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「猫が30歳まで生きる日」

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。
今回私は皆様に紹介したい本があります。

こちらです! ↓

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「猫が30歳まで生きる日」
著者:宮崎徹 東京大学大学院医学系研究科 教授


読んだ感想としては

まずは何よりも宮崎教授の研究に対する姿勢には、ただただ敬服するばかりです。

そしてその考え方にとても共感をし、

自分でも何かできることがあれば宮崎教授のお手伝いをさせてほしい!

と本当に思いました。

そのため以後私の主観が多く入ってしまいますが、この本を読んで私が伝えたいことをかいつまんでお伝えしたいと思います。

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この本は

タイトルにもあります「猫が30歳まで生きる日」

を実現させる可能性を秘めたタンパク質である「AIM」に関するお話で、

宮崎教授のこれまでの「AIM」に関する研究の道筋を描いています。


① 治せない病気を治したい


まず私が共感したのが、宮崎教授の<治せない病気>を治したいという考えです。

宮崎教授が臨床医として働いていた時に、自分の受け持つ患者さんにできるだけ長い時間寄り添いたいという気持ちがある一方、研修医として現場で多くの患者さんを診療すればするほど、特に内科領域では、いかに<治せない病気>が多いか、という事実に直面したそうです。
また内科の教科書には、「この病気にはこの治療法を」とはっきり書かれているものの実際に臨床の現場に立ってみると、教科書に書かれている「治療法」を施しても快方に向かうことのない<治せない病気>をかかえる患者さんに数多く出会ったそうです。
そのような経験から<治せない病気>を治せないのは、病気の発生や進行の仕組み自体がわかっていないことが大きな原因の一つであると気づき、そのような病気に対する根本的な治療法をいつか開発したいという思いから、臨床を離れ、免疫学の基礎研究へと仕事の場をかえたそうです。


私も動物病院という臨床の場で日々患者さんに向き合っていく上で数多くの<治せない病気>に直面しています。

宮崎教授が考えた根本的な治療法を開発したいという思いに実は私もなったことがあります。

ただ私はそこで基礎研究への道を選ぶことはせず目の前の飼い主さんに向き合う道を選び、今に至っています。

動物病院で働く獣医さんの多くは<治せない病気>に毎日向き合っています。そのためこの宮崎教授の考えには共感する方は多いのではないかと思っています。


② AIMとは?

AIMとは宮崎教授が33歳の時に海外のバーゼル免疫学研究所で偶然発見したタンパク質です。発見当時は

・「マクロファージ」だけが産出するタンパク質で、しかも血液中にかなり多く存在している。

・マクロファージを長生きさせる(死ににくくする)作用を持つ。

が分かっており、

Apoptosis・・・細胞死
Inhibitor of・・・抑制する
Macrophage・・・マクロファージ

⇒ AIM「マクロファージの細胞死(アポトーシス)を抑制する分子」

と名付けられました。

※マクロファージとは体の中で不要なものを食べて体内を掃除する役目の細胞です。

AIMはその後、宮崎教授によりさまざまな角度から研究されましたが、体の中の主たる機能はなかなか解明されませんでした。

しかし宮崎教授のAIMに対してのあきらめない姿勢と偶然出会った様々な人から考え方のヒントをもらい、AIMの機能が徐々にわかってきました。

AIMは体の中の不要物(生体ゴミ)に付着し、マクロファージがその付着したAIMを認識し、不要物を食べることが分かったのです。

その機能が分かってから、教授の今までの研究内容を振り返ると、
肥満や、肝臓癌、そして腎臓病を改善させるのにAIMが関与することが分かったのです。


③ 猫の腎臓病とAIMについて

AIMの研究をしているうえで、

「ヒトやマウス以外の動物のAIMはどうなっているのだろう?」

という疑問からさまざまな動物のAIMを調べたところ、猫は体の中のAIMが反応しづらいことが分かりました。

そして宮崎教授の講演を聞いた二人の獣医師との偶然の出会いをきっかけに、宮崎教授はほとんどの猫が腎臓病で亡くなることを知りました。


ちなみにこの本の中で紹介されていた獣医師の小林元郎先生は私が東京の病院の勤務医時代に何度かお会いしたことがありますが、周りの方を包み込むような穏やかな人柄で、獣医療の将来をとても考えられていた尊敬すべき方でした。

その小林先生が講演後に何時間も並んで宮崎教授に猫のAIMについて質問したことが、後のAIM治療薬の開発につながっていることに私はとても感動を覚えました。

小林元郎先生、宮崎教授に質問をしていただきありがとうございました!!



それから腎不全末期の猫にAIMを投与すると劇的に症状が改善されることが分かり、本格的に猫の腎臓病の開発に舵を切るようになります。

その後も様々な困難が立ちはだかるのですが、その都度それを乗り越えます。

そしてあともう少しで完成!

というところで、
現在世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症により、猫の腎臓病薬の開発中断が余儀なくされてしまったのです。

開発が中断されても宮崎教授は決してあきらめることなく、さまざまなところに協力を求めながら猫の腎臓病薬の開発再開のためにできる限りの行動をされています。

現在宮崎教授は猫の腎臓病の開発に全力を注がれていますが、猫の腎臓病薬が完成し実際猫の腎臓病が治るようになればそのデータを元にヒトの腎臓病薬の開発も進めることが可能になります。

そしてヒトの腎臓病薬を治すことが出来るようになれば、他の様々な<治せない病気>を治せるようになってきます。

宮崎教授の研修医時代に思い描いた『治せない病気を治したい』から今にすべてがつながっているのです。

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私はこの本を読んだだけですが、宮崎教授の治せない病気を治したいという強い信念、そして何度困難にぶち当たってもあきらめず何としても薬を完成させるんだという一貫性のある姿勢に強く強く共感をしました。

私は獣医師として動物病院で毎日のように腎臓病で苦しむ猫を診察しています。

そんな苦しむ猫を少しでも減らしていきたい。

そのように日々感じている中で私はこの本に出合いました。

このAIMによる治療薬が完成すると、その治療薬は本当に腎臓病で苦しむ猫の救世主になるかもしれません。


以前犬では「フィラリア症」という病気が、犬の死因の大部分を占めていました。

それがノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智博士のイベルメクチンという薬によってフィラリア症にかかる犬が劇的に減り、使用前の時代と現在では犬の寿命が約2倍に延びました。

現在、この犬のフィラリア症は、イベルメクチンを投与することにより100%予防できるようになりました。

病気の種類は違いますが、私としては宮崎教授の発見したこのAIMにより、
猫の腎臓病が予防可能な病気になってほしい。

そしてそのさらに先に、ヒトの<治せない病気>である腎臓病を治せる病気にしてほしい。

そしてそしてそして、願わくばぜひとも宮崎教授に大村博士のようにノーベル賞をとっていただきたいです。(これは私の完全な願望です。)


現在東京大学では
宮崎徹教授による猫の腎臓病治療薬研究への寄付も行っています。

私も少額ではありますが、寄付させていただきました! ↓


私は現在獣医師という仕事をしているので、もし今後猫の腎臓病薬の治験などができることになった際は、できる限り協力をさせていただきたいと思っています。


ちなみにですがこの「猫が30歳まで生きる日」の印税の一部は、ネコと人間の腎臓病研究などの費用に充てられるそうです。

私のこのNOTEを読んで興味を持たれた方がいらっしゃいましたらぜひお読みになってください。↓


いろいろお話してきましたが、「研究」と聞くと、堅苦しく難しそうなイメージですが、この本は専門用語をほとんど使用することなく、分かりやすい表現で書かれていたのでとても読みやすかったです。
そして時系列に少しずつ「AIM」の謎が紐解かれる様子が、まるで研究者の頭の中を垣間見るようで私としては読み物としてもとても読みごたえがありました!

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今後ともこのNOTEでは、今回だけで終わることなく私は宮崎教授を応援していきたいと思っています。

私はいずれこのNOTEで有料記事も書いていこうと考えていましたが、もしもその有料記事が売れた暁にはその売り上げの一部を宮崎教授への寄付にまわそうと検討しています。

気持ちだけ先走ってしまっていますが、そのためには皆様に読んでもらえるような良い内容の有料記事を書かねばいけないですね。

今回のNOTEはかなり長編になりましたが、以上になります。


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