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青嶺都市|都会と自然が交わる香港

香港といえば、林立する都会のビル群を思い浮かべるでしょうか?実は、香港には24の郊野公園と14の自然特別区があり、その合計面積は香港全体の40%以上を占めます。表紙の写真も、実は香港なのです。今ではトレイルに年間1,200万人以上の方が訪れるといいます。今回は、香港の自然の魅力について、ご紹介します。

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1.香港の自然の魅力

ここでは、自然の魅力を大きく3つ挙げたいと思います。

①都市から圧倒的に近い:バスやタクシーで駅から10分で着く場所もザラにある。そのため、朝から登って、ランチまでに街に戻れたりする。コースの途中に美味しい地元の店も多い。早めに終わったら、午後は別の予定を入れられる。水や食べ物の携帯も最小限で良い。この便利さは日本では考えられない。
②登山道がよく整備されている:舗装されている場所も多く、難所も少ないので、初心者でも安心。道標もあって迷いにくい。大げさな登山装備も不要。
③多様な景観と生きものが楽しめる:ビル群や港湾などの人工物を見下ろしたり、森林・湖・砂浜などの多様な景観を楽しんだりできる。亜熱帯の多様な野鳥や植物を楽しむこともできる。これらは日本では見られないものも多い。

便利・安心・自然と3本揃っていて、とてもお得だと思いませんか?
次は、自然の名所を紹介したいと思います。

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2.香港の自然名所6スポット

書籍「香港アルプス」を参考にすると、ハイキングの観点から、自然名所を大きく6つに分けることができます。

・ビクトリアピーク
・香港四大トレイル
・独立トレイル
・離島
・香港ジオパーク
・香港湿地公園

わかりやすい全体の地図がありましたので、一部加筆の上、引用します。6つの名所をそれぞれ、簡単にご紹介したいと思います。

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①ビクトリアピーク

100万ドルの夜景で有名なビクトリアピーク。ピークトラムで行くことができますが、山頂駅の標高は396mなのに対し、ピーク(山頂)は552mらしいです。歩いて山頂付近(山頂公園)にも行けるので、時間のある方はぜひ!

周辺には、香港動植物公園、西高山、龍虎山、盧吉道など、名所がたくさんあるので、そちらも回っていただきたいところ。

なお、ピークには漢字の名称もありますが、色々な名称があるようです。書籍「香港アルプス」によると、かつて漁民に硬頭山と呼ばれていました。ところが18世紀末より海賊が出没するように。清朝政府が海賊を降伏させたことから、漁民はこれで天下太平になると喜び、太平山に改名したとされます。

海賊が仲間に旗で信号を送っていたため、旗を掲げるという意味で、扯旗山とも呼ばれるようです。上の地図ではこれが使われていますね。

他のいわれとしては、現在の銅鑼灣にあった天后廟の浜に赤い香爐(香炉)が流れ着きましたが、村民は霊験あらたかなものとして廟に安置して祀ったそうです。廟の前の港は、紅香爐港と名付けられ、これが後に短縮され、香港島全体の名称となりました。ここから、ピークは、爐峰と呼ばれるようになったとか。

英語名称も良いですが「どのような漢字名称か」も確認すると、歴史・文化がわかって面白いと思います。山で見かける看板には、両方の名称が書いてありますので、ぜひ見比べてみてください。

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②香港四大トレイル

香港に豊かな自然が残っているのは、イギリス統治時代より、自然環境の保護に力を入れてきた結果とも言われます。25代総督マレー・マクリホース(Lord Murray MacLehose)は、大のハイキング好きだったこともあり、郊野公園を繋ぐ100kmに渡るロングトレイルを作ることにしました。

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図 総督マレー・マクリホース(←回顧記事より引用)

1979年、自身の名前を冠したマクリホース・トレイルが完成しました。背景には、反英デモに対する若者のエネルギーのはけ口として、レクリエーションの場を作るという政治的な目的もあったとされます。

結果としてこのトレイルが大変な人気を博し、1984年にランタオ・トレイル(70km)、1985年にはホンコン・トレイル(50km)、1996年にウィルソン・トレイル(78km)が整備されました。

各トレイルは約5~15km毎にセクションやステージで区切られています。また、500m毎にDistance Postという道標があり、その番号と地図を合わせれば、自分の位置を確認できます。トレイル毎にデザインは異なりますが、マクリホース・トレイルだとこんな感じ↓

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図 Distance post(←香港政府サイトより引用)

結構おしゃれですよね。では、各トレイルを簡単に紹介します。

マクリホース・トレイル(麥理浩徑):ステージ1・2は海と山が織りなす香港で最も美しい景観が続く。3・4は西貢半島の山深い一帯を抜け、5・6でかつての啓徳空港を見下ろす九龍市街地の裏山へ抜ける。7・8で最高峰大帽山を越え、9・10で緑深い森の中へ入る。毎年11月に100kmを歩き通すTrailwalkerというイベントが開催され、大変人気。

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香港山誌より引用

ランタオ・トレイル(鳳凰徑):12セクション。梅窩から始まり梅窩で終わる周回コース、行きは山の中、帰りは海沿いと全く異なる景観が楽しめる。ステージ3で第2高峰のランタオ・ピーク(鳳凰山)を通過する。

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香港山誌より引用

ホンコン・トレイル(港島徑):8セクション。ピークトラムの山頂駅からスタートして、東部へ香港島を横断する。比較的平坦で入門には最適。

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香港山誌より引用

ウィルソン・トレイル(衛奕信徑):10セクション。香港島の南部を起点に、地下鉄で海を越えて、九龍半島の北まで、香港を南北に貫くコース。セクション9の高低差が大きい八仙嶺へ続く山と海の壮大な景色が広がる稜線歩きが人気。

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香港山誌より引用

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③独立トレイル

四大トレイルには該当しない、ちょっとマニアックなコースですが、全て制覇した通な方にオススメのコースです。

・茘枝窩:租借時代にあってもイギリスはここまで植民地化を進めなかった。300年の歴史を持つ客家の村が古いまま残っている。森と集落を歩くコース、10km。
船灣淡水湖:1950年代後半、中国からの急激な難民の流入で水不足が深刻化、天然の湾をダムで結び、巨大な貯水池を作る構想が浮かび上がった。1967年に1.8億m3の淡水湖が完成、1973年には2.3億m3に。淡水湖を回るコース、18km。

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香港山誌より引用

シャープ・ピーク(蚺蛇尖):標高468mながら日本の槍ヶ岳を思わせる風貌。マクリホース・トレイルのステージ2から近い。

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香港山誌より引用

ハイ・ジャンク・ピーク(釣魚翁):別名とんがり山。ゴルフ場、海水浴場、巨大住宅街を見下ろせる。6.6km。

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香港山誌より引用

梧桐寨瀑布:香港の最高峰、大帽山の北に位置する、4つの滝が連続する沢。30kmの大滝が含まれる。

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香港山誌より引用

ナイフ・エッジ(大刀屻):標高566m。英語名の由来は、大刀の刃のような稜線より。稜線歩きが楽しめる。

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香港山誌より引用

黄龍石澗:ランタオ島北部の谷で、5つの石澗(谷筋)から構成される。沢登りも楽しめる。

④離島

香港島の大都会から30分前後で、なんと離島にも行くことができます。大小多くの島がありますが、ここでは2つご紹介します。

ラマ島(南丫島):香港で3番目に大きく、南国の情緒溢れる島。自動車と4階建以上の建物は禁止。なお、丫はアルファベットのYでなく、ふたまたを意味する漢字!島の形から丫が使われるようになったとか。

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香港山誌より引用

蒲台島:奇岩が多い最南端の島。島に1軒しかない海鮮食堂も魅力。

⑤香港ジオパーク

大きくは東北部堆積岩地域と西貢火山岩地域の2地域(合計50km2)に分けられます。 西貢火山岩地域には、香港ジオパークのシンボル、六角柱状節理を広範囲で見ることができます。トレイルだけでなく、ボートツアーでも見学できます。ボートのコースは2つあります。

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香港山誌より引用

2016年、Lonely Planetで「Asia’s best destinations」の1つに選ばれるなど、注目を集めています。

糸魚川ジオパークとは、姉妹ジオパークとなっており、学術研究や教育活動において、色々な連携がされています。

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⑥香港湿地公園

深圳との間に広がる湿地帯です。1970年代まで侵入禁止地帯として長らく放置されてきたおかげで、開発の手は伸びなかったとされます。現在は、渡り鳥の絶好の経由地となっています。

1995年には、1,500haがラムサール条約の重要湿地帯に指定されました。しかし、先立って1992年より周囲でニュー・タウン開発が始まっており、脅威にさらされていました。そこで、香港政府は、自然の緩衝帯として2005年に特別地区に指定、環境学習やエコツーリズムの場となりました。2006年より、公園としてオープンしています。

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香港山誌より引用

香港湿地公園と接する、米埔自然保護理区は、ラムサール条約で侵入制限地域に指定されていて、入場許可が必要となっています。マングローブ林や葦原が周囲に広がり、340種類以上の鳥を惹きつけているとされます。(4分の3は渡り鳥)

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3.さいごに - 香港の自然への誘い(いざない)

上で紹介した名所で香港の自然の全てが網羅できているわけではありません。それほど、香港の自然名所は数が多く魅力的です。私も全て回れたわけではありませんが、今後、それぞれの名所の記事も書ければと思います。随時リンクを貼って更新の予定です。

新型肺炎が落ち着いたら、都市だけではない、香港の別の顔=自然をぜひ、楽しみに観光に来てみてください!

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P.S. その1 表紙は、シャープ・ピーク(蚺蛇尖)の頂上から撮った写真です。いくつもの入江があって美しい景観です。ここが香港だとパッと見で気づかないですよね。

私が駐在中に回った名所の中では、ベスト3は以下の通り。
 1位:マクリホース・トレイル(麥理浩徑)
 2位:シャープ・ピーク(蚺蛇尖)

 3位:八仙嶺

ウィルソン・トレイル(衛奕信徑)は完走できなかったのですが、八仙嶺だけは、行くことができました。
P.S. その2 都市と自然が近い香港をうまく表現できないか、と考えました。造語ですが「青嶺都市」と名付けてみました。

青嶺(あおね):元気良く草木が生い茂る、夏の山の様子を表す季語。「夏山」、「夏嶺」と置き換えることもできる。

 青嶺あり青嶺をめざす道があり - 大串 章

香港の青い山を青嶺で表現し、後ろに都市をつけてみました。表紙のように、青い山と海はセットですね。音読みをして、「青嶺都市|せいれいとし」と読むとそれっぽいかも。

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▼参考文献

↑写真の整理が終わっていなかったので、このサイトから一部写真を引用しました。今後、入れ替えられる写真は、自分で撮影したものに適宜変えていきたいと思います。

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