在り方を根本から最適化できるチャンス」だという確信がありました。

それに、別にコロナ禍があろうがなかろうが、不確実性だらけのVUCA時代。会社はもっと柔軟にならなければ生き残れないという想いもありました。だとしたら、2020年に僕らが直面したコロナ禍って、実証実験の場としては理想的じゃないですか。だからこそ「急場しのぎのリモート化」ではなく「本気のリモート改革」を断行した。とも言えますね。


05.曖昧な評価制度をやめて、スキルを見える化して新しい評価制度をつくってみた

「本気のリモートワーク改革」のひとつとして着手したのが評価制度の刷新でした。実は前々から、会社として育成したい=評価したい人材像が不明瞭であることに課題を感じてはいたんですよね。それまでは評価項目の提示や、個々に対する具体的な目標設定もできていなくて、ボードメンバーによる主観と話し合いで評価を決めていました。

「この曖昧な評価制度をやめるにはどうしたらいいのか?」と、考えていたタイミングでフルリモート化の波が来たため、この波に乗って変えていこうということになったんです。それに、組織としても合理的でオープンな利益の分配の仕組みが必要になっていましたし、「評価制度を刷新することで社員のスキルアップにもつながるのではないか?」という予感がありました。

早速、社員も巻き込みながらトライアルを開始。約1年間の試行錯誤を経て完成したのが現在の評価制度です。ただこのトライアルがなかなか大変でした。

当初は社員一人ひとりの主体性を重視して、自身による目標設定を行い、細かなスキルを可視化し、それをボードメンバー、中間マネジメント層が評価をするスタイルを試しました。しかしこれが社員一人ひとりにとってけっこうな負担になることがわかり、やり方を見直すことに。

いろいろあって、現在はボードメンバーによる目標設定・評価に切り替えて、負担の問題をクリア。さらに、基本給や賞与以外にも、インセンティブ制度を加え、クイックな利益分配の流れも設計。この評価制度自体も任意参加制としました。

WABが求めるスキルセットを表したスキルピラミッド
各スキルで求められる項目
このリストを用いて各メンバーのスキルの棚卸しを実施

評価の仕組みとしては、まず、上記の「スタンス」「ポータブルスキル」「テクニカルスキル」「ナレッジ」を駆使して、各々の得意なこと、苦手なことを大まかに可視化。それをボードメンバーによる目標設定の参考にしつつ、社員それぞれとの認識合わせも進めていきます。

ちなみにこれらの項目は、ワヴデザインが目指す人物像「デザインジェネラリスト※」になるために必要とされるスキルをリストアップしてつくり上げたものです。

詳しい解説はこちらにもあります。

制度としてはまだまだテスト段階ではありますが社内では好評価。社員との目標設定や評価に対する合意形成もスムーズになり、信頼関係もグッと深まったように感じています。

※「デザインジェネラリスト」……ワヴデザインが独自に提唱し、商標登録した人材像。職人的な視点ではなく、より上流からクリエイティブを牽引していく存在です。


06.だらだら働くのをやめて、工数管理を徹底的に見直してみた

デザイン会社という職域的な部分も大きいとは思いますが、僕らの仕事って、ただ出社してデスクに向かっている時間だけが「働いている時間」ではない部分があって、それを否定しづらい面もあるんですよね。

その一方で「仕事」が可視化できず、だらだらしてしまいがちで、なんとなく深夜までオフィスに居残ってたり……なんてことも多々ありました。それでも出社していれば顔も合わせますし、おおよその働きぶりはわかるんですが、リモートだとそうもいかない。

そこで試しに工数管理を徹底してみることにしました。とは言え、特別なツールを導入してはいません。使っているのはGoogleのスプレッドシートのみ。会社の全員に対してオープンにしたかたちで、「いつ、何時間、どの案件に使うか?」という「予定」を記載するだけにしました。

各自で日々の工数を入力することで自己管理にもつながる

どちらかと言えば、クリエイティブな仕事における「余白」の時間をなくすような行為に見えますし、本当にそうなりかねないのでは?と思ったりもしたんですが、これが劇的な変化をもたらしました。

まず、「予定」というところがポイント。「予定」とはつまり、社員それぞれの「仕事に向き合う意思表示」になるんです。それを開示することで、仕事にかける時間=工数に対してめちゃめちゃ解像度が上がる。自ずと求められるクオリティとスピードのバランスを意識的に考えるようにもなる。今まで「余白」としていた曖昧な時間だって、「それが必要だったのか?」「だらだらしているだけだったのか?」が明確になってくる。というわけです。

さらに、情報として可視化されるので、オフィスに一緒にいなくても、社員それぞれが「今、忙しいのか?」「余裕があるのか?」が判断しやすくなります。そうすると、ちょっとした相談や作業のヘルプを頼むための心理的障壁がグッと下がる。新しい案件が来たときのアサインだって組み立てやすくなる。必然的に適正な業務量で仕事が進むようになっていくんです。「ウチでもやってみようかな」って思った人、たぶんいますよね?


07.募集条件に「居住地」を記載するのをやめて、採用活動を広げてみた

工数管理の件もそうですが、それまで当たり前にあったオフィスがなくなると、業務上の慣習やオペレーションがガラッと変わります。その中でも特に「採用活動」には難しさを感じてきた企業の方も多いのではないでしょうか。

しかし、オフィスを手放した時点で頭が完全に切り替わっていた僕らにとってそれは大きな問題ではありませんでした。なぜなら、「この先もずっとリモートで会社は続いていく」→「リモート体制の中で一緒に働いていく仲間を募るなら、募集・選考だってリモートでのコミュケーションを前提にする方が理にかなっている」と、いう流れができていたからです。

だからリモート化以降の採用では、募集要項の条件から「通勤可能な居住地にいるかどうか」を問うニュアンス(実際の書き方はちょっとちがいますが)を撤廃して、面接もOJTもすべてオンラインで進めました。

つまり、「オンラインだと人柄がわからないのでは?」みたいな心配をするのではなくて、その人が「どんなオンラインのコミュニケーションをするのか?」「オンラインでも信頼関係か築ける人材なのか?」を重視するという方向に舵を切ったわけです。

その結果、この小さい会社に対して毎月30〜50人もの応募が来るように。居住地が関東近郊以外での応募が多く、そのほとんどが女性……という劇的な変化が起こりました。つまり、以前は出会えなかったような地域や層にリーチできたということ。現在では実際に遠隔地に住んでいて、本当に1度もリアルで顔を合わせないままガンガン活躍してくれている社員も少なくありません。


08.終身雇用的な発想をやめて、転職先を紹介することにしてみた

ワヴデザインにはまだ定年退職した社員はいませんし、厳密な意味での「終身雇用」と言い切ると語弊はあると思いますが、ここで言う「終身雇用的な発想」とは、「一度会社に入ったら何か問題が起こるか、本人の希望がない以上はずっと会社で働いてもらうこと」を前提とする考え方だと思ってください。

元々、ワヴデザインは、多くのフリーランサーを輩出していて、彼らと共に歩んできたという歴史があったりします。もちろん社内で経験を積み、自分の力で転職していく社員もたくさんいました。

でも、それって結果論でしかなかったんですよね。そこには会社対個人のせめぎ合いも垣間見えたりしますし、会社に対しての後ろめたさみたいなものを抱いてそうな人も中にはいました。何より、辞めた後の関係性が続きにくくなる。会社として年数を重ね、長く働いてくていたメンバーが転職する場面も増える中で、そこにさみしさを感じるようになっていました。

もちろん、長い人生、1つの会社の留まることだけが正解じゃないですし、一緒に働いてきた仲間がクリエイターとして、ビジネスマンとして、前に進もうとするなら「いっそ、会社側が全面的に応援しちゃった方がいいのでは?」と、そんなことを考えた末に辿り着いた結論が見出しの通り、「終身雇用的な発想をやめて、転職先を紹介することにしてみた」でした。

これだけだと「なに言ってんだ?」と思われそうなので詳しく説明していきましょう。ワヴデザインではまず、新入社員が入社する時点で「どういうキャリアフローを歩んでいくか」「どんなデザイナーになっていくか」みたいな話をした上で、「もしも将来、ワヴデザインを辞めるとしたらそれは何年後だろうか?」という話をする場合があります。

もちろん、本当に辞めるかどうかは別ですが、先輩たちの事例なども交えて、独立や転職への明確なイメージを共有しておくんです。すると、いざ「転職しよう」と思ったとき、会社側との意思疎通がスムーズだし、転職や独立もしやすくなりますよね。

会社側が「辞める前に気軽に相談してよ」とオープンな姿勢を見せようとしても、社員側から見たら「結局、留任しようとするんでしょ?」って感じてしまうはずなんです。そうなると腹を割った「相談」なんてできないじゃないですか。だから、転職先選びやキャリアチェンジ実現に向けたスキルアップ、ポートフォリオづくりなど、具体的なサポートを明確に示して、相談しやすい状況をつくっています。

ただこれは、大前提として「会社を辞めて欲しい」ということではなくて、「自分自身の未来に現実的に向き合って、意識的にキャリアを積んで、スキルを磨いて、成長していって欲しい」という願いを込めた取り組みであることを補足しておきたいです。

さらに今、ワヴデザインでは、その社員の希望にフィットする転職先を探して人材紹介の仲介にも取り組み始めています。因みにワヴデザインは厚生労働省の「有料職業紹介事業」を取得しているので、仮に仲介料を受け取ったとしてもコンプライアンス的に問題はありません。

「自社で育ててきた人的資産をみすみす流出させる行為なのでは?」と思った方、それはちょっとちがいます。考えてみてください。一般的な転職コンサルタントって、求職者とのコミュニケーション量が決して多いとは言えませんよね。ましてやデザインやクリエイティブの世界に明るくて、適正な転職先を提案できるコンサルはほんの一握りしかいないのが実情でしょう。

でも、数年間同じ会社で一緒に働いてきた仲間だったら、本人がやりたいことも、できることも深く理解している。自社で育てた人的資産の価値を最大化する転職の仲介ができれば、本人にとっても、僕らにとっても、紹介先にとっても得しかない、「三方良し」な取り組みになるというわけです。

因みに、この「やめてみた」は、まだ実験段階。今後、本格的な制度化に向けてトライしていこうとしています。いずれにせよ、「会社を辞めること」に対するネガティブでクローズになりがちな気持ちをポジティブでオープンな状態に変えていくことで、組織やキャリアを超えた未来あるつながりがもっと広がっていったら……と思っています。


09.「副業は自由」というスタンスをやめて、思いっきり奨励してみた

現状、「副業禁止」という会社はまだまだたくさんありますよね。その理由はさまざまでしょうが、そこには雇用している社員を「本業」に集中させたいという企業側の都合があるのかなと思います。

ワヴデザインは職種としてデザイナーが多い会社ということもあって、個人で仕事を受けている社員も多くいて、会社としては「禁止はしないし自由やってOKだよ」くらいのスタンスを取っていました。

ただ、一連の「やめてみた」の流れの中で培われた視点で見ると、ここにもやめてみるべき「当たり前」が潜んでいると気がつきました。それは、会社が「副業」に対して取るスタンスが「禁止する or 認める」しかない……ということ。

「社外から仕事の依頼が来る」ということは、その社員がそれだけ魅力的だとも言えますよね。それに社内の仕事だけでは得られない経験や知見も身につきますし、なにより、このVUCA時代に収入源を複数持つことは社会的な流れとしても奨励されるべきだと言えます。

こうした考え方から、ワヴデザインは「副業は思いっきり奨励しよう!」というスタンスに路線変更しました。ただ「奨励するよ!」と言うだけではなく、会社に対してのご依頼の中で、諸事情あってお請けできなかったものを積極的に個人に紹介したり(NDA等はクリアした上で)、個人が引き受けた仕事を社内の先輩がレビューしたり、実際に社員が手がけた副業案件を社内でシェアしたり、税理士を招いて個人の節税対策の勉強会をしたり、具体的なバックアップをすることにしたんです。

中には同業界の仕事だけでなく、クラフトビールや、アパレルブランド、コーヒースタンドなどの仕事をする社員も現れ、そのままその道のプロになったケースも。一社で働いて得られる経験、得られる収入の枠を自ら飛び越えて、人生の幅を広げるフォローもしていきたいと思っています。


10.社内教育をやめて、オープンな「学校」をつくってみた

さて、かなり前の章で軽くご紹介していた「学校」の話をしていこうと思います。詳しい経緯などについてはこちらの記事にまとまっていますが、この記事では、今回の<「会社の当たり前」をやめてみた」>の文脈で語っていきたいと思います。

ワヴデザインではコロナ禍以降のフルリモート体制の中で「言語化の重要性」を感じる場面が増えていました。

「そのデザインの何が良くて、何が悪いのか。どこを活かして、どこを直すのか」

オンラインだからこそ、それをロジカルに捉え、メソッドとしてしっかり伝えていくと、社員の成長速度が目に見えて上がっていく。一方で、誰かに何かを教えようとするとき、自分に足らない考え方も見えてきたりする。それを補完しようとすることで、教える側も飛躍的に成長していくんです。そういう視点で捉えれば教育手法だとも言えますね。

「どんなハードモードの案件をこなすより、デザインのメソッドをより言語化して教える方が効率的に成長できる」
オンラインでは(限らないと思いますが)言語化・メソッド化を中心に進めるスタンスが良さそうとなりました。でも、「社内教育に磨きがかかりました」で終わらないのがワヴデザイン。「教える」のクオリティを高めるために、「教える」を通じて得られる成長を最大化するために、もっといいやり方はないだろうか……と考えた結論が、「社内教育という閉じたやり方をやめて外部にも開いていこう」という発想、つまりは「Wab Design School」の開校でした。

学校を開き、社外からも人が集まるということは、教える側の言語化・メソッド化はより高度なものが求められます。また、社外からの視点や知見にも触れる機会もますます増えていくでしょう。

これは、職人的・スペシャリスト的になりがちだったデザイナーを、より上流のクリエイティブが牽引できる「デザインジェネラリスト」へと導いていくきっかけにもなります。

ワヴデザインの経営陣は2000年代、何にもない状態からWEBデザイン、デジタルクリエイティブの世界を暗中模索で進んできた世代の人間がほとんどです。また、それ以前の時代から業界には「デザインは見て盗め」みたいな職人的な思考が根強くあったのも事実です。

「明確なメソッドがない=センスと努力でなんとかする」という慣習を「当たり前」だと捉えないで、新しい技術や知見の伝承のかたちをデザインしなおす。そうしたらデザインは産業としてもっと強くなれるし、そこに従事する僕らデザイナーの社会的地位だって向上する……なんて、ちょっと大きなことを言ってしまっているかもしれませんが、それこそワヴデザインが、この先数年で少しでも変えられたらいいなと思っています。


11.「We Are Better」は終わらない

そんなわけで、やめて、やめて、やめていった結果、新規事業「Wab Design School」を立ち上げるに至った……というところとまでを一気に書き上げてみましたが、いかがでしたか?

こういう文章を「いかがでしたか?」で締めくくるスタイルは多いですが、そう書きたくなる気持ちが少しわかった気がします。今回は特に「ワヴデザインの本性」みたいな部分をさらけ出しているので、ここまで読んでくださったみなさんの感想が聞いてみたい気持ちになっています(コメントお待ちしています)。

いずれにしても、僕らとしては、今、こうして記事にしてみて良かったと感じています。「この数年間、自分たちが取り組んできたことってなんだったのか?」が改めて言語化された。その結果として、見えてきたことがたくさんありました。

結論から言えば、僕らはずっと変わっていなかった。変わっていないから、変わり続けてここまでこれたんだ。そんなことを感じています。

2012年の「11ヶ月働き1ヶ月休む会社」プロジェクトから、一連の<「会社の当たり前」をやめてみた」>に至るまで、やってきたことは一緒なんです。

それは「WAB」の由来でもある「We Are Better」の実践。

どの「やめてみた」も共通して、「リモートになって不便だから、その不便を改善しよう。補完しよう」ではなく「リモート化を前提に、あるいはきっかけにして、もっと良くしよう、面白くできないか」の繰り返しだったんです。

そんなわけで、今回の記事はひとまずここまで。長文にお付き合いいただきありがとうございました。さて、次は何をやめてみようかな……なんて思ったりしています。


取材・編集・構成:森田哲生株式会社Rockaku


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