No.7 "Oda al gato"-猫へのオード : パブロ・ネルーダ

【翻訳メモ】
この詩を知って訳さないのは重度の猫好き、Cat Lover の名折れ..!
そういって手を出してしまいましたが、隠喩を多用するオード(頌歌。説明はNo.5 "Oda al mar"の【翻訳メモ】にて) の翻訳は私にとっては非常に難しく、途中何度も投げ出しそうになりました。

隠喩
比喩法の一。「…のようだ」「…のごとし」などの形を用いず、そのものの特徴を直接他のものでする表現する方法。暗喩。隠喩法。メタファー。

goo辞書

この詩はネルーダの唱える”動物の中で猫だけ完全形で発生説”で始まります。正直言うと、「ちょっとそれは、言いすぎでは?過剰に詩的な表現はいただけない。猫好きを装っているのでは…?」と妙に警戒している私がいました。ありとあらゆるものにオードを捧げているネルーダなので、どれか一つくらいは数合わせで詩を作っているかもしれない。それが、この詩だったら猫好きとして大変遺憾である!

しかし、一語一語訳を進めるにつれ、ネルーダの猫好きが本物であり、その度合いがかなりのものであり同志である、という確信と、共感に次ぐ共感が襲ってきて、最後まで訳さずにはいられなくなりました。最終的には”猫だけ完全形で発生説”に対しても、同病相憐れむ…という気持ちになっていました。普段、猫好き同士は、猫のどこが素晴らしいか、なんて話はしません。だって、どうしようもなく愛しいんだもの。そんなの、当たり前のことなんだもの。ネルーダはこの詩で、普段猫好きが一人ひとり無意識に思っていることを、言葉にしてしまいました。猫と周りの人間たちの微妙な関係も。すごいなあ、詩人って。

隠喩について、細心の注意を払って訳したつもりですが、とんでもない勘違いをして言葉を選んでしまった可能性もあります。しかし、猫好きの感覚からは外れていないと自負していますので、今回はネルーダと、とある猫好きのコラボ作品としてお楽しみいただければと思います。

この訳詩を、Cat Lover のあなたと、ビロードの柔らかさと小さなぬくもりと静かな愛嬌と、気まぐれな愛情を与えてくれた、今はもういない私の三匹の猫たちに捧げます。

猫へのオード

パブロ・ネルーダ

動物はみな
不完全だった
長い尻尾に 残念な
おつむ
少しずつ
身形を整え
風景に溶け込み
斑点模様や 優雅さや 飛行を身に付けた
猫は
猫だけは
完璧な姿で現れて
しかも誇り高かったのだ
完全に仕上がって生まれ
自立し 己れを知っていた

人間は魚や鳥になりたがる
蛇は羽根を切望する
犬は方向音痴のライオンに
技術者は詩人になりたくて
蠅は燕になるために学をつけ
詩人は蠅の真似をする
でも猫は
猫だけはただ猫でありたい
全て猫は猫
髭の先から尻尾の先まで
生きた鼠との邂逅から
夜から 彼らの金の瞳まで

彼のような
存在は他にない
月も花も
あんなふうに
作り上げられてはいない
唯一無二
太陽や黄玉のように
しなやかな輪郭線
確かで繊細なのはまるで
船の舳先の曲線
彼らの黄色い目は
唯一残す
微細な切れ目を
夜の銀貨を撒き散らすために

小さな
宝玉を持たない皇帝よ
国を持たない征服者よ
婚礼の間のちっちゃな虎
艶かしい屋根の
空のスルタン
横をすり抜けるとき
お前は求める
野を駆ける
愛の風を
繊細な四本の脚を
そっと床に置くとき
においをかぎ
不信を向ける
地上のものすべてに
なぜならそれらは不浄だから
猫の穢れることなき脚にとっては

家に居るのに
誰にも依存せず獰猛で傲慢
夜の名残り
怠け者の体操選手
そして余所者
深淵を知りすぎるている猫
隣近所の
秘密警察
行方不明のベルベットの
バッジ
謎が
無いことは確かだ
お前の振る舞いには
多分お前は謎めいてもいない
誰もがお前を知っていて
最も謎めいていない者に飼われている
きっと皆が信じている
自分が主人だと皆が信じている
飼い主 猫の
おじ お目付役
同輩
弟子あるいは友人
あの猫の

私は違う
私は否定する
私は猫をよく知らない
そのほかの物は知っている 人生や その群島
海や数えきれない街
植物の生態について
過ちを犯した雌蕊(めしべ)
数学のプラスとマイナス
世界中の火山ファンネル
非現実的な鰐の皮
消防士の黙殺された善意
司祭の青い原始回帰
しかし私は一匹の猫を解読できない
私の理性は彼の無関心を前に空回りするが
彼の目には金の数字が輝いている

Oda al gato
Escrita por Pablo Neruda
Traducida en japonpés por Keiko
©Todos los derechos de la traducción reservados


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