見出し画像

動物病院での犬と猫の病気:下痢(9)  下痢の診断方法について② 便検査

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。

前回のnoteでは

下痢の診断方法の

問診と身体検査

について解説をしました。


今回は下痢の診断における便検査についてお話ししたいと思います。

3.便検査
身体検査の後は便検査を行います。

便検査に関しては以前概要をお話ししました。
ご覧になったことがない方は参考にしてください。↓

ご家族が便を持ってきているときは、まずは肉眼的検査により見た目から得られる情報を得ます。

便の肉眼的検査に関しては教科書的には次のようなことが言われています。

便の量:多い場合は小腸性、少ない場合は大腸性

便の固さ:固すぎる場合は便秘、柔らかすぎる、水様性の場合は下痢

便の色:茶褐色は正常
     暗赤色の血便は胃・小腸からの出血
     赤色の血便は大腸からの出血
     脂肪便(明るい色調で油状)は小腸性
     白色便は胆管閉塞

便の臭い:強い場合は小腸性の場合が多い。

粘液:粘液が付着している場合はほとんどが大腸性

※小腸性、大腸性に関しては過去のNOTEを参照にしてください。

肉眼的検査で便の状態を把握したあと、その便は顕微鏡で見るための直接法と浮遊法に回します。

そして愛犬・愛猫が診察に来られているときは、必ず肛門から採便棒(便をとるための細い棒)を利用して直接便を採取します。

このお尻から直接取る便がとても重要なんです!

子犬・子猫の便検査では寄生虫卵の検出のために浮遊法はとても大事になります。

ただ下痢が主訴で来院した成犬は、実際浮遊法で寄生虫卵が検出されることはほとんどありません。ほとんどの病院に来るような成犬は子犬の時に駆虫されているからです。そのため直接法の方が診断の上ではより重要になってきます。

しかし問診で

犬と一緒にアウトドアに出かけた!

最近保護犬を引き取った!

など外部要因による寄生虫卵の感染が疑われる状況があれば、もちろん浮遊法からの寄生虫が検出されることがあります。そのため私は持参の便がある場合はたとえ成犬であっても必ず浮遊法を行い、便検査における見落としがないように心掛けています。

画像1

特に思い当たる外部要因がない成犬が下痢をしました。
その際の下痢の原因はそのほとんどが

・消化不良
・腸内細菌のバランスが崩れ悪い菌(運動性細菌)が増えてしまっている
・ストレス

のどれかに当てはまります。
これらのうち悪い菌が増えているかどうかの判断は、お尻から直接採った新鮮な便を調べることが一番検出されやすくなります。

なぜなら腸内細菌はウンチとして体の外に出てから時間とともに活動性が低下してきてしまうからです。

また腸内細菌ではありませんが、下痢が続いている犬や猫の原因としてたまに検出されるのが原虫です。
特にトリコモナスジアルジアなどの原虫は、お尻から出た時点から急速に活動性が低下し、時間とともに検出率がどんどん下がってしまうのです。

※私の印象としてはは下痢が主訴で来院することが犬と比べてとても少ないのですが、その猫の下痢の原因として原虫は多いなと印象を持っています。
愛猫の下痢が治らないというご家族は、ぜひとも愛猫のお尻から直接採った便を主治医の先生に診てもらってください。ただ原虫に関してはたとえお尻から採った新鮮な便を調べても検出率自体があまり高くありません。一度調べて原虫がいなかったとしても安心はできません。
下痢が治らない際は何度でも便検査を行うことが大事になってきます。
参考にしてください。

なお治療に関しては消化不良・ストレスが疑わしい場合は、整腸剤や下痢止め薬を服用させることでそのほとんどが落ち着いてくれることが多いです。
そして運動性細菌や原虫が検出された際は抗生剤や抗原虫薬の投与をすることで治すことが可能です。

画像2

実際の動物病院では大部分の下痢がここまでの問診、身体検査、便検査により原因の推測ができ、その原因に合わせた治療をすることで下痢は治ってくれます。

厄介なのは便検査までの情報から行った治療で治らなかった下痢の場合です。
その場合はより稀な病気を考え、次のステップとしては血液検査を実施することになります。

次回につづく




参考文献:勤務獣医師のための臨床テクニック

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?