Keiko 吟遊翻訳家

【海外詩(スペイン語多)の日本語翻訳と紹介をしています。】好きなもの 季節:秋 詩人:…

Keiko 吟遊翻訳家

【海外詩(スペイン語多)の日本語翻訳と紹介をしています。】好きなもの 季節:秋 詩人:パブロ・ネルーダ・谷川俊太郎 翻訳家:堀口大学 画家:ルソー・マティス・ロスコ・田中一村・浜口陽三 写真家:アンリ・C=ブレッソン 建築家:ルイス・バラガン 飲み物:珈琲 国:メキシコ・日本

最近の記事

No.13 "Mañana, Soneto XXVII" 朝 ソネット XXVII : パブロ・ネルーダ

朝, ソネット XXVII パブロ・ネルーダ あなたのはだかは あなたの手のように素朴だ なめらかで 地球的で 無駄がなく 丸みを帯び 透明 月の曲線と林檎の小道 はだかのあなたは手つかずの小麦のようにほっそりしている あなたのはだかは キューバの夜のように青い 蔓草(つるくさ)を這わせ 髪には星が輝いている あなたのはだかは途方もなく そして 大地の色をしている 金でできた教会の夏のように あなたのはだかは あなたの爪のひとつのように小さい 湾曲し 繊細で 薔薇色

    • No.12 "El amenazado"-怯える男 : ホルヘ・L・ボルヘス

      怯える男 ホルヘ・L・ボルヘス それは愛。私が身を隠さなければ、あるいは逃げなければならないもの。 残酷な夢の中のように愛の牢壁が育つ。美しい仮面は 変貌してしまった。でもそれだけに心惹かれるのは変わらない。私の 護符たちは何の役に立つのか? 文字の練習、曖昧で広い知識 、荒れた北部 の人々が海や剣について謳うための言語の学習、穏やかな友情、 図書館の展示室、ありふれた品々、習慣、 母の若い愛、死者の軍隊の影、時空を 超えた夜、夢の味は? あなたと居る時間か、あなたと

      • No.11 "Daybreak" - 夜が明ける : バート・メイヤーズ

        夜が明ける バート・メイヤーズ 鳥たちが木々からぽたぽたと滴(したた)る 月はあの丘の上の 小さな山羊だ そのミルクのように蒼い夜明けは 空のブリキの桶を満たす 空気はひどく冷たく ガソリンスタンドが 氷のキューブの中で煌めいている 水が流れているときには 道路はパイプのようにフンフンと鼻歌をうたう 街灯はその露(つゆ)を消す 陽は屋根をつたい降り 家の傍で立ち止まると 長い燐寸(マッチ)を壁に打ち付け 真鍮の鍵束を取り出して 扉という扉全てを開ける "Daybreak

        • No.10 "be careful"- 注意深く : エド・ロバーソン

          注意深く エド・ロバーソン わたしは注意深くなければならない これらのものに。 木目の薄い楢。雪の中で絶え間なく間を詰めて追ってくる 足跡に怯えて丘に逃げ込んだおとなしい ハイイログマたち。冬の湖の罠にかかった 硬さ。    鹿 また 鹿 氷に目を押し付け見上げている 魚の背骨の上を横切る。眠っている。崩れ落ちていくか細い蛇口の音が 聞こえる極度の静寂の中にいる 熊のように。わたしは注意深くなければならない あまりに野生の高揚感でなにも揺るがさないように。瓶に 詰めてしま

        No.13 "Mañana, Soneto XXVII" 朝 ソネット XXVII : パブロ・ネルーダ

          No.9 "i carry your heart with me(i carry it in...“- ぼくはきみの心と一緒に暮らしている(ぼくの...” : E.E.カミングス

          ぼくはきみの心と一緒に暮らしている(ぼくの... E.E.カミングス ぼくはきみの心と一緒に暮らしている(ぼくの 心の中でね)これなしじゃだめなんだ(どこでも ぼくが行くところへはきみも行く、ねえ、そしてぼくだけでやる ようなことはどんなこともきみもやっているんだよ、愛する人)      ぼくは怖 くない運命なんか(きみがぼくの運命だよ、かわいい人)ぼくは欲し

          No.9 "i carry your heart with me(i carry it in...“- ぼくはきみの心と一緒に暮らしている(ぼくの...” : E.E.カミングス

          No.8 "Puedo escribir los versos..." - 今夜私は書くことができる... : パブロ・ネルーダ

          XX 今夜私は書くことができる... パブロ・ネルーダ 今夜私は最も悲しい詩(うた)を書くことができる 書く…例えばこう “この夜は砕け散り、震え、青ざめ、星々は、彼方に” 夜風は天を駆け そして歌う 今夜私は最も悲しい詩を書くことができる 私は彼女を愛した 彼女もまた時に私を愛した ちょうどこんな夜には 彼女をこの胸に抱いた 果てしない空の下で何度も彼女に口づけをした 彼女は私を愛した 私もまた時に彼女を愛していた 愛さないはずがない 見つめるあの大きな瞳を

          No.8 "Puedo escribir los versos..." - 今夜私は書くことができる... : パブロ・ネルーダ

          No.7 "Oda al gato"-猫へのオード : パブロ・ネルーダ

          【翻訳メモ】 この詩を知って訳さないのは重度の猫好き、Cat Lover の名折れ..! そういって手を出してしまいましたが、隠喩を多用するオード(頌歌。説明はNo.5 "Oda al mar"の【翻訳メモ】にて) の翻訳は私にとっては非常に難しく、途中何度も投げ出しそうになりました。 この詩はネルーダの唱える”動物の中で猫だけ完全形で発生説”で始まります。正直言うと、「ちょっとそれは、言いすぎでは?過剰に詩的な表現はいただけない。猫好きを装っているのでは…?」と妙に警戒し

          No.7 "Oda al gato"-猫へのオード : パブロ・ネルーダ

          No.6 “Fábula de la sirena y los borrachos”-人魚と酔っぱらい達の寓話 : パブロ・ネルーダ

          人魚と酔っぱらい達の寓話 パブロ・ネルーダ その男たちはみんな中にいた 彼女が何も纏わぬ裸で入ってきたときに しこたま呑んでいた奴らは彼女に唾を吐き始めた 河から上がったばかりで何も知らない 彼女は迷子の人魚だった 下品な野次は滑らかな肉体を撫でまわし 汚物は黄金の乳房を覆った 彼女は泣くことを知らなかったから泣かなかった 服を着ることを知らなかったから着ていなかった 奴らは煙草と焼いたコルクで彼女に刺青をいれた そして食堂の床に崩れ落ちるまで笑った 彼女は話すことを知ら

          No.6 “Fábula de la sirena y los borrachos”-人魚と酔っぱらい達の寓話 : パブロ・ネルーダ

          No.5 "Oda al mar"-海へのオード : パブロ・ネルーダ

          【翻訳メモ】 No.0で触れた、映画『イル・ポスティーノ(Il Postino 英題:The Postman)』で引用される詩です。 詩人ネルーダと郵便配達夫マリオは浜辺に居ます。自分の住んでいる島の美しさを認識していないマリオに、ネルーダはこの詩の冒頭を引用して聞かせます。マリオは、言葉のリズムの中に海を感じます。 イタリア語って本当にポルトガル語やスペイン語に似ているんだな、少し聞き取れるな…と語学を少しかじっていた私は、それまでの場面を観ながら思っていました。ネルーダ

          No.5 "Oda al mar"-海へのオード : パブロ・ネルーダ

          No.4 “Me gustas cuando callas…” -黙っているときの君が好きだ…:パブロ・ネルーダ

          【翻訳メモ】 パブロ・ネルーダの詩集“20 poemas de amor y una canción desesperada(20の愛の詩と、1つの絶望の歌)”の15番目の詩です。この詩集自体とても人気がありますが、その中でもこの詩は特に人気のあるもののうちの一つ。 私はこの詩を読むと、村上春樹さん翻訳の“レイモンド・カーヴァ―全集”の付録の小冊子に書かれていた、あるエピソードを思い出します。 村上春樹さんがカーヴァーの生前のパートナー・テス・ギャラガーにカーヴァーの書

          No.4 “Me gustas cuando callas…” -黙っているときの君が好きだ…:パブロ・ネルーダ

          No.3 "Si tu me olvidas"- あなたが私を忘れるなら : パブロ・ネルーダ

          【翻訳メモ】 No.0の記事で触れた、薄い小さな詩集に載っている10編のうちの1つです。 CDでは歌手のマドンナが朗読しています(英題”If you forget me”)。 彼女の声と詩がこれ以上ないほどマッチしていて、CDの中でも白眉の作品と言えそうです。 ネルーダの”Los versos del capitán"(船長の詩) という詩集で発表されており、 男性から女性への詩として書かれていますが、今回の日本語訳ではマドンナの朗読のイメージで、女性的な語り口で訳しました

          No.3 "Si tu me olvidas"- あなたが私を忘れるなら : パブロ・ネルーダ

          No.2 ”La Poesía"- 詩 : パブロ・ネルーダ

          【翻訳メモ】 ある少年に訪れた瑞々しいひととき。 今日も、いまこの瞬間にも、あまたの少年少女たち(いや、齢は関係ないか)が自分だけのビッグバンを世界のどこかで感じているのでしょうか。 彼の中ではビッグバンにも等しい大爆発が起きていたにも関わらず 外の世界では木の葉一枚揺れなかったのかもしれません。 あるいは逆に、耐えられないような喧噪の中で、自分と世界がつながっていることを初めて感じたのかもしれません。 彼らがそのひとときを迎える環境が、できるだけ安全で、穏やかであるこ

          No.2 ”La Poesía"- 詩 : パブロ・ネルーダ

          No.1 ”One Art” - ある技術 : エリザベス・ビショップ

          ある技術 エリザベス・ビショップ 失う技術を学ぶのは難しいことじゃない こんなにも沢山のものたちが しきりに失くされたがっているみたいだし そういうものを失くすのは たいして辛いことじゃない 毎日何かを失くしてみる 玄関の鍵を失くしたり 無為に時間を過ごしてみたり そんなときの苛々を受け流してみる 失う技術を学ぶのは難しいことじゃない それからもっと深く もっと速く失う練習をする 旅するつもりだった場所やその名前とか どちらも 全然たいしたことじゃない あたしは母の

          No.1 ”One Art” - ある技術 : エリザベス・ビショップ

          No.0 海外詩の日本語訳、始めました。 

          日本語訳を始めるまでのこと 20数年前から、私の手元に薄くて小さな詩集があります。 詩集にはパブロ・ネルーダ(Pablo Neruda)というチリの詩人の詩が10編、原語のスペイン語と、英語の対訳で載っています。 『イル・ポスティーノ(Il Postino 英題:The Postman)』というイタリアの映画を配給していたMiramaxという会社が、プロモーションのために作ったものです。私はその映画を映画館に観に行って、パンフレットを買わずにその詩集を買いました。後になって

          No.0 海外詩の日本語訳、始めました。