見出し画像

No.9 "i carry your heart with me(i carry it in...“- ぼくはきみの心と一緒に暮らしている(ぼくの...” : E.E.カミングス

ぼくはきみの心と一緒に暮らしている(ぼくの...

E.E.カミングス

ぼくはきみの心と一緒に暮らしている(ぼくの
心の中でね)これなしじゃだめなんだ(どこでも
ぼくが行くところへはきみも行く、ねえ、そしてぼくだけでやる
ようなことはどんなこともきみもやっているんだよ、愛する人)
                                                            ぼくは怖
くない運命なんか(きみがぼくの運命だよ、かわいい人)ぼくは欲し
くない世界なんか(美しいきみがぼくの世界さ、ぼくの真実)
そして月がいつも語ってきたのは何であれきみのこと
そして太陽がいつも歌うのは何であれきみのことだよ

ここに誰も知らない一番深い秘密がある
(ここに生命という名の木のねっこの根っこ、つぼみの蕾、
そしてそらの空がある; その木は
魂が望むよりも、想いが隠せるよりも高く聳えている)
そしてこれが星々を離れ離れにしている不思議

ぼくはきみの心と暮らしている(ぼくの心の中でね)

"i carry your heart with me(i carry it in...“
Written by E.E. Cummings
Translated into Japanese by Keiko
©All right of the translation reserved

【翻訳メモ】

E.E.カミングス(1894年 – 1962年)は子供の時に詩人になる決意をし、若い頃は文字通り毎日詩作をし、数多く残した詩の中で実験的な手法やスタイルを試しました。文法を壊して自分好みにしてみたり、文字をページ上で絵のように配置してみたり、声に出して初めて意味を成し感情が伝わるように細工したり…

映画『In her shoes』で使われた詩は2つ。No.1でご紹介した“One Art“と、この"i carry your heart with me(i carry it in..."です。この詩は英語圏では古典と位置付けられるほど有名ですから、当然日本語訳もあり、一行目の”i carry your heart with me”は

あなたの心は私とともにある

の訳で通っているようです。映画『In her shoes』でも字幕はこれを使っていたのではないでしょうか(未確認ですが)。日本語としても自然な、納得の訳です。こんなのを見たら私ごときは通常「すみませんでしたぁぁ!」と翻訳から手を引くのですが...
『In her shoes』では、妹から姉へ贈る詩としてキャメロン・ディアスが可憐にこの詩を朗読しています。また、英語圏では母と子の愛をテーマにした絵本に使われているようです。そう言われてみると確かに、どのようにも広くとれる内容です。“あなたの心は私とともにある”という綺麗な日本語がピッタリです。

ただ、『In her shoes』の2つ目の詩だということをど忘れしていて、つい先日初見と思って読んだ私にとって、この詩の印象は、“ふざけるのが好きな若い勉強嫌いの青年が、初めてできた恋人にノートの切れ端に書いて丸めて投げて寄越した詩”…でした。

大切な人と心を通わせて、初めて感じた一体感。いつどこで、何をしていても、その人のことを考えている自分がいる。独りじゃない、というなんだか不思議な、地に足がつかないような、ふわふわした幸せな感覚...正しい言い回しも、ちゃんとした文法も気にせず、ただ感じたままを書いて、ニコニコしながらポイっと投げて寄越した文章。
何度も何度も呼びかけ(my dear, my darling, my sweet, my true)が入るのも、ちょっとしつこくて、なんだか可笑しくて、可愛い。

今回は、その“ふざけるのが好きな若い勉強嫌いの青年”が書いているつもりで訳しました。カミングスは遊び心のある人だのようなので、きっと楽しんでくれるでしょう。
カミングスは詩の中で大文字を使いません。一人称”わたし”は”I”ではなく"i”を使います。なぜでしょうね?面白いです。改行は、この詩に関しては韻を踏むためにちょっと変わったところで改行しているようです。訳では韻は難しくて踏めていませんが、文の中で改行する場所は、できるだけ合わせるよう努力しました(スマートフォンで読んでおられる方は、行がガタガタになってしまっているかも…読みにくくてすみません)。

”One Art”に続き、私がご紹介する英語詩の2つ目が同じ映画『In her shoes』で使われている詩になったのは、奇妙な事ですが偶然です。
今まで訳した詩が重い感じのものが多かった気がしたので、何かほっこりする幸せな気持ちになれる詩を訳したくて...ランダムに本やネットで探して選んだ詩でした。先述したように、ど忘れしていたんですよね、2つ目の詩は…映画を最後に観たのは5年以上は前だったと思いますし、見終わった直後は”One Art”のことしか頭になく…同じ映画で使っていた詩だと訳し終わった後に気づいて、自分でも驚きました。アメリカの詩人によって書かれたという共通点はありますが…『In her shoes』の原作者と私の嗜好が似通っているのでしょうか。不思議です。

カバー画像は、メキシコの工芸品”生命の木”のイラストです。メキシコとご縁のあった私にとっては、”生命の木”というとこれが真っ先に頭に浮かびます。この詩に”a tree called life-生命の木”が出てきて驚いたのですが、よく考えたらメキシコのこの工芸品のルーツは旧約聖書のエデンの園の中央にある知恵の実がなる木で、スペインから来たConquistadores(征服者たち)がキリスト教を布教させたことから始まっています。また、カミングスはキリスト教系聖職者となった父親の影響を強く受けていて、詩の中にもその影響はよく表れます。メキシコの”生命の木”の造形は独自の変化をしましたが、結局はやはりカミングスが詩の中で言及しているのと同じもののことだったというわけです。
メキシコの”生命の木”のカラフルで素朴で、しかも現実の生活の具体的なイメージを使っているところが私の訳詩に合っているなと思い、今回はこのイラストをカバー画像にしました。

短い詩なので、原語の全文を載せておきます。あなたは、誰から誰への言葉として、どんなふうに訳したくなるでしょうか。

i carry your heart with me(i carry it in
my heart)i am never without it(anywhere
i go you go,my dear;and whatever is done
by only me is your doing,my darling)

                                                      i fear
no fate(for you are my fate,my sweet)i want
no world(for beautiful you are my world,my true)
and it’s you are whatever a moon has always meant
and whatever a sun will always sing is you

here is the deepest secret nobody knows
(here is the root of the root and the bud of the bud
and the sky of the sky of a tree called life;which grows
higher than soul can hope or mind can hide)
and this is the wonder that's keeping the stars apart

i carry your heart(i carry it in my heart)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?