見出し画像

No.5 "Oda al mar"-海へのオード : パブロ・ネルーダ

【翻訳メモ】

No.0で触れた、映画『イル・ポスティーノ(Il Postino 英題:The Postman)』で引用される詩です。
詩人ネルーダと郵便配達夫マリオは浜辺に居ます。自分の住んでいる島の美しさを認識していないマリオに、ネルーダはこの詩の冒頭を引用して聞かせます。マリオは、言葉のリズムの中に海を感じます。
イタリア語って本当にポルトガル語やスペイン語に似ているんだな、少し聞き取れるな…と語学を少しかじっていた私は、それまでの場面を観ながら思っていました。ネルーダ役の名優フィリップ・ノワレのイタリア語でのこの詩の引用部分は特にスペイン語に似ていて、字幕をみれば自分がほとんどの部分を聞き取れていることがわかりました。
私も、生まれて初めて、外国語の詩の”音”と”リズム”と”イメージ”を全身で感じ取ることができた気がしました。

オード(頌歌)という形式の長い詩です。今回訳したのは、MIRAMAXのCDでレイフ・ファインズが朗読しているのと同じ部分で、詩の冒頭の一部のみですが、この詩のエッセンスが最も詰まっている個所だと思います。

映画の字幕でも美しく訳されていますし、この有名な詩を翻訳するのは勇気のいることではありますが…大好きな詩の一語一語を味わいながら訳しているのは、至福の時間です。

オード 
崇高な主題をを、多く人や事物などに呼びかける形式で歌う、自由形式の抒情詩。頌歌(しょうか)。頌賦(しょうふ)。

【デジタル大辞泉 小学館】

ちょっとした試みとして、私の訳の後に、原語スペイン語で同じ部分を引用しておきます。
・ほとんどローマ字読み
・文字の上にアクセント記号がある単語以外は最後から2番目の母音にアクセント
・hは発音しない(後に続く母音のみ発音する)
・llとyはジャ行とヤ行の間の音。好みでどちらかに寄せてもよい(y 単独は&の意味で、発音はイの音)
・zは濁らないサ行
… かなり大雑把ですが、これくらいの発音の約束です。興味のある方はスペイン語でどのような音とリズムの詩なのかを、声に出してでも、頭の中でもよいので、再現してみてください。もちろんYoutubeなどでも、スペイン語の朗読が聴けます(パブロ・ネルーダ本人の朗読もあります!)。

また、余談ですが、海はスペイン語では通常男性名詞で、文学的・抽象的につかう場合は女性名詞だったりするようです。ネルーダは海を男性として扱っています。面白い点です。

海へのオード


パブロ・ネルーダ

ここ この島で

また幾つもの海
溢れ出る
絶え間なく
いいと言い、いやと言う
いや、いや、いやと言う
いいと言う、青の中で
泡の中で、疾風の中で
そしていや、いやと言う
お前はじっとしていられない
己は海だと繰り返す
岩に迫る
口説き落とすことができぬまま
そして
七匹の緑の犬の
七匹の緑の虎の
七つの緑の海の
七つの緑の舌で
彼女を愛撫し
彼女に口づけし
彼女を湿らせ
胸を叩きながら
己の名を繰り返す
海 お前の名だ
大洋の同志
無駄にするな 時間も水も
滴を散らすな そんなにも
助けてくれ
俺たちはこんなにもちっぽけな
漁師
岸辺の人間
凍えて腹をすかせている
お前は俺たちの敵
叩きつけるな そんなにも
叫ぶな そんなふうに
お前の緑の容れ物を開け
そして 全てを与えてくれ
この手の中に
銀の恩恵
日々の魚を
...

Oda al mar

Pablo Neruda

Aquí en la isla
el mar
y cuánto mar
se sale de sí mismo
a cada rato,
dice que sí, que no,
que no, que no, que no,
dice que si, en azul,
en espuma, en galope,
dice que no, que no.
No puede estarse quieto,
me llamo mar, repite
pegando en una piedra
sin lograr convencerla,
entonces
con siete lenguas verdes
de siete perros verdes,
de siete tigres verdes,
de siete mares verdes,
la recorre, la besa,
la humedece
y se golpea el pecho
repitiendo su nombre.
Oh mar, así te llamas,
oh camarada océano,
no pierdas tiempo y agua,
no te sacudas tanto,
ayúdanos,
somos los pequeñitos
pescadores,
los hombres de la orilla,
tenemos frío y hambre
eres nuestro enemigo,
no golpees tan fuerte,
no grites de ese modo,
abre tu caja verde
y déjanos a todos
en las manos
tu regalo de plata:
el pez de cada día.

Oda al mar (Extracto)
Escrita por Pablo Neruda
Traducida en japonpés por Keiko
©Todos los derechos de la traducción reservados

この記事が参加している募集

映画館の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?